3歳で捨てられた件

玲羅

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帰るべき場所

心配も過ぎれば……

 ローレンス様に伝心機で連絡すると、「今どこ」「そこを動かないで」「絶対に動いちゃダメだよ」「すぐに行くからね」と立て続けに捲し立てられた。

 短い通話の間に私が発した言葉は最初の、「ローレンス様」「今、救民院です」の2言だけなのよ。後は喋らせてもらえなかった。正確には話す暇を与えてもらえなかった。

 ローレンス様に連絡して10分もしない内に、ローレンス様が私の護衛達を引き連れて救民院に到着した。

「キャシー」

 ぎゅうぎゅうと抱き締められる。ローレンス様は額にいっぱい汗をかいていた。護衛達はそうでもないけれど、ローレンス様の息は荒い。抱き締められているから分かるのだけれど、心臓もドクドクと早鐘のようだ。

 今は救民院に患者は居ない。お医者様も帰り準備中だ。ララさんはミリィちゃんの件もあって、ここしばらくは泊まり込んでいるらしい。今はララさんの他に神官志望だけれど救民院業務にも興味があるという方が何人か、お手伝いをしてくれているらしい。

「無事で良かった」

「今日は救民院に行くと言ってありましたのに」

「そうだけどね。こんな時間までって思わないじゃないか。護衛が付いているって分かっていたけど、それでも落ち着かなくてね」

 いったん私の身体を離して、再びギュッと抱き締められた。

「今日はもう終わりかい?」

「そうですわね」

「じゃあ、帰ろう。今日はポテトとプディングだそうだよ」

 たぶん、マッシュポテトとソーセージよね。定番の組み合わせだし。

「それからアーモンドキャラメルクランブル」

「どうしましょう。肥ってしまいそうですわ」

「キャシーはもう少しふくよかでも良いと思うよ?」

「まぁ、ローレンス様。ふくよかでも良いなんて言うものではありませんわ」

「難しいね。どう言えば良いのかな?」

「ご自分でお考えくださいませ?」

 ララさんとミリィちゃんに挨拶をしてから、お屋敷に向かう。

「今のままでも十分キャシーは魅力的だけど、心配になるんだよ。折れてしまいそうで」

わたくしはそこまでひ弱ではございませんでしてよ?」

「分かってるよ。キャシーの健康面に今は不安はない。それでもね、やっぱり心配になるんだ」

 話をしながらお屋敷に戻る。救民院とお屋敷は、お散歩にちょうど良い位の距離だ。馬車に乗る程ではないし、ローレンス様も出勤時には歩いて通っている。

「ローレンス様、走ってこられましたの?」

「キャシーの姿が見えないし、リーサ嬢も帰っていないと言うし、探しに行こうとしていたんだよ。そこにキャシーから通話があったからね。少しの距離だし走ってきた」

「ご心配をお掛け致しました」

「セッカも落ち着かない感じだったんだよ?」

「雪花も?」

「リーサ嬢やメアリーに付きまとってね」

 それはいつも通りな気がする。私が居ない時はリーサさんやメアリーの後を追いかけたりしているらしいし。リーサさんは「ジャーキーの力よ」って笑っていた。

「それに僕が離れたくなかったんだよ。護衛が付いているのは分かっていたけど、やっぱりね。2人じゃ少ないと思うし」

「シェーンもジョゼフィーヌも、実力は認められておりますわよ?」

「知ってる。それでも不安なんだ。もしも、って考えるとね」

 もしも、また離ればなれになったら。不安で心配で何も出来ない自分が歯がゆくて、押し潰されそうになりながらも周囲のみんなの支えで立ち続けた日々。

 2度と思い出したくないけれど、それでもあの2年間が私を強くしてくれたと思う。

「ごめん。嫌な事を思い出させたね」

わたくしよりも、大変だったローレンス様の仰るお言葉ではございませんでしてよ」

「それでも戻ってこられて、こうしてキャシーが側に居てくれる。こんな幸せな事はないよ」

わたくしもですわ」

「後はキャシーの言葉遣いだけだね」

「急かさないでくださいませ」

 本当にどうしてローレンス様の前だと、普通に話せないのかしら。さっき、ミリィちゃんを相手にしていた時は普通に話せていたわよね?

 自問自答しながらお屋敷に帰ると、そのまま食事室に連れていかれた。いつもは食堂よね?どうして今日に限って?

「ごめんなさいね。今日はあっちで使用人達で何かをしているのよ」

「何かを?」

「そう。何かを」

 何かをって、何をしているのかしら?教えて……くれそうにないわね。リーサさんは口が堅いし。

 夕食を食べて私室に入ると、ローレンス様が付いてきた。

「キャシー、ちょっと良いかな?」

「どうされ……。どうしたの?ローレンス様」

「今日の事なんだけどね。あの時、護衛が2人だったのはどうしてだい?」

「全員を引き連れていっては、医療行為の邪魔になります。シェーンとジョゼフィーヌは聖国で薬学を学んでおりました。ミリィちゃんの治療はわたくしにとってもはじめての症例でした。わたくしは医師の資格は持っておりますが、薬学に関しては『素人より少しだけ詳しい』程度です。薬学を学んだわけではございません。ですから詳しいであろうシェーンとジョゼフィーヌを連れていきました」

「薬学を学んだという事は、2人は薬師の資格を持っている?」

「聖国での、ですが。持っていると聞きました」

「聖国のか。一応確かめた方がいい。難癖をつける人間はどこにでも居るから」

「確かめるとはどのように?」

「アルウィンに聞いてみるか?」

「お義父様は管轄外ですか?」

「管轄内ではあるが、たぶん薬師協会のお偉方が出てくるよ?」

 それはちょっと面倒な事になりそうよね。

「それから、キャシーが留守の間にこちらが届いた」

 リーサさんから渡されたらしい手紙を見せられた。手渡されてはいない。

「誰だい?この2人は。男名前だね」

 差出人はビル・デュパーとロリー・ストープス。ゲールズトン伯爵領のあの2人だ。

「医師資格取得試験の会場で知り合ったお2人ですね。ゲールズトン伯爵領に住んでいらっしゃるそうです」

「隣か。その2人はなぜキャシーに?」

「存じ上げませんわ。内容を読んでもおりませんもの。いくつか理由は思い当たりますが」

 血統判別機の事か、ゲールズトン伯爵様のお孫様の事か、ゲールズトン伯爵様、ご本人の事か。

「中を確認しても?」

「見せたくないけどね。男からの手紙なんて」

「それでも内容を確認しなければ、何も出来ませんわ」

「それから」

 まだあるの?

「僕の知らないキャシーの交遊関係があるのが寂しい」

「ローレンス様、なぜそれほどまでにお知りになりたがられるのです?なぜすべてを知ろうとなさるのです?わたくしわたくしですわ。それではいけませんの?」

「いけなくはないよ。それでも知りたいんだ」

「欲張れば全てを失くしますわよ?」

「分かってるよ」

 ようやく渡してもらえた手紙を読む。

「ローレンス様にも付いてきてもらわないとですわね、これは」

「なんだい?」

 ローレンス様に手紙を見せる。

「ゲールズトン伯爵の孫の話か。今、何歳?」

「7歳だそうですわ」

「学院への入学に悩んでいる、ね。なぜこの手紙をゲールストン伯爵と関係のない人物が?」

「このお2人はゲールストン伯爵家お抱えのお医者様、ジャネット・ダンデル医師のお弟子様だそうです。サミュエル先生が仰っておられました」

「サミュエル様がね。それなら間違いないね」

「ここに書かれているお孫様はおそらくゲールストン伯爵様の3男様のお子様かと。以前血統判別機に触れてしまったとお話に出てきましたもの」

「触れただけで?」

「お察しの通りですわ。親子関係無しの判定が出たそうです」

「それでキャシーに相談を?」

「以前知り合った、年若く新米医師だから、だそうですわ」

「キャシーが誰とも繋がっていないって、それはどうなんだろうね?」

「その辺りは分かりかねます」


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