娘のように、兄のように

長岡更紗

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コリーン編

第29話 新聞に

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 コリーンとロレンツォがイースト地区に移り住んでしばらくすると、想定していた通りに記者がやって来た。
 全てロレンツォが対応してくれ、コリーンへの取材は一切無いように計らってくれた。ロレンツォは予定通りにコリーンを恋人だと宣言し、世間はロレンツォに注目していた。

「騎士隊長ロレンツォ、結婚秒読みか?!……だって。適当書いてるなぁ」

 コリーンが新聞を読みながら溜息をつくも、ロレンツォに気にした様子は見られない。

「どれどれ。世紀のフェミニストと名高いロレンツォが、トレインチェ市内の大学に通うAさんと同棲を始めて早六ヶ月。二人がいつも仲睦まじく出勤・登校している姿が目撃されている。渦中のロレンツォに結婚の意思を問うたところ、まだ彼女は学生ですからと言葉を濁されてしまったが、その顔は満更でもないようだった。これはAさんの卒業を待たずに結婚もあり得るか? 続報を待て……っぷ、はははっ」
「もう、笑い事じゃないよ。大学でもAさんってコリーンの事でしょって言われて、困ってんだから」
「困る必要なんてないないだろう。そうだと答えてやればいい」
「そうなんだけどさ」

 ロレンツォはこういう記事が出るたび喜んでいる。基本、注目を浴びるのが好きなのだ。こちらは出来るだけ目立たず騒がず大学を卒業したいというのに。

「用意は出来たか?」
「うん」
「じゃあ行くか」

 コリーンとロレンツォは馬に跨って、ノルトへと向かった。今日はユーファミーアの結婚式である。式に間に合うように、二人は朝早く家を出た。

「余裕を持って行きたいからな。少し飛ばすが、ついて来られるか?」
「うん、大丈夫だと思う」
「よし、行こう」

 ロレンツォは馬を走らせながらも、時折振り返ってコリーンがついて来られているか、確認をしてくれている。
 街道沿いを行ったので、魔物も出る事なく、快適な馬の旅であった。
 しかしノルト手前まで来るとコリーンの体力が尽きてきて、馬の速度を落とす。するとそれに気付いたロレンツォも速度を緩めて並走してくれた。

「大丈夫か、コリーン」
「うん、でもちょっと足に来ちゃった」
「少し休憩するか」
「大丈夫、ゆっくり行くからロレンツォ先に行ってて。すぐそこだし」
「いや、一緒に行こう。まだ時間はあるしな」

 久々の乗馬、久々の遠乗りで疲れてしまった。それでなくとも最近勉強ばかりでまともに運動してない。

「はー、勉強ばかりしてないで、何かスポーツしなきゃなぁ」
「コリーンがスポーツとは。縁遠い話だな」
「そうなんだ。実は、小学の体育教科で躓いてたりする」
「何だ? 前転か?」
「馬鹿にしてる? 逆上がりだよ」
「っぷはははは」

 コリーンがそう言うと、ロレンツォは盛大に笑った。コリーンはそんなロレンツォを見て、頬を膨らせる。

「もう、笑い事じゃないよ。もし出来なくても教師になれないわけじゃないって先生は言ってくれたけどさ。周りが簡単に出来てる中、一人もがいてるのは恥ずかしいよ……」
「おかしいな、そんなに尻が重いようには見えないが」
「それ、世間的にはセクハラ発言だからね」
「そうか、気をつけよう」

 やはりロレンツォはからから笑っている。

「他人事だと思って……私が逆上がりも出来ないのは、ロレンツォに勉強ばかりさせられてきた所為なんだよっ」
「責任転嫁をするなよ」
「私、年だから逆上がり出来ないのは仕方ないって言われてるんだから! 法的には二十七歳だから、十八、九歳の子達に同情の目で見られてさ! 私本当はまだ、二十一歳なのに!」

 恥ずかしいのと腹が立つのを思い出して、コリーンは何を言っているのか分からなくなってきた。しかしロレンツォにその苛立ちは通じた様だ。

「じゃあ、逆上がりの特訓でもするか?」
「っう。はぁ。人に見られるのは嫌なんだよね……」
「教師になろうとする者が、恥ずかしいからって努力せずにどうする」
「そうなんだけど……私は高校の歴史の教師になるつもりだから、まぁいいかな……なんて」
「へぇ、歴史希望だったのか。てっきり国語教師になるつもりだと思ったが」
「うん、在学中に二つの資格を取れるから、歴史と現代文にするつもり」

 歴史は割と人気の教科なので、どこの学校もあぶれるらしい。なので現代文の教師として働く事になりそうだったが、それはそれで構わない。
 そんな事を話していると、ノルト村に到着した。村はすでにユーファミーアの結婚準備でおおわらわだ。この村での結婚は、村をあげて行うものらしい。

「お、ロレンツォ! ユーファミーアちゃんの結婚おめでとう!」
「本人に言ってくれ、本人に」
「おやロレンツォちゃん、後ろの女の子は今話題のAさんかい?」
「俺の事はまた今度にしてくれ、おばちゃん」
「ロレンツォ! 今日の新聞見たぞ!」
「そりゃどうも。そういうわけだからコリーンは諦めてくれ、ノートン」

 次々と話しかけられながら村の奥にある家へと向かう。中に入るとロレンツォの家族がてんやわんやしていた。

「ああ、おかえりロレンツォ! コリーンちゃんも! ちょっと悪いんだけど、その辺の物適当に食べて! お腹減ったでしょう」
「俺はいい。結婚式の時に適当に食べるよ。ユーファはどこだ?」
「奥の部屋で着付け中よ。ロレンツォは入っちゃ駄目ですからね」

 母親に言われて、ロレンツォはハイハイと返事をしている。

「で、父さんとバートは?」
「村の教会で準備中よ。ロレンツォも手伝って来て頂戴!」
「分かった。俺は行くが、コリーンはここで少し食べて行くか?」
「私も後でいいから、一緒に手伝いに行くよ」
「あ、それじゃあコリーンちゃんは、こっちで料理の手伝いをしてくれない? もう、手が足りなくて」
「はい、分かりました」

 ロレンツォの母親のセリアネは、沢山の野菜の下ごしらえを頼んで来た。来客は村人全員である。百数十人分の料理を、村の女達が各家庭で調理し、持って行くのが習わしなのだそうだ。もし料理が足りなくなると主役である花嫁に恥を欠かせてしまうため、花嫁の母親は必死になって沢山の料理を作るのだという事だった。

「すみません、前日から来ておけば良かったですね。こんなに沢山、大変だったでしょう」
「いいのよいいのよ、母親の喜びでもあるんだから。それを切り終わったら、こっちを炒めてくれる?」
「はい」
「最近新聞に載ってる、ロレンツォと同棲してるAさんってコリーンちゃんよね?」

 いきなり何の脈絡もなく問われて戸惑う。しかし否定するのはおかしい。

「え、ええ、まぁ……すみません」
「まぁ、謝らなくっていいのよ! ユーファや皆と、絶対そうだって話してたの。結婚式は、やっぱりトレインチェで挙げたいのかしら? コリーンちゃんはトレインチェ出身だものね」
「えっと、別にそういうつもりは……」
「あら、じゃあ是非ノルトで挙げて頂戴! 私、コリーンちゃんの為にお料理頑張るわよ」
「あ、はい……」

 ありがとうございます、とごにょごにょ言って野菜を切って行く。人を騙すというのはやはり気が引けたが仕方ない。その話題はなるべく避けて、コリーンは彼女を手伝った。
 セリアネは手際よく料理を仕上げて行く。大変な作業だ。
 それを全部作り終えたのは、コリーンが手伝い始めて一時間後の事である。二人はずらっと並べられた料理を見て、ふうっと一息ついた。

「これだけあれば、料理が足りなくなる事はないかしら。私の友達にも、なるべく多目に作って貰うよう頼んだし」

 その時、後ろの部屋の扉が開いた。中から知らない人が顔を覗かせている。セリアネの友人のようだ。

「セリアネ、ユーファちゃんの着付け終わったわよ!」
「まぁ、本当!? 見に行きましょう、コリーンちゃん」
「え、いいんですか?」
「いいのよ、女の特権よ」

 セリアネに促されるまま、どきどきとその扉を通過する。
 その先には、純白のドレスを着たユーファミーアがいた。背が高く痩せ型のユーファミーアが、真っ白いマーメイドドレスを着ているのは、本当に様になる。
 美しく化粧を施され、その金髪も凝ったアップにされていて、どこから見ても美しい。

「コリーン、来てくれたの!?」
「はぁああ………ユーファさん、綺麗……」
「うっふふっ。ありがとう」

 美女にドレスというのは、どうしてこうも似合うのだろうか。羨ましい限りである。
 ユーファミーアはセリアネと話をしている。今までありがとう、とかいうようなしんみりしたものではなく、ただの世間話だ。結婚といっても村から出るわけでもないので、そんな神妙にはならないのだろう。二人ともからからと笑っている。

「ああ、やっぱりAさんはコリーンだったのね! 本当の家族になれるのが待ち遠しいわ!」
「きっとすぐよ、結婚は秒読みだって書いていたもの。楽しみね!」

 これは否定した方がいいのだろうか。しかしこれから結婚式だというのに、雰囲気を悪くしたくはない。仕方なくコリーンは曖昧に笑っておいた。

「さあ、今から会場に行くわよ! コリーンちゃん、馬車は扱える?」
「ええ、大丈夫です」
「じゃあ、ユーファを乗せて先に行ってて頂戴。私達は料理を乗せて行くから」

 コリーンは承諾し、先に服を上等のワンピースに着替えた。そしてユーファミーアを馬車に乗せると、バッグから小瓶を取り出す。

「ユーファさん、結婚おめでとうございます。これ、結婚後に渡そうと思っていたんですが、もし良かったら今つけてもらえませんか?」
「あら、香水? いいわね、お願い!」

 コリーンは微笑み、その香水をユーファミーアにつけてあげた。
 思った通りユーファミーアには、フローラルアルデハイディック系の高貴な香りがよく似合う。

「はぁ、良い香り。流石センスがいいわね。兄さんの香水を選んだのも、コリーンでしょう?」
「ええ。気に入って貰えました?」
「当然よ! 後でちゃんと頂戴ね!」

 勿論ですとコリーンは頷き、馬車をゆっくりと出発させる。
 後ろからコリーンセレクトユーファミーアヴァージョンが漂って来て、コリーンは笑みを浮かべながら村の教会に向かった。
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