3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 最終学年生

咎人の娘

 屋敷の中を案内してもらう。お屋敷は中庭有りの回廊型で、1階はホールといくつかの部屋に分かれていた。

 2階は主に使用人の部屋。ここには将来の私の護衛も住む事になるらしい。ひとり部屋じゃなくて複数人で使う事になるらしいけれど、ちゃんと2部屋用意されていた。

 厨房も食堂も2階にあった。どれだけ広いの?

 3階は私とリーサさんとメアリー・ターナー先輩の部屋がある。こちらにも護衛の部屋があった。2部屋というのは、何人の護衛を想定しているのでしょうか?下にも2部屋あったよね?その他にも数人が泊まれる部屋が3部屋あったし、大きすぎない?このお屋敷。

「見るだけで疲れました」

「うふふ。お疲れ様」

「メアリー、お茶にしましょ?みんなも呼んできて」

「はい」

 ターナー先輩が、みんなを呼びに行ってくれた。その間にリーサさんがお菓子を収納ピアスから出して、お茶を淹れてくれる。

「キャスリーンさん、氷って出してもらえる?」

「はい。器はありますか?」

「あるわ。ここでちょっとしたお菓子も作れるようになっているのよ」

「もしかして、このお菓子……」

「私の手作りよ。セシルのレシピだから味は保証するわ。あの子ったら、レシピのアレンジは許してくれないのよ。これが1番美味しいからって」

「リーサさん、あの、ミリィちゃんってご存じですか?」

「知っているわよ。良い子でしょ?」

「はい。あの子、6歳位と伺いましたけれど」

「ネグレクトされていたようなのよ。警邏隊が捜索して、閉じ込められていたミリィちゃんを見つけたって話よ。酷いわよね」

「ご両親は何をしたのですか?」

 警邏隊が捜索という事は、ご両親が事件に関わったという事だ。それも加害者の立場。

「それは……。来ちゃったわね。後で言うわ」

 ターナー先輩が使用人たちを引き連れて戻ってきた。今日いる使用人は6人。それぞれきっちり教育は受けてきているけれど、私とリーサさんの方針で、休憩やお食事は出来るだけ揃って取る事になる。たぶん休憩は揃わなくなるんだろうな。魔道具はあるけれど大変だろうし。

「ターナー先輩……」

「駄目よ、キャシーちゃん。メアリーとお呼びなさいな」

 リーサさんに窘められた。

「がんばります」

 最近まで先輩だった人を、侍女として呼び捨てにするのは、ちょっと抵抗があるんだけどな。

「難しいわよね。あぁ、そうだ。みんなの名前を紹介しておくわね。家令がコンラット、執事がカルウィン、従僕がジェフリー、侍女がメアリー、メイドがクレアとポーラの2人よ」

「中庭にはセッカさんがいらっしゃいますよ」

 家令のコンラットの言葉に、思わず立ち上がりそうになった。

「今はレオナルドさんがお相手を」

 続くジェフリーの言葉に、少し落ち着いたけれど。

「あら?マリアさんは?」

「建物内のチェックをしていらっしゃいます」

「そうなのね」

「それでね、キャスリーンさん。いつから住み始める?私達はいつからでも良いわよ?」

「今日からは難しいですわね。お義父様とお義母様に相談してからになります」

「そうよね。待ってるわ」

 休憩のお茶会を終えて、メアリー達が仕事に戻っていく。

「あの子の事だけど」

 2人だけになったタイミングで、リーサさんが低い声で話し始めた。

「ネグレクトを受けていたって言ったわよね?あの子の親は商店で強盗をしようとして、捕まりそうになって暴れて、店主と従業員を刺したの。店主は軽傷だったんだけど、従業員は首を切られて亡くなったわ。ナイフを手に暴れたから商品もいくつも壊れたし、なにより店主が許す気は無いって言っていてね。今、親は牢屋に入っているわ。取り調べの途中でミリィちゃんが閉じ込められているって分かって、救出された時にはろくにお世話されていないっていうのがまるわかりだったって。緊急的に救民院に連れてこられて、それ以来治療に当たったララさんが居ないと、精神的に不安定になっちゃってね」

「どの位前の話ですか?」

「5月だったわ。私はその時、ここで最終確認をしていたんだけれど、騒がしくなったから気になって出ていったの」

「親はどちらも牢屋ですか?」

「片親だったみたいね。今回捕まったのは母親。近所の人に聞いても、ミリィちゃんが赤ん坊の時は見かけたって言っているらしいわ。その後は見た事がないって。私も協力しているから家に足を踏み入れたんだけど、腐臭が凄かったわ。ゴミ屋敷でね。屋敷っていっても、ワンルームだったけど」

 母親はシングルマザーだったらしい。ただし近所の人には「あの子は死んだ」と言っていたらしく、だからミリィちゃんに気付くのが遅れた。

 ミリィちゃんが発見されたのは、母親が捕縛されてから3日後。その間、飲まず食わずだったミリィちゃんは食事を出されても食べようとしなかったらしい。スプーンで掬って口許に差し出したらスゴく怯えていて、食事をさせるのも苦労したと、後からララさんに聞いた。

 最初は私と同じような境遇だと思ったけれど、私よりも劣悪な境遇だった。

「母親は今までも犯罪を繰り返していて、情状酌量の余地なし。近々鉱山へ送られると聞いたわ」

 ミリィちゃんにとっては離れた方が幸せだろうと思う。

「あのミリィちゃん、ちょっと見てやってくれないかしら」

「何か気になる事でも?」

「まじまじと見た訳じゃないから、なんとも言えないけど、目がね、なんだか違う気がするの。瞳孔がひとつじゃないというか。気の所為せいだと思うんだけど」

重瞳ちょうどうですか?」

重瞳ちょうどう?」

虹彩離断こうさいりだんという症状が悪化した物が重瞳ちょうどうです。多瞳孔症ともいいますが、医学的には多瞳孔症虹彩と呼びます。瞳孔が2つ以上ある状態ですわね。極々稀に先天性の方も居るようですが、たいていは後天性で、鈍的な外傷によって発症する事が多いようです」

「それによって、なんらかの不利益を被る事は?」

重瞳ちょうどう側は物が二重に見える単眼複視や、まぶしさ、不快感などが現れる事があります。酷い場合は外科的手術が必要となります」

「……」

「古代中国では、貴人の相と言われていたそうですわよ?」

「珍しいのよね?」

「そうですわね。先天性はデータがハッキリしませんし、後天性も統計を取っていないのか、こちらもハッキリしませんが。珍しいと思います」

「キャスリーンさんならなんとか出来る?」

「不明です」

「そう……」

 瞳孔をひとつにすれば良いんだけど、私はそんなope手術は見た事が無い。ope場手術室勤務はした事が無いと思うし。救急救命室ER室勤務はハッキリ記憶にあるのに。

「ハッキリ分かりますの?」

「そこまでハッキリじゃないかも?」

「診てみませんとなんとも言えませんわね」

「そうよね」

 ただ、私の夏期休暇は残りわずかだ。光魔法を使うなら早い方がいい。

 ミリィちゃんの体調と心の問題もありそうだし、そちらのケアも必要だけれど、それはララさんに任せればいいと思う。ミリィちゃんも懐いているようだし。

 今日はタウンハウス王都フェルナー邸に戻る予定だから、お義父様とお義母様に話をしないとね。

 その後少し救民院に顔を出した。お爺ちゃん先生達は以前と変わりなく接してくれたけれど、なんだか神官達やお手伝いをしてくれている人達によそよそしさを感じた。

「キャシーちゃんが卒業したら、光の聖女様となるのがほぼ確定しているでしょう?だからなんだか遠慮しちゃってるのよ。今までのように遠慮なく接して良いのかってね」

「そのような事、お気になさらなくともよろしいですのに。というよりも、そのようなお気を使われますと、寂しくなります」

「そうよねぇ。そう言ったんだけど。みんな、聞かないのよね」


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