3歳で捨てられた件

玲羅

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帰るべき場所

王都に戻って

 ヒギンズ夫妻との話し合いの後、半月程して王都に戻った。リーサさんにほぼ毎日伝心機で連絡を取っていたし、特に私が必要な事案は無いという事だったから、フェルナー領城での滞在をズルズルと引き延ばしていたけれど、ミリィちゃんの目もそろそろ治してあげたいし、いつまでも滞在するわけにいかない。ランベルトお義兄様とアンバーお義姉様はゆっくりしていって良いと言ってくれているけれど、いつまでも甘えるのもね。

 ローレンス様はオフィーリア様の周辺のお掃除の為の工作に、フェルナー領とオフィーリア様のご実家があったフォギーストーミィタウンという、なんとも天候が悪そうな名前の田舎を行ったり来たりしていた。フォギーストーミィって直訳すると「霧を伴う暴風雨」だもの。

 フォギーストーミィタウンはその名の通り、主な産業は無いに等しい寒村だったらしい。もっともオフィーリア様の話だと、細々ながらもマリッサヴァイパーというジャガイモが名産として栽培されていたらしい。ただ、オフィーリア様の親の代になると「ジャガイモなんて田舎臭い」というオフィーリア様のお母様のひと言で、寒冷地ではうまく育たない野菜を作れと言ったり、柑橘類を育てろと言ったり、無茶苦茶だったそうだ。

 ローレンス様はフォギーストーミィタウンに行って、そういった地元民の声を聞かされたらしい。

 ちなみにフォギーストーミィタウンにはユノス柚子があったようだ。お土産にとローレンス様が持ち帰ってくれて、とても嬉しかった。雪花は後ずさっていたけれど。嫌いなのかしら?良い香りなのに。

 ユノス柚子は嬉しいけれど、使い道が分からないのよね。とりあえず収納ピアスに放り込んでおいて、セシルさんやリーサさんに相談してみよう。

「しばらくは行ったり来たりになるけど、なるべく一緒に居るからね」

「はい」

 王都に帰る途中で、ローレンス様に言われた。馬車の中には私とローレンス様と、床に寝そべっている雪花だけ。本当は雪花には馬車に並走してもらう予定だったのだけれど、馬車の扉を開けたら、さっさと乗り込んじゃったのよね。ジャーキーオヤツで誘っても知らんぷりで、ローレンス様が根負けした。

 雪花は馬車の中でお腹をペッタリと床に付けた伏せの姿勢で、こちらを見ている。見ているだけだ。甘えてくる事もないし、何をするでもない。

「セッカはどうして乗り込んだんだろうね?キャシーと一緒に居たかったのかな?」

「どうでしょう?わたくしとローレンス様を2人きりにさせない為、なんて事ではございませんでしょうし」

 ねぇ、雪花?どうして視線を逸らすのかしら?

「そういえばセッカが乗り込んだ時に、ランベルト達も領城のみんなも止めなかったな」

「ですわよね」

 止めたのは、私とローレンス様と護衛達だけ。他のみんなは笑って見ているか積極的に止めようとはしなかった。

「雪花、誰が乗れと言ったの?」

「キャシー、セッカが答えられるわけ、無いでしょ?」

 それでも聞きたくなっちゃったんだもん。

「それよりキャシー、言葉遣いが元に戻ってるよ?」

「申し訳……ごめんなさい」

「切り替えは早くなってきたね」

「ローレンス様の前だと、なぜか令嬢言葉になってしまうんで……しまうのよね」

「なぜだろうね?」

 そう言いながらホッペを撫でるのはやめてください。

 無事に王都に入ってお屋敷が近付くと、教会前と私のお屋敷前に人が群がっているのが見えた。

「キャシーを見たいと集まっているんだろうね」

「……降りられるでしょうか?」

「どうだろうね」

 笑顔で言わないでください。

「今日わたくしが戻るとなぜ知ったので……かしら?」

「別に知らなくても、毎日来てればいつかは、ってところじゃないかな?」

 そんな偶然性に賭けなくても。

「降りない訳にいかないし、護衛達の人数的にたぶんバレてると思うから、降りるしかないね。押し掛けては来ないだろうし、セッカもいるしね」

 雪花が任せて、とでも言うように小さくウォンと鳴いた。

 お屋敷前に着くと、まずは雪花が馬車から降りた。護衛達の人の列の先頭で、お座りして待っている。

 ローレンス様の手を借りて馬車を降りると、ものすごい歓声が辺りに響いた。ちゃんと遠巻きにしてお行儀良く並んでいる。護衛達に「見えないぃ」という声は飛んでいるけれど。

「すごいお出迎えだね」

「光の聖女様の巡行が発表されたから、特によ。おかえりなさい、キャスリーン様」

「ただいま帰りました、リーサさん。巡行が発表された?」

 何も聞いていないけれど?

「日程や各地の順番は発表されてないわよ。各地を巡るって発表されただけ」

 リーサさんと話をしながら、お屋敷に入る。入る前にリーサさんに促されて集まった人達に手は振っておいたけれど。

「すごい歓声ねぇ。さすが光の聖女様」

「やめてくださいよ」

「まだ歓声が聞こえるわね。どう?もう1度ベランダからお手振りなんて」

「リーサさんもご一緒にいかがですか?」

「えっとぉ……。ごめんなさい」

 リーサさんがペコリと頭を下げる。

「リーサさん、光の聖女の巡行が発表されたって、いつの話ですか?」

「今朝よ。ララさんのお知り合いが教会に飛び込んできてね、知らせてくれたの。それからよ。ここと教会の前があんな風に人だかりになったのは。ここはキャスリーンさんの持ち家とはいえ、個人宅でしょ?何人かが『迷惑をかけないように』って呼び掛けててね。だからこのお屋敷前は、距離を取って押し掛けてこないのよ」

「そうだったのですね」

「内容を知りたいな。誰か知っているかい?」

「お使いを頼みましょうか?」

「誰に?」

「孤児院の子達です。護衛として大人が付いていけば」

「あ、それならこちらの護衛から2人程行かせましょう。王都内の案内もしてもらって、依頼料もこちらから出しますよ」

 エドァルドが申し出てくれた。

 さっそくカールとリタの2人が孤児院の子達2人を連れて、高札を見に行ってくれた。ごほうびは聖国製のキャンディだそうだ。アレルギーがなければ大丈夫かしら?

 カールとリタの2人と一緒に出ていった孤児院の子達は、笑顔で戻ってきた。手にはフィッシュアンドチップスの容器を持っている。

「あら、ごほうびかしら?」

「はい。食べたいと言いましたので」

「あらあら。たまには良いわよね。こちらにいらっしゃい」

 椅子に座って2人が食べている間に、ローレンス様がカールとリタから話を聞いていた。

「巡行するってだけね。最後には王都に戻って来ると。ふぅん」

「ローレンス様?」

「各地を廻って1度に済まさせる感じかな?」

「それは聞いてみないと分からないかと」

「父上かな?」

「どうでしょう?エドワード様やミリアディス様が責任者かもしれませんし」

「明日は教会でエドワード様と仕事だから聞いてみるよ」

わたくしは明日は救民院に行く予定です」

「あぁ、言っていた子の治療だね。時間はかかるのかい?」

「かかると思いますわ。わたくしもはじめての試みですから」

「絶対に無理はしないようにね?」

 この件については信用が無くて当然よね。私にも自覚があるし。

「分かっておりますわ」

「今日付いていく護衛は?」

 ローレンス様がエドァルドに聞く。

「今日はシェーンとジョゼフィーヌですな。この2名は聖国で薬学を学んでおりましたので」

「そうなんだね。よろしく頼むよ」

「「かしこまりました。コルディア慈恵の聖女様がご無理をなさったと感じましたらお知らせいたします」」

「シェーン?ジョゼフィーヌ?何を……」

「うん、頼んだよ」

 シェーン、ジョゼフィーヌ、何を言ってるの?ローレンス様、満足げに頷かないでください。

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