29 / 786
学院初等部 1学年生
処罰と結果と熱中症と
アリス様を襲おうとした男性生徒の処分が決まった。婚約年齢に達していない女性生徒を脅迫及び他の目的で誘拐しようとしたとして、停学1ヶ月だそうだ。本人達はちょっと話をしようとしただけなんて言っているらしいけど、薬物を使用してアリス様を眠らせて、なんのオハナシをしようとしたんだか。停学1ヶ月は軽いんじゃないかと思ったら、その前に体術倶楽部の先輩方にボコボコにされていたらしい。
「その男性生徒の怪我は治したんですか?」
「そんな訳無いでしょ?放置だよ。痛みに苦しみながら、掃除をしているよ」
教えてくれたのはダニエル様。見張りを付けられながら、他の子女誘拐未遂犯達と共に、ホールなどの掃除をさせられているらしい。ダンス専用の室内競技場2つ、音楽観賞用のホール1つ、武術専用の室内競技場3つに芸術棟の掃除をホウキ、雑巾で行っているんだって。何も知らない下級生から「なぜ先輩達が?」と尋ねられても答えられずに、相当ヘコんでいるらしい。
当然親にも事の顛末を書いた手紙が、王宮経由で送られている。
「それは……」
「ん?」
「心がバッキバキに折られてますね。良い気味です」
「キャシーちゃんって、こういうのを聞いて可哀想とか言わないんだ」
「同情出来る犯罪もありますけど、今回の人達には微塵も同情出来ませんから」
「なるほど」
「ブレシングアクア、足りてますか?もう少し作れますけど」
「ブレシングアクアはほかの光魔法使いも作れるからね。大丈夫だよ」
今日の付き添いはランベルトお義兄様。ローレンスお義兄様は生徒会執行部が忙しくて、付き添えなかった。1ヶ月半後には魔法披露会と武術披露会が行われるから、その準備に忙しいらしい。もう少し余裕を持たせればと思うんだけど、初等部1学年生が参加表明した場合、夏期休暇前だと早すぎるし、冬季休暇後だと最上級生が忙しすぎる。諸々を鑑みてこの時期になってしまうらしい。
それでも魔法披露会と武術披露会を同日開催にする事で、昔ほどタイトなスケジュールではないんだって。
ダニエル様の部屋を出ると、ローレンスお義兄様が走ってくるのが見えた。珍しい。ランベルトお義兄様と違って、ローレンスお義兄様は走る事が滅多にないのに。
「お義兄様、どうなさいました?」
「ダニエル様、キャシーを連れていって良いですか?良いですね?キャシー、一緒に来てほしい」
私の疑問には答えず、ダニエル様に一方的に言って、私の手を取ってそのまま走り出す。
「おっ、お義兄様、どうされたのですか?」
「会長が倒れた」
「会長様が?」
手を引っ張られたままなんとか走る。ランベルトお義兄様が並走しながら私を気遣わしげに見た。
「兄貴、兄貴。キャシーが辛そうだ」
「え?あっ。悪い。キャシー、大丈夫か?」
足を止めて私を覗き込む。私は膝に手を付いてゼイハァと息をしていた。
「大っ丈夫っ、ですわ。少し、休ませ、てください、まし」
「珍しいよな。兄貴がこんなに焦ってるの」
「倒れたのは会長だけじゃないんだ。会計担当と庶務担当の3名も倒れている」
「えっ?症状をお聞かせくださいませ」
「歩きながらで良いかな?今日は午後から予算案について話し合いをしていたんだ。4人とも異常に汗をかいていてね。少ししたらめまいと吐き気を訴えて、そのまま突っ伏した」
「熱中症ですわね。水分は取っていました?」
「私達は取っていたが、会長達はどうだろう?」
「執行部室に砂糖とお塩はございますか?」
「砂糖はある。塩はどうだろう?」
「後は柑橘類があると良いのですが」
「カフェテリアで分けてもらうか?」
「お願いしても良いですか?ランベルトお義兄様」
ランベルトお義兄様が走っていった。
「ローレンスお義兄様は執行部室に着いたら、水を溜める容器に冷水をお願いします。飲用と冷やす用の2種類」
「分かった」
息を整えながら執行部室に急ぐ。執行部室の前では無事だった役員がお義兄様を待っていた。
「フェルナー様」
「中には?」
「会長達だけです」
「失礼します。中に入っても?」
「フェルナー嬢、危険です」
「ドアだけでも開けてください。窓は開けていましたか?」
「窓?窓は……」
「開けてないよ」
ローレンスお義兄様が答えてくれた。私は症状から熱中症だと確信しているけど、皆様にその知識はないらしい。
「開けてください」
「でも……」
ほかの役員がためらっていると、ローレンスお義兄様がドアを開けた。ムッとする熱気が感じられた。
「お義兄様、窓を開けてください。皆様、手伝ってください」
机に突っ伏している会長様達をソファーに寝かせる。窓が開いた事で風が通った。体温が高い。皮膚は乾いて赤みを帯びている。汗はかいていない。本来なら涼しい場所に寝かせたいんだけど、私はこの辺に詳しくない。
「お義兄様、身体を冷やす用の水を」
「分かった」
「布を用意してください」
おろおろしているほかの役員達に指示をする。
「会長様、分かりますか?」
「……君は……?」
「ローレンス・フェルナーの妹です。頭痛はございませんか?」
「頭痛は無いね」
「キャシー、これを」
氷水で冷やした布を渡された。
「失礼いたします。少し冷たいですが」
頸動脈の辺りに冷たい布を当てる。
「気持ちいいね」
「皆様、他のお3方にも同じ様にお願いします」
ローレンスお義兄様がお水を持ってきてくれた。介助しながら少しずつ飲ませる。
汗を正常にかき出して、他の症状が改善された頃、ランベルトお義兄様がオレンジを5個と砂糖とお塩を持ってきてくれた。
経口補水液を作ってローレンスお義兄様に冷やしてもらう。私はまだ氷魔法が上手く調整出来なくて、全部凍らせてしまう危険があったから。
ランベルトお義兄様がオレンジを絞ってくれたから助かった。スカスカになっていくオレンジの実を、おもわずまじまじと見てしまった。
「結局なんだったのかな?」
「熱中症ですわね。このように暑い室内で水分も摂らずになんて、自殺行為です」
「そこまでかい?」
「はい。というわけで、倒れた皆様はこれを飲み干してください。その他の皆様も水分補給は忘れないようにしてください」
「こんなに?」
1リットル超の木製ピッチャーをそれぞれの前にドンと置く。置いてくれたのはランベルトお義兄様だけど。
「ありがとう。なんとかなって良かった」
ローレンスお義兄様が、経口補水液を飲みながら言った。
「まだ油断は出来ませんよ。今日はなんとかなりましたけど、この先も同じ様になる可能性があります」
経口補水液のレシピを書きながら、ローレンスお義兄様に言う。
「あ、ランベルトお義兄様、飲みすぎちゃダメですよ。お砂糖がたくさん入っていますから」
「贅沢品だね」
今私が書いているレシピは、お砂糖を減らしてハチミツを加えた物。幸いこの世界のハチミツは贅沢品じゃない。ハニービーも怒らせなければ攻撃してこない。ハニーハンターなる職業もあって、私位の大きさのハチの巣を取ってくるんだって。
以前オルブライトさんの言っていた採蜜は養蜂の物だけど、ハニーハンターが採るのは天然物だ。崖にぶら下がっている巨大なハチの巣を切り取って運ぶらしくて、なんと国家資格が必要だとか。
一方のお砂糖は砂糖大根から作っているらしい。私も各領の特産品の授業で習っただけだけど、先生は直径が1メートルを越えるって言っていた。土魔法で一気に掘り起こして、台車で運ぶんだって。
「それさ、砂糖とかハチミツを入れなくちゃいけないわけ?」
「入れないと薄い塩水になっちゃいますよ?飲めるなら良いですけど」
「オレンジ果汁が入ってるならイケる気がする」
ランベルトお義兄様がニカッと笑って言った。飲めるなら良いんですけどね。でも糖分は入れてほしい。水分や電解質の効率的吸収の為にも。
「その男性生徒の怪我は治したんですか?」
「そんな訳無いでしょ?放置だよ。痛みに苦しみながら、掃除をしているよ」
教えてくれたのはダニエル様。見張りを付けられながら、他の子女誘拐未遂犯達と共に、ホールなどの掃除をさせられているらしい。ダンス専用の室内競技場2つ、音楽観賞用のホール1つ、武術専用の室内競技場3つに芸術棟の掃除をホウキ、雑巾で行っているんだって。何も知らない下級生から「なぜ先輩達が?」と尋ねられても答えられずに、相当ヘコんでいるらしい。
当然親にも事の顛末を書いた手紙が、王宮経由で送られている。
「それは……」
「ん?」
「心がバッキバキに折られてますね。良い気味です」
「キャシーちゃんって、こういうのを聞いて可哀想とか言わないんだ」
「同情出来る犯罪もありますけど、今回の人達には微塵も同情出来ませんから」
「なるほど」
「ブレシングアクア、足りてますか?もう少し作れますけど」
「ブレシングアクアはほかの光魔法使いも作れるからね。大丈夫だよ」
今日の付き添いはランベルトお義兄様。ローレンスお義兄様は生徒会執行部が忙しくて、付き添えなかった。1ヶ月半後には魔法披露会と武術披露会が行われるから、その準備に忙しいらしい。もう少し余裕を持たせればと思うんだけど、初等部1学年生が参加表明した場合、夏期休暇前だと早すぎるし、冬季休暇後だと最上級生が忙しすぎる。諸々を鑑みてこの時期になってしまうらしい。
それでも魔法披露会と武術披露会を同日開催にする事で、昔ほどタイトなスケジュールではないんだって。
ダニエル様の部屋を出ると、ローレンスお義兄様が走ってくるのが見えた。珍しい。ランベルトお義兄様と違って、ローレンスお義兄様は走る事が滅多にないのに。
「お義兄様、どうなさいました?」
「ダニエル様、キャシーを連れていって良いですか?良いですね?キャシー、一緒に来てほしい」
私の疑問には答えず、ダニエル様に一方的に言って、私の手を取ってそのまま走り出す。
「おっ、お義兄様、どうされたのですか?」
「会長が倒れた」
「会長様が?」
手を引っ張られたままなんとか走る。ランベルトお義兄様が並走しながら私を気遣わしげに見た。
「兄貴、兄貴。キャシーが辛そうだ」
「え?あっ。悪い。キャシー、大丈夫か?」
足を止めて私を覗き込む。私は膝に手を付いてゼイハァと息をしていた。
「大っ丈夫っ、ですわ。少し、休ませ、てください、まし」
「珍しいよな。兄貴がこんなに焦ってるの」
「倒れたのは会長だけじゃないんだ。会計担当と庶務担当の3名も倒れている」
「えっ?症状をお聞かせくださいませ」
「歩きながらで良いかな?今日は午後から予算案について話し合いをしていたんだ。4人とも異常に汗をかいていてね。少ししたらめまいと吐き気を訴えて、そのまま突っ伏した」
「熱中症ですわね。水分は取っていました?」
「私達は取っていたが、会長達はどうだろう?」
「執行部室に砂糖とお塩はございますか?」
「砂糖はある。塩はどうだろう?」
「後は柑橘類があると良いのですが」
「カフェテリアで分けてもらうか?」
「お願いしても良いですか?ランベルトお義兄様」
ランベルトお義兄様が走っていった。
「ローレンスお義兄様は執行部室に着いたら、水を溜める容器に冷水をお願いします。飲用と冷やす用の2種類」
「分かった」
息を整えながら執行部室に急ぐ。執行部室の前では無事だった役員がお義兄様を待っていた。
「フェルナー様」
「中には?」
「会長達だけです」
「失礼します。中に入っても?」
「フェルナー嬢、危険です」
「ドアだけでも開けてください。窓は開けていましたか?」
「窓?窓は……」
「開けてないよ」
ローレンスお義兄様が答えてくれた。私は症状から熱中症だと確信しているけど、皆様にその知識はないらしい。
「開けてください」
「でも……」
ほかの役員がためらっていると、ローレンスお義兄様がドアを開けた。ムッとする熱気が感じられた。
「お義兄様、窓を開けてください。皆様、手伝ってください」
机に突っ伏している会長様達をソファーに寝かせる。窓が開いた事で風が通った。体温が高い。皮膚は乾いて赤みを帯びている。汗はかいていない。本来なら涼しい場所に寝かせたいんだけど、私はこの辺に詳しくない。
「お義兄様、身体を冷やす用の水を」
「分かった」
「布を用意してください」
おろおろしているほかの役員達に指示をする。
「会長様、分かりますか?」
「……君は……?」
「ローレンス・フェルナーの妹です。頭痛はございませんか?」
「頭痛は無いね」
「キャシー、これを」
氷水で冷やした布を渡された。
「失礼いたします。少し冷たいですが」
頸動脈の辺りに冷たい布を当てる。
「気持ちいいね」
「皆様、他のお3方にも同じ様にお願いします」
ローレンスお義兄様がお水を持ってきてくれた。介助しながら少しずつ飲ませる。
汗を正常にかき出して、他の症状が改善された頃、ランベルトお義兄様がオレンジを5個と砂糖とお塩を持ってきてくれた。
経口補水液を作ってローレンスお義兄様に冷やしてもらう。私はまだ氷魔法が上手く調整出来なくて、全部凍らせてしまう危険があったから。
ランベルトお義兄様がオレンジを絞ってくれたから助かった。スカスカになっていくオレンジの実を、おもわずまじまじと見てしまった。
「結局なんだったのかな?」
「熱中症ですわね。このように暑い室内で水分も摂らずになんて、自殺行為です」
「そこまでかい?」
「はい。というわけで、倒れた皆様はこれを飲み干してください。その他の皆様も水分補給は忘れないようにしてください」
「こんなに?」
1リットル超の木製ピッチャーをそれぞれの前にドンと置く。置いてくれたのはランベルトお義兄様だけど。
「ありがとう。なんとかなって良かった」
ローレンスお義兄様が、経口補水液を飲みながら言った。
「まだ油断は出来ませんよ。今日はなんとかなりましたけど、この先も同じ様になる可能性があります」
経口補水液のレシピを書きながら、ローレンスお義兄様に言う。
「あ、ランベルトお義兄様、飲みすぎちゃダメですよ。お砂糖がたくさん入っていますから」
「贅沢品だね」
今私が書いているレシピは、お砂糖を減らしてハチミツを加えた物。幸いこの世界のハチミツは贅沢品じゃない。ハニービーも怒らせなければ攻撃してこない。ハニーハンターなる職業もあって、私位の大きさのハチの巣を取ってくるんだって。
以前オルブライトさんの言っていた採蜜は養蜂の物だけど、ハニーハンターが採るのは天然物だ。崖にぶら下がっている巨大なハチの巣を切り取って運ぶらしくて、なんと国家資格が必要だとか。
一方のお砂糖は砂糖大根から作っているらしい。私も各領の特産品の授業で習っただけだけど、先生は直径が1メートルを越えるって言っていた。土魔法で一気に掘り起こして、台車で運ぶんだって。
「それさ、砂糖とかハチミツを入れなくちゃいけないわけ?」
「入れないと薄い塩水になっちゃいますよ?飲めるなら良いですけど」
「オレンジ果汁が入ってるならイケる気がする」
ランベルトお義兄様がニカッと笑って言った。飲めるなら良いんですけどね。でも糖分は入れてほしい。水分や電解質の効率的吸収の為にも。
あなたにおすすめの小説
呪われた娘と蔑まれてきましたが実は大公女で皇帝の孫娘でした。
こもれびの空
ファンタジー
アルフェ大陸には4つの王国があり、平和であった。しかしごくまれに異能の力を持つものが生まれる。
彼らは呪われし者として、大陸の中央。広大な砂漠に追放されるのだった。
しかし、今から300年前、偉大な魔法使いは広大な砂漠をオアシスへと変えると、そこにアストラル皇国を設立。瞬くまに4つの王国を支配下に置いた。
しかし人の心は変わらない。見えざる力は厭わしいものとされ、アストラル帝国を悪とするミゼラブル教団は、地下深くしかし確実に人々の信仰を集めていた。
アストラル歴304年 大公の一人娘がミゼラブル教団によって攫われる事件が起きた。
関係者はことごとく処刑されたが、リゼ アストラルの消息はつかめないまま5年がたった。
そのころセレスティア王国の辺境にある孤児院では、ひとりの少女がたくましく生き抜いていた。
これは大公女リゼと彼女を溺愛するシオン アストラル。そして孫娘の前では好々爺になってしまうアストラル皇帝の物語である。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
幼馴染を囲う夫に、破滅を贈ります
たると
恋愛
結婚式当日。
幸せの絶頂で教会へ向かう途中、見知らぬ女に平手打ちされたエリアーナ。
「あなたさえいなければ」と叫んだのは、夫の最愛の幼馴染だという女。
それでも経済的に困窮する実家を救うため、エリアーナは泣き寝入りするしかなかった。
【完結】あなたの『番』は埋葬されました。
月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。
「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」
なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか?
「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」
そうでなければ――――
「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」
男は、わたしの言葉を強く否定します。
「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」
否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。
「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」
「お断りします」
この男の愛など、わたしは必要としていません。
そう断っても、彼は聞いてくれません。
だから――――実験を、してみることにしました。
一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。
「あなたの『番』は埋葬されました」、と。
設定はふわっと。
そんなに幼馴染を優先したいですか? あなたの隣はいりません
夏生 羽都
恋愛
レーデン王国、王立学院の貴族科に通うセレスには、想い人であり婚約する予定の辺境伯家次男のヒューゴがいる。しかし騎士科に通うヒューゴの隣には彼の幼馴染みであり、侯爵家令嬢のニーナがいつもいるのだった。
子爵家に後見をしてもらう事で学院へ通っているセレスは、高位貴族であるニーナとヒューゴに強く言えず、二人の距離が近過ぎても見ている事しかできなかった。
ヒューゴとの交流会の日、セレスはヒューゴと観るために両親が送ってくれた歌劇のチケットを用意していたのだが、ヒューゴに付いてきたニーナにチケットを強請られてしまう。
「ニーナに譲ってくれないか?」ヒューゴのひと事でチケットを譲る事になり、帰りの馬車がないセレスは徒歩で帰る事になる。日が落ちかける街の中を歩くセレスは、帰り道が分からずに迷子になってしまう。そんなセレスを偶然見かけて声をかけてくれたのが、帝国からの留学生でセレスと同じクラスのアルウィンだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になる方は、ブラウザバックをお願い致します。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
「君を愛することはない」と言われて三年、そろそろ白い結婚をやめようと思います
千乃
恋愛
伯爵家の娘・セシリアには、幼い頃からの許婚がいた。
公爵家当主にして王国宰相、ユーリス・シルヴェイン――初恋の相手でもある彼と、セシリアはついに結婚する。
しかし結婚初夜、彼は静かに告げた。
「君を愛することはない」と――。
ユーリスはほとんど帰宅せず、聞こえてくるのは他の女性との浮いた話ばかり。
没落寸前だった伯爵家の借金を肩代わりしてもらった身では、反論する術もない。
セシリアに求められるのは、ただ"完璧な公爵夫人"でいることだけだった。
しかし"ある夜"をきっかけに、ふたりの関係はより歪になる。
彼が稀に邸へ戻る夜――ユーリスは決まって、セシリアの隣で眠るのだ。
理由も、意味も、分からない。でも、怖くて聞けない。
そんな折、社交界である噂が囁かれ始めた。
他国の王女との縁談、そして「本命の女性がいる」という声。
結婚して三年。愛されなくとも、傍にいられればそれで良かった。
けれど、もう――潮時なのかもしれない。セシリアは静かに、離婚を決意する。