3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
497 / 734
学院高等部 青学年生

危機

 お義父様にもプレ社交会のパートナーにサミュエル先生をという話をして、無事に許可をもらった。

 翌日、別邸に帰ろうと玄関ホールで話をしていると、「キャハハハハ」というカティさんの笑い声が聞こえた。

「走っておられますわね」

「止めるか?」

「カイルなら止められるだろうけどねぇ」

 階段上に姿を現したカティさんが、パァっと顔を輝かせて、階段を走り降りてきた。

「先生っ」

「カティさん、ゆっくり降りてくださいっ」

 私の声もむなしく、足を滑らせたらしいカティさんが、階段を転げ落ちた。

「カティさんっ」

「キャシーちゃん、出血が」

 ジワリと絨毯に赤色が広がる。まさか、流産した?

「先生、母体の方をお願いします」

「キャシーちゃんは?」

「胎児を。助けられるかどうかは不明ですが」

 使用人と共に、ローレンス様お義兄様が走ってきた。

「キャシー」

「お義兄様、下がっていてください。処置中です」

「しかし……」

「お下がりください。潜在医師2名に光魔法使いが2名いるのです。今は処置中です。邪魔をしないでください」

 はっきり言うと、少し距離を取ってくれた。

 再びカティさんの処置に当たる。

 カティさんの出血は続いている。とにかく血を止めないと。けれど身体内部の止血は光魔法でも無理な話だ。でも出血が続くと胎児にも影響が出る。

 やるしかない。

 意識を集中させて、カティさんの子宮内の出血部位の止血を図る。出血が収まってくるとホッとすると同時にクラっときた。魔力切れじゃないよ。集中しすぎただけだと思う。胎児も無事なようだ。強い子だ。そのままスクスクと育ってほしい。

「キャシーちゃん」

「先生、カティさんの方は?」

「頭は打っていないけど、あちこち打撲がね。そっちは?」

「出血は止まったと思います。しばらくは安静にしないと流産の可能性がございますが。お子様はご無事なようです」

 ホゥっと周りから安堵のため息が漏れた。

「魔力量に余裕は?」

「ございますが?」

「無理はしていないね?」

「はい」

 駆け付けたウェイド先生が、担架を持ってきてくれた。「大丈夫だよ、歩けるったら」と言うカティさんをローレンス様お義兄様が叱り飛ばして、担架に乗せて寝室に運ぶように指示した。

「ブランジット様、キャシー、ありがとうございました」

「職務だからね。しかしあのままだと心配だね」

「僕も何度も注意しているのですが」

わたくしが少しお話いたしましょうか?」

「キャシーちゃんが?」

「女性同士ですもの。それにわたくしはなぜかカティさんに懐かれているようですし」

「たしかにキャシー先生はいつ来るの?と何度も聞いていたが」

「キャシーちゃんは平気かい?」

「はい」

 ハウスメイドお掃除メイド達が床のお掃除を始めた。邪魔にならないようにローレンス様お義兄様とカティさんの寝室に行く。

 2階の日当たりの良い部屋が、カティさんの寝室だった。どうやらローレンス様お義兄様と同室ではないらしく、ローレンス様お義兄様のお部屋は隣だと説明された。

「大丈夫かな?」

「はい。大丈夫そうです」

 レオナルドさんとマリアさんには廊下で待っていてもらって、私とサミュエル先生とローレンス様お義兄様の3人で寝室に入る。

「あっ、キャシー先生」

 意識はハッキリしているようだ。出血が多かったから少し心配していたけれども良かった。

「カティさん、走るなと申し上げましたでしょう?」

「ごめんなさい」

「赤ん坊の命を危険にさらしましたのよ?走るなと言ったのは、嫌がらせでもなんでもないのです。あのような事故が起こる可能性を、少しでも減らしたいと思っての事ですのよ?」

「はい」

 ベッドの中の顔が落ち込んだようにシュンとなった。

「反省なさっておられますか?」

「反省してます」

「お腹のお子様には異状は見られませんでしたが、流産しかけましたから、しばらくは安静になさってくださいませ」

「しばらく?しばらくってどの位?」

「しばらくですわ」

「具体的には?」

「そうですわね。スタヴィリス国の歴史をそらんじられるようになるくらいでしょうか?」

「え゛……」

 そんな絶望的な顔をしなくても。

「キャシー、非常に言いにくいんだが、カティの1番苦手な分野だ」

 ローレンス様お義兄様が苦笑しながら言う。

「歴史の暗記が?」

「歴史に限らず、暗記はすべて不得手だ」

 あらまぁ。

「ちょうど良いではございませんか。ずっとベッドの上は退屈でしょうし」

「キャシーちゃん、それはちょっと……」

「スタヴィリス国は建国800年ですもの。歴代国王すべては大変でしょうから、建国王から5代までと今代国王、レオナルド・マナーク・スタヴィリス陛下までの5代程覚えられるとか。いかがですか?」

「うぐっ、そんなに?」

「10人ほど覚えれば良いのですわ。簡単でしょう?」

 スタヴィリス国は王家が変わっていない。だからすべて最後はスタヴィリスで終わる。覚えやすいと思う。

「キャシー先生って意地悪だね」

「そうでしょうか?妊婦でありながら走るなと言う医師の言葉を聞かずに、階段から落ちたカティさんには良い薬だと思ったのですが」

「それを言われると……」

「お腹の子の命を危険にさらした罰だと思って、受け入れてくださいませ?」

「……はい」

 ひとまずはこれで良いと思う。10日後位に診察かな?ウェイド先生に頼もうかしら?

「先生、また来てくれる?」

「確実とは申せませんわね。わたくしも色々と……」

 あ、王子殿下のお披露目のお茶会と夜会ももうすぐだ。こっちの用意もしなきゃ。

「サミュエル先生、アクセサリーの相談が」

「あぁ、あれももうすぐか。ジェームスには言っておいたんだけど」

「正式に届いていましたわよ?」

「マジか……」

 先生ったら、レオナルドさんの言葉遣いが移ったのかしら?

 昨日着替えに自室に行ったら、ニコニコのフランから2通の招待状を手渡されたのよね。お茶会と夜会の日は私の誕生日の前日。

 お茶会と夜会の衣装は夏期休暇中に注文してあって、後は夜会のアクセサリーを合わせるだけになっていた。アクセサリーはサミュエル先生が用意してくれると言っていたから、お任せしてある。

「アクセサリー?」

「はい。近々必要ですので」

「夜会でもあるの?」

「ございますけれど」

「これ以上は正式発表されてからだね。年明けには発表されるよ」

 侯爵邸に居住していても、今のローレンス様はそういった公式行事に参加出来ない。療養中であるという建前上、ローレンス様は公に楽しむ事が出来ない。

 カティさんもそういった華やかな場に参加したいと思う。でも、カティさんの場合はマナー方面を理由に参加はさせられない。今は体調面の問題もあるしね。

 今は体調面の不調からおとなしく出来ているけれど、たぶん不満は大きいと思うし、ストレスもあると思う。

「キャシーちゃん、そろそろ」

「はい。ではローレンス様お義兄様失礼いたします。カティさん、しばらくは安静ですからね?」

「はぁい」

 うーん、不満げだなぁ。しばらく2日~3日は大人しくしていると信じたいけれど。

「先生、1度別邸に戻るにしても、また本邸に戻ってこないといけませんわよね?」

「そうだね。キャシーちゃんが無理そうなら私が見に来るけど?」

「それが、思ったより平気なのです」

「吹っ切れたかな?」

「かもしれません」

「どう思う?」

 サミュエル先生が、レオナルドさんとマリアさんを見る。

「吹っ切れているとは思うぜ?油断は出来ねぇけど」

「そうですね。大丈夫な振りをするのが得意なお方ですし」

 大丈夫な振り、ですか。反論出来ません。いつもご心配を掛けております。

感想 103

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

契約結婚から始まる公爵家改造計画 ~魔力ゴミ令嬢は最強魔術師の胃袋をつかみました~

夢喰るか
恋愛
貧乏男爵令嬢エマは、破格の報酬に惹かれて「人食い公爵」と恐れられるヴォルガード公爵邸の乳母に応募する。そこで出会ったのは、魔力過多症で衰弱する三歳のレオと、冷酷な氷の魔術師ジークフリート。前世の保育士経験を持つエマは、自身の「浄化魔力」で作った料理でレオを救い、契約結婚を結ぶことに。エマの温かさに触れ、ジークフリートの凍りついた心は次第に溶けていく。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。