3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

処罰と結果と熱中症と

アリス様を襲おうとした男性生徒の処分が決まった。婚約年齢に達していない女性生徒を脅迫及び他の目的で誘拐しようとしたとして、停学1ヶ月だそうだ。本人達はちょっと話をしようとしただけなんて言っているらしいけど、薬物を使用してアリス様を眠らせて、なんのオハナシをしようとしたんだか。停学1ヶ月は軽いんじゃないかと思ったら、その前に体術倶楽部の先輩方にボコボコにされていたらしい。

「その男性生徒の怪我は治したんですか?」

「そんな訳無いでしょ?放置だよ。痛みに苦しみながら、掃除をしているよ」

教えてくれたのはダニエル様。見張りを付けられながら、他の子女誘拐未遂犯達と共に、ホールなどの掃除をさせられているらしい。ダンス専用の室内競技場2つ、音楽観賞用のホール1つ、武術専用の室内競技場3つに芸術棟の掃除をホウキ、雑巾で行っているんだって。何も知らない下級生から「なぜ先輩達が?」と尋ねられても答えられずに、相当ヘコんでいるらしい。

当然親にも事の顛末を書いた手紙が、王宮経由で送られている。

「それは……」

「ん?」

「心がバッキバキに折られてますね。良い気味です」

「キャシーちゃんって、こういうのを聞いて可哀想とか言わないんだ」

「同情出来る犯罪もありますけど、今回の人達には微塵も同情出来ませんから」

「なるほど」

ブレシングアクア聖恵水、足りてますか?もう少し作れますけど」

ブレシングアクア聖恵水はほかの光魔法使いも作れるからね。大丈夫だよ」

今日の付き添いはランベルトお義兄様。ローレンスお義兄様は生徒会執行部が忙しくて、付き添えなかった。1ヶ月半後には魔法披露会と武術披露会が行われるから、その準備に忙しいらしい。もう少し余裕を持たせればと思うんだけど、初等部1学年生が参加表明した場合、夏期休暇前だと早すぎるし、冬季休暇後だと最上級生が忙しすぎる。諸々を鑑みてこの時期になってしまうらしい。

それでも魔法披露会と武術披露会を同日開催にする事で、昔ほどタイトなスケジュールではないんだって。

ダニエル様の部屋を出ると、ローレンスお義兄様が走ってくるのが見えた。珍しい。ランベルトお義兄様と違って、ローレンスお義兄様は走る事が滅多にないのに。

「お義兄様、どうなさいました?」

「ダニエル様、キャシーを連れていって良いですか?良いですね?キャシー、一緒に来てほしい」

私の疑問には答えず、ダニエル様に一方的に言って、私の手を取ってそのまま走り出す。

「おっ、お義兄様、どうされたのですか?」

「会長が倒れた」

「会長様が?」

手を引っ張られたままなんとか走る。ランベルトお義兄様が並走しながら私を気遣わしげに見た。

「兄貴、兄貴。キャシーが辛そうだ」

「え?あっ。悪い。キャシー、大丈夫か?」

足を止めて私を覗き込む。私は膝に手を付いてゼイハァと息をしていた。

「大っ丈夫っ、ですわ。少し、休ませ、てください、まし」

「珍しいよな。兄貴がこんなに焦ってるの」

「倒れたのは会長だけじゃないんだ。会計担当と庶務担当の3名も倒れている」

「えっ?症状をお聞かせくださいませ」

「歩きながらで良いかな?今日は午後から予算案について話し合いをしていたんだ。4人とも異常に汗をかいていてね。少ししたらめまいと吐き気を訴えて、そのまま突っ伏した」

「熱中症ですわね。水分は取っていました?」

「私達は取っていたが、会長達はどうだろう?」

「執行部室に砂糖とお塩はございますか?」

「砂糖はある。塩はどうだろう?」

「後は柑橘類があると良いのですが」

「カフェテリアで分けてもらうか?」

「お願いしても良いですか?ランベルトお義兄様」

ランベルトお義兄様が走っていった。

「ローレンスお義兄様は執行部室に着いたら、水を溜める容器に冷水をお願いします。飲用と冷やす用の2種類」

「分かった」

息を整えながら執行部室に急ぐ。執行部室の前では無事だった役員がお義兄様を待っていた。

「フェルナー様」

「中には?」

「会長達だけです」

「失礼します。中に入っても?」

「フェルナー嬢、危険です」

「ドアだけでも開けてください。窓は開けていましたか?」

「窓?窓は……」

「開けてないよ」

ローレンスお義兄様が答えてくれた。私は症状から熱中症だと確信しているけど、皆様にその知識はないらしい。

「開けてください」

「でも……」

ほかの役員がためらっていると、ローレンスお義兄様がドアを開けた。ムッとする熱気が感じられた。

「お義兄様、窓を開けてください。皆様、手伝ってください」

机に突っ伏している会長様達をソファーに寝かせる。窓が開いた事で風が通った。体温が高い。皮膚は乾いて赤みを帯びている。汗はかいていない。本来なら涼しい場所に寝かせたいんだけど、私はこの辺に詳しくない。

「お義兄様、身体を冷やす用の水を」

「分かった」

「布を用意してください」

おろおろしているほかの役員達に指示をする。

「会長様、分かりますか?」

「……君は……?」

「ローレンス・フェルナーの妹です。頭痛はございませんか?」

「頭痛は無いね」

「キャシー、これを」

氷水で冷やした布を渡された。

「失礼いたします。少し冷たいですが」

頸動脈の辺りに冷たい布を当てる。

「気持ちいいね」

「皆様、他のお3方にも同じ様にお願いします」

ローレンスお義兄様がお水を持ってきてくれた。介助しながら少しずつ飲ませる。

汗を正常にかき出して、他の症状が改善された頃、ランベルトお義兄様がオレンジを5個と砂糖とお塩を持ってきてくれた。

経口補水液を作ってローレンスお義兄様に冷やしてもらう。私はまだ氷魔法が上手く調整出来なくて、全部凍らせてしまう危険があったから。

ランベルトお義兄様がオレンジを絞ってくれたから助かった。スカスカになっていくオレンジの実を、おもわずまじまじと見てしまった。

「結局なんだったのかな?」

「熱中症ですわね。このように暑い室内で水分も摂らずになんて、自殺行為です」

「そこまでかい?」

「はい。というわけで、倒れた皆様はこれを飲み干してください。その他の皆様も水分補給は忘れないようにしてください」

「こんなに?」

1リットル超の木製ピッチャーをそれぞれの前にドンと置く。置いてくれたのはランベルトお義兄様だけど。

「ありがとう。なんとかなって良かった」

ローレンスお義兄様が、経口補水液を飲みながら言った。

「まだ油断は出来ませんよ。今日はなんとかなりましたけど、この先も同じ様になる可能性があります」

経口補水液のレシピを書きながら、ローレンスお義兄様に言う。

「あ、ランベルトお義兄様、飲みすぎちゃダメですよ。お砂糖がたくさん入っていますから」

「贅沢品だね」

今私が書いているレシピは、お砂糖を減らしてハチミツを加えた物。幸いこの世界のハチミツは贅沢品じゃない。ハニービーも怒らせなければ攻撃してこない。ハニーハンターなる職業もあって、私位の大きさのハチの巣を取ってくるんだって。

以前オルブライトさんの言っていた採蜜は養蜂の物だけど、ハニーハンターが採るのは天然物だ。崖にぶら下がっている巨大なハチの巣を切り取って運ぶらしくて、なんと国家資格が必要だとか。

一方のお砂糖は砂糖大根から作っているらしい。私も各領の特産品の授業で習っただけだけど、先生は直径が1メートルを越えるって言っていた。土魔法で一気に掘り起こして、台車で運ぶんだって。

「それさ、砂糖とかハチミツを入れなくちゃいけないわけ?」

「入れないと薄い塩水になっちゃいますよ?飲めるなら良いですけど」

「オレンジ果汁が入ってるならイケる気がする」

ランベルトお義兄様がニカッと笑って言った。飲めるなら良いんですけどね。でも糖分は入れてほしい。水分や電解質の効率的吸収の為にも。













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