3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 最終学年生

年越しの祝いの夜会 ~開会~

 王宮の降車場に着くと、サミュエル先生が先に降りて手を差し伸べてくれた。

「ありがとう存じます」

 次いで先に着いていたレオナルドさんの手が差し伸べられて、リーサさんが降りた。

「あぁ、怖かった」

「そんなに怖いか?」

「怖いのよ。慣れてないもの、こんな正式なドレス。裾が長いから足元が見えないし」

「どうなっても受け止めてやるから、心配すんな」

「あら、ありがと」

 2人が話している間に、新たな手がララさんに差し伸べられる。

「え?アーロンさん?」

「えぇ。パートナーをと言っておきましたでしょう?」

「だってお好きな方が居るって」

「居ますよ。ですからパートナーに名乗りをあげました」

「え?だって、じゃあ……」

「はいはい、後がつかえているからね。早く降りて移動してから話の方がいいね」

「サミュエル先生……」

 分かりますけどね。言っている事は分かるんです。でも少しタイミングってものを……。

 真っ赤になったララさんがアーロンさんの手を借りて、馬車を降りた。

「キャシーちゃん、控え室に行くかい?」

「他の皆様はどうなさいますの?」

「キャシーちゃん次第かな?」

わたくし次第ですか?」

 どうしよう。

「年越しの祝いの夜会は経験がございませんので、どうすれば良いのか……」

「中に入っていても良いんだけどね。どうする?中に入っているなら、ご友人達には言っておいてもらおうか?」

 ララさんはともかく、リーサさんとレオナルドさんは頷いてくれたから、先に入っている事にした。セシルさんはまだ着いていないのかしら?魔術車だから、先に着いていると思ったんだけれど。着いたら連絡すると言っていた気もするんだけれど。

「お願い出来ますか?」

 一足先に会場内に入るときらびやかに着飾った人々が、大声ではないけれど賑やかに談笑する姿が目に入った。

 馥郁ふくいくたるユリの香りが漂っていて、年越しの祝いの夜会だと実感する。強いはずのユリの香りはそこまで強くなくて、人々の香水の香りもキツくない。

「香水の香りが強くない気がするのですが」

「年越しの祝いの夜会には、王家の花であるユリが飾られるからね。心得ている人ばかりだから、香水は付けてこないか極弱い物を使われているはずだよ」

「そうなのですね」

「あら?セシル?」

 すぐ後ろでリーサさんの呟きが聞こえた。

「セシルさん?どこにいらっしゃいますの?」

「ほらあそこ。誰かと楽しそうに話をしているわ」

 そっと盗み見をすると、セシルさんはチェルシーさんと談笑していた。隣で旦那様のリュシアンさんは少しだけふくよかな男性と、これまた談笑している。

「チェルシーさん?」

「お知り合い?」

「一時期教会で保護されていた方です。お元気そうで安心いたしました」

 となると、リュシアンさんと談笑しているのって、まさか……。

「あぁ、ノボリッチ伯爵だね」

 サミュエル先生が教えてくれた。

「お痩せになられましたわね」

「夫人のおかげらしいよ。のろけてたって聞いたし」

 セシルさんが私達に気付いて合図をした。4人で歩み寄ってくる。

「これは光の聖女様。相変わらすお美しく愛らしい。我が心の天使」

 えっと……。

「お久しぶりでございます、ノボリッチ伯爵様。ずいぶんとお痩せになられましたわね」

「妻のおかげです」

 ニコニコの笑顔でチェルシーさんを紹介してくれる。

「ようやく色良い返事がもらえました。光の聖女様のお導きです」

わたくしは何もしておりませんわ。伯爵様の真心が通じたのでしょう。お2人に神のお恵みがありますように」

「光の聖女様の言祝ことほぎを頂けるとは。この上ない光栄ですな」

 この上ないって、陛下からの祝いの言葉の方が上ですよ?

 上機嫌なノボリッチ伯爵とテレたようなチェルシーさんは、本当にお似合いだと思う。

 視線を巡らせた時、壁際に所在なく立つリリス様とフランシス・エンヴィーオを見付けた。

「先生、あちらに行ってもよろしいでしょうか?」

「ん?あぁ、シーケリア嬢か。良いよ、一緒に行こう」

 サミュエル先生のエスコートで、リリス様の所に行くと、フランシス・エンヴィーオがポカンと口を開けた。

「キャスリーン様、お綺麗ですわ」

「ありがとう存じます。リリス様こそよくお似合いですわ」

 濃いピンクに淡いピンク、オレンジがかったピンクに紫に近いピンク。全身をピンクで纏めたコーディネートがよく似合っている。リリス様の可愛らしさが引き立っていると思う。幼いのではなく可愛らしい上品な感じを押し出したコーディネートだ。

「エンヴィーオ様が贈ってくださいましたの」

「素晴らしいセンスですわね」

「はっ、いや、その……。フェルナー様こそよくお似合いです。春の湖の女神様かと」

「お上手です事」

「キャスリーン様、お耳を」

 こっそりとリリス様に囁かれる。

「エンヴィーオ様と婚約が整いましたの」

「まぁ、おめでとうございます」

 エンヴィーオ家は元伯爵家だ。今は降爵されて子爵家になっている。跡目はフランシス・エンヴィーオの従兄が継いだはずだ。

「ではエンヴィーオ家に?」

「いいえ。シーケリア領で暮らします」

 ?シーケリア家に入婿として、フランシス・エンヴィーオを迎える訳じゃないの?

「平民に?」

「ですね。自由農民の立場で、シーケリア領の1地域を担います」

「そういうお立場ですか」

 貴族でなくなる訳だ。でも、リリス様はシーケリアの名を名乗り続ける。家を出てシーケリアの役に立つ仕事を担う。フランシス・エンヴィーオはその婿という事だ。

 分家というのが近いのかしら?ちょっと意味は違うけれど。

「キャシーちゃん、そろそろ時間だよ」

 お義父様とお義母様、ランベルトお義兄様とアンバーお義姉様、それにイザベラ様ご一家とガブリエラ様ご一家が入場してきた。イザベラ様のパートナーはノーマン様、ガブリエラ様のパートナーはゲイツ様だ。

 どうやらゲイツ様はガブリエラ様のパートナーとして、認められたらしい。婚約者となったわけではないと、ガブリエラ様から聞いている。

「キャスリーン」

「キャシーちゃん」

「お義父様、お義母様」

「先に入っていたのだな」

「はい控え室にお邪魔せず、申し訳ありません」

「良いのよ。ブランジット様からの伝言は伺ったわ」

「帰りはどうするのだ?」

「どうすれば良いのか……」

「キャスリーンの好きにすれば良い」

「皆様、キャシーちゃんを待っておられたのよ?帰りだけでも来られないかしら?」

 お義父様は好きにすれば良いと仰ったけれど、お義母様の言う事を聞いた方が良いんだろうな。

「セシルさんやリーサさん達に話してきます」

「そうなさいな」

 お義父様とお義母様と話していると、王家のご一家が入場された。みんなが礼をして出迎える。礼をしていないのは他国からの招待客のみだ。

「あちらがゴーヴィリス国の使者達だ。その向こうに居るのがキプァ国、ゴーヴィリス国の隣がシャスマネー国、その後ろがアウレリア国とアサナド公国。あれ?珍しい。モンタピュア国も来てるんだ」

「モンタピュア国?」

 聞いた事がないのですが。

「新興国だよ。建国は今から10年程前だったけど、それまでも内戦状態でさ。もっとも危険な地域って呼ばれていたんだ」

「今もロパヨーマ大陸でもっとも貧しい国のひとつだな」

 レオナルドさんから注釈が入った。レオナルドさんは知っていたのね。私は知らなかったけれど。



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