3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 最終学年生

両親に相談だ

 タウンハウス王都フェルナー邸に帰ってきた。今日はあまり光魔法を使う機会がなくて(遠巻きにされていたし)普通に接してくれたのが孤児院の子達だけだったから、そちらにずっといた。

「お疲れですか?」

 フランが髪をかしながら気遣ってくれた。

「疲れてはいないの。でも妙に気を使われて、気疲れしちゃった感じかも」

「妙な気遣いですか?」

「変わらなかったのは、救民院のお爺ちゃん先生達とララさんだけ。他の人達は『もうすぐ光の聖女様になられるお方だから』って、距離は取られるし治癒しようと声をかけたら固まっちゃうし。仕方がないから今日は孤児院に居たわ」

「他の者達の気持ちも分かりますけどね。実感したのでしょうね」

「他にもお屋敷の引き渡しとかあったの」

「大きなお屋敷でしたでしょう?」

「知っていたのね?」

「存じ上げておりましたとも。ターナー家のメアリー様に技術をお教えしたのは、私ですよ?」

「そうだったの?そういえば、お屋敷の鍵に必要だと言われて、魔力の登録をしたのだけれど、わたくし、このタウンハウス王都フェルナー邸でそんな事はしていないわよね?」

「覚えていらっしゃいませんか?養子縁組が終わってすぐに、門柱に触れられましたでしょう?」

「あれがそうだったの?」

 覚えている。ローレンス様に連れられて、タウンハウス王都フェルナー邸から出て、「触ってごらん」って門柱の白いタイルを触らされた。手が届かなくて、抱っこしてもらったんだっけ。

「あれがそうだったのですよ」

「知らなかった」

「お珍しいですね」

 珍しいかしら?結構忘れてたり知らない事もあるんだけれど。

 夕食後にお義父様とお義母様と3人で話し合った。

「あの屋敷か。鍵は貰ったのだな?」

「はい。収納ピアスに入れてあります」

「それなら安心だな。その鍵はキャスリーンが所有者だという証だ。大切にしなさい」

「はい」

「いつ移るの?」

「決めておりません。それを相談しようと」

「お片付けのお手伝いに行くわよ?フランも張り切っていたわ」

「片付けのお手伝いと仰られましても」

 フランはともかく、お義母様はソファーでゆっくりしている所しか思い浮かばない。

「家具は気に入って?」

「はい。あの家具はお義母様が?」

「そうよ。キャシーちゃんの好みに合う物を作らせたの。大変だったわぁ」

「大変だったのですか?」

「他の奥様方が、キャシーちゃんの家具なら自分の領地で作らせるって聞かなくてね。遠い領地だと運送に手間がかかるでしょう?その辺りの調整が大変だったわ。でも、楽しかったのよ。嫁入り道具を選んでいるようで。そうそう。キャシーちゃんのパリュールも仕上がってきているのよ。どうする?」

「パリュールって、あの時の?」

 私が将来ローレンス様と結婚する時用にと、お義母様がフェルナー領で作らせていた装身具アクセサリーのセット。淡水真珠パールの大粒で形の良い物を選んで作らせていると言っていた。

「見てみる?」

「はい」

 お義母様が侍女に取りに行かせた。しばらくして戻ってきた侍女の手には、小さめのアタッシェケース位の装身具アクセサリーのケースがあった。お義母様がアタッシェケースを開けると、薄い布の緩衝材が現れた。

 この緩衝材は、布袋の中にブルラシュガマの穂を入れた物だ。中の物が動かないようになっている。

 緩衝材を取ると、ティアラ、ネックレス、イヤリング、ブレスレット、ブローチの5点セットが現れた。淡水真珠パールとはいえ、真円に近い大粒の物を選りすぐって作られたセットは、柔らかい輝きを放っている。

「綺麗……」

「職人達の渾身の作よ。付けてみる?」

「今はこのような格好ですし。もっと華やかな場所でお披露目したいと思います」

「楽しみだわ。この装身具アクセサリー達がキャシーちゃんの身を飾る日が」

 手を伸ばしかけて、慌てて引っ込めた。真珠は素手で触らない方が良い。指先の油脂や水分が付着して劣化を早める事があると教えてもらった。

 ハンカチを出して、慎重にブローチを手に取る。ブローチは銀色の光を放つ枝に金色の葉、枝の先にパールの実が生っている。パールの実は、ピンク、イエロー、ブルー、オレンジ、ヴァイオレットの5色。どれも淡いパステルカラーだ。

 細かく素晴らしい細工だ。職人の腕が分かる美しく繊細なブローチ。ローレンス様の事件が無ければ、後半年程でお披露目出来たのに。

 視界がゆらりと揺れた。フランがソッと私の手からブローチを取り上げる。

「キャスリーン、やはり我慢をしていたのだな」

「お義父様……」

「キャシーちゃんは立派よ。私達の自慢の娘だわ」

「お義母様……」

 膝に置いた手に温かい雫が落ちた。

「泣いてしまいなさい。ここには私達しか居ないわ」

「我慢強いのも考えものだな」

 ローレンス様を愛しいと思う気持ちは、封印出来たと思っていた。カティさんとの結婚も、ローレンス様が決めたのなら、と祝福したし、ルーカス甥っ子も可愛いと思う。

 なのに、パリュールを見たら涙が溢れてきた。心の底ではローレンス様の事を諦めてなかった?未練、なのかしら?

 泣き疲れる程ではなかったけれど、泣いてしまったら少しスッキリした。

「もう良いの?」

「はい。お恥ずかしい所をお目に入れました」

「親の前で泣く事の何が恥ずかしいものか。キャスリーンは我慢しすぎだ。もう少し自分を出しても誰も叱りはせんぞ?」

「ありがとうございます」

 結局、あのお屋敷に移る日は明後日に決まった。引っ越しとはいっても家具はすでに入っているし、衣服類も搬入済みだ。お義母様が片付けのお手伝いと言ったのは、私とあの屋敷で過ごしたかっただけらしい。

 ただ、私のお気に入りの書籍類や私が選ばなければならない物は、私が選別する必要がある。衣服類も搬入済みといっても、お屋敷に持っていくドレスも選ばないといけない。

「うふふ。本当にお嫁に行くみたいね」

 お義母様の言葉に、お義父様が複雑な表情をしていた。

 私室に戻る前に、レオナルドさんとマリアさんに、引っ越しの日を告げに行く。

「明後日だな。分かった」

「あちらの警備はどうなっているのでしょうか?」

「お義父様が手配してくれたようです。フェルナー家の私兵達から派遣してくださると」

「分かりました」

 後は私の方の支度かしら。

「お嬢様」

「どうしたの?フラン」

「そういった事は私がやりますと、常々言っていますよね?」

 そういった事?あぁ、伝言とかね。

わたくしの事だもの。わたくしが動かずにどうするの?」

「そのような雑事は、使用人にお任せください」

「悪いじゃない」

「その為の使用人ですよ?」

 分かってはいるのよ。でも、つい動いちゃうの。

 フランのグチグチとしたお小言を聞きながら、私室で書籍類や持っていく物を選別する。お雛様は一緒に連れていきたいし、今までに貰った宝石類やアクセサリーも仕分けしていく。

 ローレンス様からもらったアクセサリー類を手にして、手が止まった。

「お嬢様?」

「どうしよう、これ」

「お嬢様がお使いになる事に抵抗が無ければ、お使いになられてもよろしいのでは?無理だというならば、しばらくは保管しておいても良いかと」

 保管って便利な言葉よね。放置してても「保管してた」って言えるもの。

 ローレンス様からいただいた物は、しておく事にした。身に付けるには少し抵抗があるし、かといって手離すのにも抵抗がある。結果的に保管しておくしかないってだけなんだけれど。





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