3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
3 / 734
捨てられて拾われて

魔法の存在

「キャシーは頭も良いんだね」

「精神年齢は大人ですから」

 私を膝だっこして、ランベルトお義兄様が言う。

「もうすぐ学院に戻らないといけないな」

「キャシーをポッケに入れて連れていきたい」

「私はそんな小さくありません」

「トランクケースなら、あるいは」

「やめてくださいね?」

 私を親に殺されかけた不憫な子と思っているらしいお義兄様2人は、事あるごとに私を甘やかす。

 冬季長期休暇が終わる前に、お義兄様2人は学院に戻っていった。学院は全寮制で、たとえ王都に家があろうと必ず入らなきゃいけない決まりなんだそうだ。自主性と協調性を育てるとかなんとか。寮はもちろん男女別だし、貴族階級でも分けられているらしい。下級貴族と上級貴族で分けられる事はないけど、爵位が上だと寮の部屋も上階にあって、広いんだって。

 3歳だということは覚えていても、正確な誕生日が分からない私は、侯爵様によって12月18日生まれにされていた。セジャン家の事を調べていたから、本当の誕生日かもしれない。

 私の言動は、結局直らなかった。落ち着いている性格、無口というキャラを作り上げ、外ではそう振る舞うことが決められた。

「キャシーちゃんはお外でおしゃべりをしなかったら、侯爵家の教育で通ると思うのよね」

「気を付けます」

 侯爵家では好奇心に負けてあれやこれや質問しまくり、それを自分なりに理解して、さらに掘り下げようとして、蔵書庫に行きたいと言ってみたり、許可された蔵書庫で大人向けの歴史書や難解な政治事例を読み始めて、フランをハラハラさせたり、お義母様に心配とご迷惑をかけたりした。事情を知った侯爵様お義父様に注意されて、まずはお義母様がマナーから教える事で、なんとか一般的な子供の行動内に収まっていた。

 おかげで淑女教育の初歩、立ち居振舞いは完璧だと思う。幼児にしては、だけど。


 侯爵家の養女になって2年が経った。5歳になった私は教会に行き、祝福の儀式を受ける。幼児用の白いドレスに白いケープ、白い帽子に白い手袋と白一色で揃えられた衣装を身にまとい、お義父様とお義母様の3人で教会に向かう。教会で祈ることで神様から加護をいただき、魔法を授けられる。

「え?この世界って、魔法があったの?」

「あるわよ?魔法を使える人は少ないけどね。魔法使いも居るわ」

「知らなかったです」

「この世界で使える魔法は、微々たるものだ。ほとんどは魔道具に頼っている」

 魔道具は知っている。お茶を淹れる時のポットも魔道具製だし、灯りも魔道具だから。

「要は5歳にならないと魔法を使えても、上手く制御出来ないから危険なんだ。だから魔法を授けられると言うんだ」

「納得しました」

 教会は白亜の建物だ。侯爵邸の窓から尖塔が2種類見えていて、白い方が教会だと教えてもらっていた。それでもその大きさに圧倒される。

 お義父様とお義母様に手を引かれて聖堂内に入ると、ステンドグラスの光が出迎えてくれた。

「晴れて良かったわ。神様がキャシーちゃんを祝福してくれているのね」

 本当に祝福してくれているなら、殺されかける事は無かったと思うんだけど。あいまいな笑みを見せると、にっこりと微笑まれた。

 聖堂の奥の小部屋で司祭様のお話を聞いた後、1ヶ所だけ色の違うタイルの場所に立つ。上から眩しい光が降り注いで一切の音が無くなった。映像が勝手に再生される。

 思い出した。私の死因。

 災害派遣されて、救助活動中の二次災害の爆発火災での焼死だ。幼い子供を見つけて建物外へ連れていく途中で爆発があって、火に囲まれて火傷を負いながらなんとか脱出して子供を託して。そこから記憶が無い。

 あの子供は無事だっただろうか?音や振動に怯えて、私にしがみついていた小さな手を思い出す。

「キャスリーン様、キャスリーン・フェルナー様、大丈夫ですか?」

 気が付くと司祭様が心配そうに私を見ていた。

「はい。大丈夫です」

「キャシーちゃん……」

 心配そうなお義母様の声が聞こえる。

「フェルナー夫人、側に来ていただけますか?」

 儀式の進行とは明らかに違うタイミングで、お義母様が呼ばれた。

「キャシーちゃん、どうしたの?」

「お義母様?」

 ハンカチで頬を拭われた。泣いていたらしい。

「私は大丈夫です」

「でも……」

「大丈夫です。後でお話しします」

 気遣わしげに私を見ながら、お義母様が下がった。

「こちらの水晶にお手を触れてください」

 そっと手を触れると水晶が輝いた。

「これほどの輝きとは……」

 司祭様の声に顔を上げる。

「よろしいですよ」

 水晶から手を離すと、光は収まった。司祭様が何かを書き付けて、私に渡す。

「ご両親と一緒にご覧なさい」

「はい。ありがとうございました」

 カーテシーをしてお義父様、お義母様の元に戻る。

「キャシーちゃん、本当に大丈夫?」

「少し顔色が悪いな。休ませてもらおう」

 後で聞いたら、顔色が真っ白だったらしい。青じゃなく白。血の気が引いていてお義父様は私を発見した時を思い出したと言っていた。

 教会の部屋を借りて、少し休ませてもらう。

「キャシー、何があった?」

「思い出しました。私の前世の最後の記憶」

「それは……」

「死因ですね。災害救助派遣先で子供を救出して二次災害の爆発火災で火に囲まれて、助けた子供を仲間に手渡して、そこから記憶がありません」

「そうか」

 お義父様とお義母様がものすごく辛そうな顔をした。

「あ、そうだ。これ……」

 司祭様に手渡された紙を、お義父様に渡す。

「魔法属性だな。預かっておこう」

 お義母様にずっと抱き締められていて、顔色が良くなったからと帰る事にした。

 夕食前にお義父様の執務室に呼ばれた。お義母様も一緒だ。

「キャスリーンの魔法属性だが、光と水だそうだ」

「光と水」

「光魔法属性は珍しい。魔法の強さにもよるが、そちらは教師を依頼しよう。水魔法属性だが、こちらは弟に頼もうと思う」

「ジルベール様に?」

「アイツも水魔法を使う。今はあちこち放浪しているが、連絡は付くようにしてある」

 ジルベール様というのがお義父様の弟で、水魔法の先生になるらしい。


 5歳の誕生日を迎える前から、基本的な読み書き計算は、お義母様とフランから習っていたけど、5歳を過ぎたら本格的な勉強が始まる。

 今日は始めての授業の日で、家庭教師カヴァネスがやってくる。その為お義父様とお義母様と一緒に玄関ホールで待っていた。

「失礼いたします。ミリアン・ブーランシュと申します」

「ディアーク・フェルナーだ。こちらが妻のコルネリエと娘のキャスリーンだ」

 お義母様の真似をして軽く膝を曲げる。

「こちらのお嬢様ですね」

「はじめまして。よろしくお願いします」

 応接室に移動して、打ち合わせと確認をしていく。

「キャスリーン、ミリアン・ブーランジュ伯爵夫人は『テンセイシャ』の子孫だよ」

「えっ?」

わたくしの高祖父が『テンセイシャ』だったそうです。高祖父の時代、革新的な農法を広めたと言い伝えられております」

「革新的な農法?ノーフォーク農法ですか?」

「ご存じなのですか?」

「知識として記憶にあるだけです。実際にはおこなった事はありません」

 ノーフォーク農法、四輪作法とも呼ばれる農業の作法だ。主に大麦→クローバー→小麦→かぶの順に4年周期で行う四輪作法で、ノーフォークのような砂質土壌なら上手くいったけど、その他の地域では思い通りの結果が出なかったという話もある。

 前世の私の家は、家庭菜園位だったからノーフォーク農法は知識としてあるにすぎない。

 ブーランジュ夫人は私が転生者という事を知っている前提で、話をさせてもらった。










感想 103

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。