3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

送別会

 プレ社交会が終わったら、卒業式に向けての準備が始まる。去年は他人事ひとごとだったけど、今年はローレンス様が卒業してしまう。薬草研究会にも卒業する先輩が居るから、送別会という名のお茶会をサロンで開いた。発案は中等部の先輩達だけどね。

 サミュエル先生にも許可をとったし、というか参加してるし、剣術、体術倶楽部にも声をかけたらしい。

「キャシー、兄貴も呼んだ方が良い」

 ランベルトお義兄様の言葉に、薬草研究会のみんなが即行で動いて、ローレンス様を連れてきてしまった。そして私は安定のローレンス様の隣に座らされる。

「キャシー、はい、あーん」

 何の罰ゲームですか?みんなも見てないで止めてくださいよ。ランベルトお義兄様、責任とってください。え?無理って……。

「兄貴を呼ばないで、こんな男だらけの場所にキャシーを放置したら、後で何されるか分かったもんじゃない」

「今日は薬草研究会の送別会だったはずなんです。誰が最初に脱線したんですか?」

 みんながいっせいにサミュエル先生を見た。

「サミュエル先生ですか。分かりました」

「あ、あのね、キャシーちゃん……」

「薬草研究会の送別会に剣術、体術倶楽部の皆様が集まっている、その意味を教えてください。剣術、体術倶楽部の皆様方にはお世話になっていますし、参加するなとは言いません。ですが、もちろん全員に了解は取ったんですよね?」

「もっ、もちろん」

わたくしは聞いてませんでしたけど?いったいどなたの了解を取られたんですか?」

「バージェフ君とララちゃんとジャレット君とポインター君……」

「私は聞いてません。この紙に名前を書けと言われて署名しただけです」

「ポインター先輩、その署名は何の為ですか?」

「確かサロンの使用許可願い?」

「どうして疑問系なんですか?内容のハッキリしない物に簡単に署名しては駄目でしょう?何かの詐欺や犯罪に関する物だったらどうするんですか?」

「まぁまぁ、キャシーちゃん……」

「何を上手く納めようとして居るんですか?元凶はサミュエル先生ですからね?」

「だってさぁ、剣術倶楽部も体術倶楽部もお世話になっているでしょ?だったら招待しても良いでしょ?」

「ご招待に苦言を呈している訳ではありません。事前に何の承諾も取らなかった、その事を怒っているんです。ローレンス様、少しご遠慮してください」

 スコーンを私に食べさせようとするローレンス様に、注意する。油断も隙もないんだから。

「ごめんね。真剣に怒っているキャシーが可愛くて」

「その話は後でお願いします。サミュエル先生、バージェフ先輩もララ様もジャレット先輩もなぁなぁで了承させたか、名前を出しただけでしょう?」

 バージェフ先輩とララ様が大きく頷いた。ジャレット先輩だけはソッポを向いたけど。なるほど。ジャレット先輩は事前に承諾していたか。お祭り騒ぎ、大好きですもんね。

「あら?どうなさいましたの?」

 デイジー先輩が全員の新しい紅茶を淹れてきてくれた。

「デイジー先輩はご存じでしたの?剣術、体術倶楽部の皆様が……。良いです。分かりました。ご存じだったんですね?」

「どうして分かったの?キャシーちゃん、スゴいわ」

 あからさまに目線を逸らすんだもの。誰でも分かると思いますよ。

「高等部の皆様はご存じだったんですね。全員に周知してくださいよ」

「だって、楽しそうだったんですもの」

「楽しいのは否定しません。でも、事前に知らせておいて欲しかったです」

「ごめんなさいね、キャシーちゃん」

 デイジー先輩に優しくハグされる。とたんにローレンス様が私の腕を引っ張った。

「あら、ローレンス様。女同士ですもの。よろしいのではなくて?」

「私が隣に居るのに、キャシーに触れないでいただきたい」

「あらあらあら。キャシーちゃん、よろしいの?ローレンス様ったら、外出も許してくれないかもしれなくてよ?」

「外出は出来ます、よね?」

 一応聞いてみる。教会所属になるし、ミリアディス様の補佐になるんだし、出来るよね?

「私と一緒だけどね。行きも帰りも仕事中も。どこでも一緒だよ」

 わぁぁ、軽いヤンデレだぁ。デイジー先輩を揶揄からかっているのが丸わかりだけど。でも、ローレンス様、少しだけ本気ですよね。

「お気の毒ですわぁ」

 デイジー先輩、演技がヘタですね。棒読みです。

「キャシーちゃん、考え直した方が良いのではなくて?」

「婚約状態から考え直すって、契約の破棄、もしくは白紙撤回、または解消となりますけど、双方の合意が必要ですよね?出来ると思われます?」

「無理ね」

 デイジー先輩がローレンス様を見てキッパリと断言した。デイジー先輩も本気で言っていないし、誰も本気にしていないしね。

「キャシーちゃん、キャシーちゃん」

 デイジー先輩との話が終わって送別会を再開した頃、ララ様に手招きされた。

「ねぇ、ローレンス様との婚約、大丈夫なの?ローレンス様ってヤンデレっぽくない?」

「ララ様、もしかしてさっきのを本気にしました?デイジー先輩も演技ですし、大丈夫ですよ、たぶん」

「心配だわ」

「ララ様の方が心配です。ララ様って純粋ですから、思い込まないようにしてくださいね」

「分かったわ。頑張る」

「頑張りすぎないでくださいね」

 紅茶は相変わらず飲めない。カップに手を伸ばして口に運ぶ、そんな単純な事が出来ない。ハーブティーも同様だ。それでも薬草研究会ではマシになってきていると思う。

「キャシー、紅茶を飲むかい?」

「はい……。まさか飲ませてくれようと?」

「当然でしょ?」

「1人で頑張ります」

「遠慮しなくて良いのに」

 薬草研究会のみんなは事情を知っているけど、剣術、体術倶楽部の皆さんは知らないよね?さすがに恥ずかしすぎる。

 カップに手を伸ばす。指先が震える。深呼吸をしながらカップに触れた。ローレンス様とララ様が心配そうに見ているのが分かる。

 カップを持ち上げ、口に運ぶ。ちゃぽちゃぽというほどじゃないけど、水面が揺れている。なんとか紅茶を口に含んだ。

「大丈夫そうかい?」

「はい。大丈夫です」

 ローレンス様とララ様が同時に息を吐いた。よほど心配してくれていたらしい。まだまだ優雅に、というわけではないけれど、それでも前に進めていると思う。

「決めた。私、精神安定の光魔法を鍛えるわ。キャシーちゃんの負担を減らしたいもの」

「精神安定の光魔法は高度だよ?大丈夫かい?」

 最近、小さな傷なら治せるようになってきたローレンス様が言う。ローレンス様ってば、光魔法が使えると知った次の日には光魔法の魔術書を読んでたんだよね。おそらく使えなくても超高度の光魔法の難易度や使用方法について、勉強していると思う。

 送別会は和やかに終わった。途中、剣術、体術倶楽部のみんなが体力勝負をするなんて催しもあったけど、勝った方も負けた方も良い笑顔だった。フランシス・エンヴィーオやアッシュ・クレイヴン、イグニレス・ゲイツも参加させられていて、アッシュ・クレイヴンが3人抜きして盛り上がっていた。フランシス・エンヴィーオは2人目に敗北していた。イグニレス・ゲイツは一回戦負け。細っこいし、文官タイプだもんね。

「鍛えた方が良いかも?」

「薬草採取にも体力は使うよ。這いつくばっての作業だから、採取人がキツいってこぼしてるもん」

「グクラン領の薬草農家は棚を作っておりましたけど」

「棚!?」

 3人に詰め寄られたガビーちゃんが、少しのけ反りながら答える。

「木で箱を作って、台の上に乗せてました。その中に土を入れてそこで栽培してました」

 想像は出来る。出来るけど名称は知らないし、最初に思い付いた人ってスゴいと思う。

「棚と箱かぁ」

「スゴいよな、思い付いた人」







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