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アリシア編
49.口を割ってくれるかどうか、ね
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アリシアがトラヴァスと話し合ってから、二週間が過ぎた。
部下たちはそれぞれに動きを見せて報告してくれる。
マックスもあの手この手を駆使したようで、過去のヒルデの相手、ロメオとルードンから証言を得ることに成功していた。
ジャンはフラッシュと連携し、犯人を数名にまでに絞り込んで調査中だ。
そして医療班を調査していた敏腕ルーシエは。
「毒薬を用意したのは、ザーラで間違いないと思われます」
なんと、もう犯人を特定し、先ほど拘束したとの報告を受けた。
「ザーラ、ですって?」
他の直属の部下たちは出払い、執務室にはアリシアとルーシエだけだ。
犯人の一人の名前を聞いて、アリシアは眉を寄せた。
ザーラは優秀な高位医療班で、まだ三十代半ばの女医である。あのハナイの森別荘で、王妃マーディアに付き添っていた一人だ。
王レイナルドからの信頼も厚く、多くの者が彼女により救われている、医師の鑑のような人物である。
だからそんな彼女が犯人だと言われても、まさかという思いしか出てこなかった。
「ザーラがラウ派だという話は、聞いたことがなかったけど……」
「ラウ派ではありません。むしろ、ラウ側を恨んでいる方かと」
「ラウ側を恨んでいて、どうしてルナリア様殺しに加担したの?」
アリシアの疑問に少し長くなりますがと前置きをして、ルーシエは語ってくれた。
ザーラが軍医になったのは十四年前、彼女が二十歳の時だった。その当時、ザーラはロメオという男と付き合っていたらしい。
「あら、ロメオって確か……」
「はい。マックスが説得していた、王妃様の一人目の浮気相手です」
ロメオはヒルデに目を付けられた男の一人だったのだ。
今のトラヴァスと同じように、ヒルデの相手をさせられていた。
おそらくザーラは、ロメオの様子がおかしいことに気付いたのだろう。そしてそのロメオは、フリッツ王子が生まれて半年後、いきなり騎士を辞めている。
今の彼は騎士とはまったく関係のない、飲食店で働いているそうだ。
「ロメオは、恋人のザーラに退職の理由を明かしていないようでした。二人はその時に別れたようですが、ザーラは不審に思い、独自になにがあったかを調べていたようです」
ザーラは勤勉で優秀であったので、女医として王や王妃の信頼を得ていった。
「そしてこれは私の予想ではあるのですが、二人目の騎士……ルードンが王妃様と不貞している事実を、ザーラは知っていたのではないかと思います」
「どうしてそう思うの?」
「当時の薬の出入帳を見てみますと、避妊薬が大量に使われていました。この薬は女性騎士に処方することが可能ですが、処方されたはずの者に尋ねてみても、そんなものを飲んだ覚えはないということでしたので」
「そう。そしてそれを処方していたのが、ザーラなのね」
「はい。他の騎士に処方していたと見せかけて、王妃様に流していたと思われます」
世継ぎは、多ければ多いほどよいとされている。王妃が避妊薬を飲むなど、通常は有り得ないことなのだ。
「なるほど……ヒルデ様は、色々と嗅ぎ回っていたザーラにも、不貞に加担させたのね」
「断れなかったのでしょう。王妃様の不貞を暴けば、芋づる式に元恋人であったロメオのことも知られてしまう。そうすれば彼の命はありませんから」
こうしてヒルデはザーラを強引にラウ派に引き入れたのだろう。ザーラにはまったく忠誠心などなかったであろうが。
ザーラはヒルデに逆らえず、言うことを聞くしかなくなってしまったのだ。お陰で二人目の男、ルードンの時には妊娠せずに済んでいるし、今のトラヴァスもおそらく大丈夫だろう。
「それで、今回ルナリア様に手をかけたのは、ザーラなのね?」
「それはこれから聴取していきますが、恐らくは。毒薬庫から薬を持ち出せるのはごく限られた人物だけで、もちろんザーラもその中に入っています。薬を持ち出されたとされる時間のアリバイを調べても、彼女にはありませんでしたし、私はほぼ間違いはないかと思っております」
「あとは、彼女が口を割ってくれるかどうか、ね」
ルーシエの話では憶測の部分も多く、証拠としては成り立たないだろう。
本人からの証言は必須だ。ルナリアを殺す毒を用意したという……そして、黒幕はヒルデであるという証言が。
「その推測が事実だとすると、やっぱりヒルデ様はフリッツ王子を唆したルナリア王女が気に入らなかったから、ってこと?」
「それもあるでしょう」
「それも……ということは、他にも?」
アリシアの質問に、ルーシエは首肯する。
「これも恐らく……ですが、ルナリア様とザーラは繋がっていた可能性があります」
ザーラが、殺したルナリアと繋がっていた。
その意味がよくわからず、アリシアは首を捻らせる。
たしかに、繋がりはあった。ザーラは第一王妃のマーディアが心神喪失状態になった時、王妃の専属女医としてハナイの森別荘にいたのだから。
そこに住んでいたシウリスやルナリアと接する機会も多かったはずである。
部下たちはそれぞれに動きを見せて報告してくれる。
マックスもあの手この手を駆使したようで、過去のヒルデの相手、ロメオとルードンから証言を得ることに成功していた。
ジャンはフラッシュと連携し、犯人を数名にまでに絞り込んで調査中だ。
そして医療班を調査していた敏腕ルーシエは。
「毒薬を用意したのは、ザーラで間違いないと思われます」
なんと、もう犯人を特定し、先ほど拘束したとの報告を受けた。
「ザーラ、ですって?」
他の直属の部下たちは出払い、執務室にはアリシアとルーシエだけだ。
犯人の一人の名前を聞いて、アリシアは眉を寄せた。
ザーラは優秀な高位医療班で、まだ三十代半ばの女医である。あのハナイの森別荘で、王妃マーディアに付き添っていた一人だ。
王レイナルドからの信頼も厚く、多くの者が彼女により救われている、医師の鑑のような人物である。
だからそんな彼女が犯人だと言われても、まさかという思いしか出てこなかった。
「ザーラがラウ派だという話は、聞いたことがなかったけど……」
「ラウ派ではありません。むしろ、ラウ側を恨んでいる方かと」
「ラウ側を恨んでいて、どうしてルナリア様殺しに加担したの?」
アリシアの疑問に少し長くなりますがと前置きをして、ルーシエは語ってくれた。
ザーラが軍医になったのは十四年前、彼女が二十歳の時だった。その当時、ザーラはロメオという男と付き合っていたらしい。
「あら、ロメオって確か……」
「はい。マックスが説得していた、王妃様の一人目の浮気相手です」
ロメオはヒルデに目を付けられた男の一人だったのだ。
今のトラヴァスと同じように、ヒルデの相手をさせられていた。
おそらくザーラは、ロメオの様子がおかしいことに気付いたのだろう。そしてそのロメオは、フリッツ王子が生まれて半年後、いきなり騎士を辞めている。
今の彼は騎士とはまったく関係のない、飲食店で働いているそうだ。
「ロメオは、恋人のザーラに退職の理由を明かしていないようでした。二人はその時に別れたようですが、ザーラは不審に思い、独自になにがあったかを調べていたようです」
ザーラは勤勉で優秀であったので、女医として王や王妃の信頼を得ていった。
「そしてこれは私の予想ではあるのですが、二人目の騎士……ルードンが王妃様と不貞している事実を、ザーラは知っていたのではないかと思います」
「どうしてそう思うの?」
「当時の薬の出入帳を見てみますと、避妊薬が大量に使われていました。この薬は女性騎士に処方することが可能ですが、処方されたはずの者に尋ねてみても、そんなものを飲んだ覚えはないということでしたので」
「そう。そしてそれを処方していたのが、ザーラなのね」
「はい。他の騎士に処方していたと見せかけて、王妃様に流していたと思われます」
世継ぎは、多ければ多いほどよいとされている。王妃が避妊薬を飲むなど、通常は有り得ないことなのだ。
「なるほど……ヒルデ様は、色々と嗅ぎ回っていたザーラにも、不貞に加担させたのね」
「断れなかったのでしょう。王妃様の不貞を暴けば、芋づる式に元恋人であったロメオのことも知られてしまう。そうすれば彼の命はありませんから」
こうしてヒルデはザーラを強引にラウ派に引き入れたのだろう。ザーラにはまったく忠誠心などなかったであろうが。
ザーラはヒルデに逆らえず、言うことを聞くしかなくなってしまったのだ。お陰で二人目の男、ルードンの時には妊娠せずに済んでいるし、今のトラヴァスもおそらく大丈夫だろう。
「それで、今回ルナリア様に手をかけたのは、ザーラなのね?」
「それはこれから聴取していきますが、恐らくは。毒薬庫から薬を持ち出せるのはごく限られた人物だけで、もちろんザーラもその中に入っています。薬を持ち出されたとされる時間のアリバイを調べても、彼女にはありませんでしたし、私はほぼ間違いはないかと思っております」
「あとは、彼女が口を割ってくれるかどうか、ね」
ルーシエの話では憶測の部分も多く、証拠としては成り立たないだろう。
本人からの証言は必須だ。ルナリアを殺す毒を用意したという……そして、黒幕はヒルデであるという証言が。
「その推測が事実だとすると、やっぱりヒルデ様はフリッツ王子を唆したルナリア王女が気に入らなかったから、ってこと?」
「それもあるでしょう」
「それも……ということは、他にも?」
アリシアの質問に、ルーシエは首肯する。
「これも恐らく……ですが、ルナリア様とザーラは繋がっていた可能性があります」
ザーラが、殺したルナリアと繋がっていた。
その意味がよくわからず、アリシアは首を捻らせる。
たしかに、繋がりはあった。ザーラは第一王妃のマーディアが心神喪失状態になった時、王妃の専属女医としてハナイの森別荘にいたのだから。
そこに住んでいたシウリスやルナリアと接する機会も多かったはずである。
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