3歳で捨てられた件

玲羅

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光の聖女

ホヨック伯爵領とウォーリィ侯爵領 ①

「ダメね、やっぱり指が動かないわ」

 ポロロンポロロンとゆっくりながら何かの旋律を爪弾いていたララさんが、弾くのを止める。

「ララさん、足を組まないと弾けませんの?」

「私はこうやって習ったから。足台という物もあるわ。ギターを安定させる為なのよ」

「そうなのですね」

 私は楽器を弾けない。ピアノは転生してから習ったけれど、長く弾いていないし、それこそ指が動かない。

 教会の聖堂の奥にはパイプオルガンが設置されている。専任のパイプオルガン奏者がいて、温かく柔らかい音楽を聞かせてくれる。

「パイプオルガンは難しいですわよね」

「急にどうしたの?キャシーちゃん」

わたくしも楽器を弾いてみたいと思いましたの。でもわたくしの演奏出来る楽器はピアノだけですのよね。大きいですから持ち歩けませんし」

「キャシーちゃんのお家にあるのって、グランドピアノよね?」

「そうですわよ?」

「縦型のピアノってなんていったっけ?」

「縦型のピアノですか?アップライトピアノですわね」

「あれでも大きいわよね。キーボードとか電子ピアノがあると良いのに」

「ピアノは打弦楽器に分類される鍵盤楽器ですからね。この時代にキーボードや電子ピアノはまだ開発されておりませんでしょう?お屋敷にピアノはございますから、まずは練習ですわね」


 そんな話をした3日後、ホヨック伯爵領とウォーリィ侯爵領訪問の日がやって来た。今回は雪花を連れていく事を通達してもらっている。雪花も楽しみなのか私の隣でなんだか嬉しそうにしている気がする。

「キャシー、行くよ」

 ホヨック伯爵領の初日と、ウォーリィ侯爵領の最終日と翌日の計3日のお休みをもらったローレンス様が、私をエスコートしてくれる。夜会会場じゃないのよ?転送部屋への通路よ?ローレンス様の右側を歩きながら思う。これを変だと感じなかった時点で、私も当然だと思ってしまっているわよね?

「ローレンス様、エスコートではなく……」

「どうしたの?可愛いキャシー」

「いえ、エスコートではなくお隣を手を繋いでなど……」

 最後の方は声が小さくなってしまった。私からおねだりしているようで恥ずかしい。

「キャシーは手を繋ぎたいの?恥ずかしがるかと思ってエスコートにしたんだけど、無用の気遣いだったね」

 ソッとエスコートの腕を外され、ギュっと手を握られた。

 今の私は光の聖女の外出着を着ている。オフホワイトのワンピースに白いフレアコート。ウェスト部分が少し絞ってあるからペプラムコートと言った方が正しい。そして当然のように入れられている青と白のバラの刺繍。

 髪飾りもアーティフィシャルフラワーの青と白のバラが付いている物だし、なんと雪花のハーネスとリードにも、青と白のバラが付いている。

 これって正式に許可を得たのかしら?

 転移陣に乗ってから、私にぴったりくっつく雪花を撫でる。

「ローレンス様、雪花のこのハーネスとリードのこのバラって」

「ん?エドゥアルドを通じて許可は取ってもらったよ。心配しなくて大丈夫。セッカも女の子だし似合ってるよね?」

「似合ってはいますが。いえ、許可を得ているなら良いのです」

 ん?と首を傾げている雪花をモフモフと撫でている間に、転移が終わった。

 転送部屋を出ると、ホヨック伯爵と神官達が礼を取って出迎えてくれた。

「光の聖女様、護衛の方々、ようこそお越しくださいました」

「久しぶりだね、ホヨック伯爵」

「お久しぶりにございます、ローレンス様」

「お知り合いですの?」

「ホヨック伯爵のご子息が2つ上の先輩でね。ずいぶんとお世話になったんだよ。今日はクリフォード先輩は?」

「狩りに出ております。『ローレンスに旨い鹿を食わせてやらねば』などと朝から飛び出していきました。ローレンス様のように落ち着かれるのは、いつになるやら」

「クリフォードは弓が得意でね。風属性魔法を使うから叔父上のような事もしてのけたんだよ」

 叔父様のような事?あぁ、2つ名があったわね、叔父様も。

 ホヨック伯爵と話ながらまずは最初の教会に向かう。私のやる事は変わらない。挨拶とお手振りと光のパフォーマンスだ。

 初日最後の教会でも同じようにして光のパフォーマンスを行った。その最中にフラフラと進み出た女性がいた。

 連れていた雪花が背を低くして唸り声をあげる。護衛達が抜剣した。

 完全に隠された私だったけれど、その女性に黒い鎖のような何かが見えた。

「ローレンス様、あの方呪われております」

「「えっ?」」

 ローレンス様とホヨック伯爵が同時に声をあげた。

「祓えるかい?」

「もちろんです。が、その為には近付かねばなりません」

「遠隔でどうにか出来ないのかい?」

「やった事はございませんが」

 やった事はない。でも方法は知っている。聖国で読んだ本に書いてあったもの。『対象を結界で包み、内部をディスペル呪いの浄化で満たす』って。具体的なやり方も書いてあった。

「あの女性の素性は?」

「調べさせます」

 呪いの原因が何であれ、放ってはおけない。女性の周りからは人が居なくなっている。神官が全員を聖堂から出したようだ。

「母さんっ」

「ディヴっ、入るんじゃないっ」

 周りの人達が男性を止めている。

「ローレンス様、やってみます」

「無理はするんじゃないよ?」

 まずは女性を結界で包ん……、駄目だ。暴れた女性が結界を破壊した。護衛達が取り押さえようとするけれど、下手をすると女性を傷付けそうで手が出せないようだ。植物魔法での拘束もうまくいっていない。

 何度か結界を破壊され、方法を変えた。聖堂内を光魔法で満たす。それを徐々に縮めていく。魔力出力の訓練の応用だ。圧縮しすぎると魔力が密になりすぎて、魔法暴発の危険があるから魔力の調整をしながら結界を小さくしていく。

 今回は結界の質を変えた。軟質にして女性に沿わせるようにしていく。硬質だと破壊される危険性が増すと思ったからなんだけど。『じゅうごうせいす』というし。

 女性を私の結界が包んだ。女性の動きが鈍る。結界内をディスペル呪いの浄化で満たした。最初は弱く徐々に強くしていく。

 感覚で呪いの大元を探す。感覚に頼っているから探りにくいし、なかなか大元を捕まえられない。

 集中力が切れる直前に呪いの大元を捕まえた。一気にディスペル呪いの浄化を強める。

「ぎゃあぁぁぁ……」

 獣の咆哮のような音と共に、呪いが女性から離れた。私の結界に阻まれて逃げ出せない所を、エドゥアルドが聖布で捕らえる。

「お疲れ様」

「疲れました」

 力が抜けて倒れた女性に、入口で暴れていた男性が駆け寄る。

「あの女性の診察をしても?」

「仕方がないね」

 女性に近寄り男性の許可を得てから、光魔法で女性の身体を診る。

 胃腸機能も弱くなっているし心臓も弱っている。どこがとは言えない。全体的に衰弱している。まるで老衰のようだ。

 まずは心機能の回復から試みる。心筋の機能を回復させ、正常に血液が全身をめぐるように調える。

 測定はしていないけれど、たぶん血圧はかなり弱っていたと思う。だって拍動が弱くて心拍数も低かった。脈波を測定出来ていたらアラームが鳴りっぱなしだったと思う。

 心機能が正常になったら、後は療養してもらうしかない。消化の良い物から始めてリハビリもして身体機能を回復させて。

 私が女性の治療をしている間に、護衛達とローレンス様とホヨック伯爵は、呪いの追跡をしていたらしい。追跡をしたのはマウリシオとリディー。

「心機能は回復させました。胃腸機能が弱っておりますので消化の良い物から始めて身体の回復を図ってください。筋肉も衰えて運動機能も落ちています。まずは筋肉の回復を。マッサージから始めないといけませんが」

「ありがとうございます、光の聖女様」

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