3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 4学年生

それぞれの恋愛

 何故か絶句してしまったチェルシー様とブレンダ様を不思議に思いかけて、庶民的思考だとそうなっちゃうのかもと思い直した。

「違うからね?庶民にだって8歳差の夫婦はいるよ?それどころか15歳差の夫婦も知ってる。そうじゃなくて、その位じゃないとキャスリーン様とは釣り合わないのかって思っただけ」

「お年より大人びてますものね」

「そうでしょうか?」

「そのネックレスも、婚約者から貰ったの?」

「はい。婚約者様の瞳の色のネックレスですの。普段は服の中に隠しておりますけれど」

 救民院に来る時はブラウスで来ている。そもそも丸首やブイネックのかぶり服が無い。この辺りは完全にお義母様とフランの好みだ。

 見せてほしいと言われて、チェーンを首元から引っ張り出す。

「ほわぁぁ」

「スゴいですね……」

「贅沢だとは思うのですけれど」

「親しみやすいから忘れちゃいますけど、キャスリーン様って、侯爵令嬢でしたね、たしか」

「親しみやすいけど気品があるっていうか、不思議な存在よね」

「そうでしょうか」

 褒められてるんだよね?

「この中心の宝石って、サファイア?」

「はい。好きな色です」

「良いですねぇ。お好きな色と婚約者様の瞳の色が同じだなんて」

「母さん、逆じゃない?婚約者様の瞳の色だから、好きな色なんじゃない?」

 その通りですとは言えなくて、曖昧に微笑んでおく。そうしたら何故だかきゃあぁっと歓声をあげられた。その声を聞いてララ様が様子を見に来た。

「キャシーちゃん、どうしたの?」

「どうしたと言われましても」

「賑やかだから様子を見に来たんだけど。あ、今のところ私達が必要な患者さんは居ないわよ」

「それは良かったです。わたくしの好きな色が青色だって言ったら歓声をあげられちゃって」

「ふぅん。キャシーちゃんは青色が好きなんだぁ」

 意味ありげにニヤニヤと笑われた。嫌な感じはしないけど、絶対に揶揄からかおうと思ってるよね。

「昔からですわね」

「昔から?3歳の頃からかしらぁ?」

「もっと前からです」

 通じたらしい。ララ様の顔から揶揄からかいの色が消えた。

「キャシーちゃん、ちょっと良い?」

 ララ様に部屋の隅に引っ張っていかれた。

「辛くはない?」

「大丈夫ですよ。この頃はあの事前世の死因も思い出しませんし。というか、記憶自体が薄れちゃってます」

「そうよねぇ。私もなのよ。記憶って薄れるわよね」

「取捨選択しているだけかもしれませんけどね」

「しゅしゃせんたくは分かんないけど」

「ララ様……」

「うぅぅ……。自分の地頭の悪さにヘキエキするわ」

 泣き真似をしだしたララ様を、チェルシー様とブレンダ様が心配そうに見ていた。

 心配するチェルシー様達に気が付いたララ様が私に助けを求めたけど、知りません。ご自分の後始末はご自分でどうにかしてください。見捨てるのもアレなので、少しだけ助け舟は出しましたけどね。

 ノボリッチ伯爵とケネス様が、チェルシー様とブレンダ様に面会を申し込んだのは、そんな時だった。

「チェルシーさん」

「伯爵様」

 親しげに呼び合う2人をなんとなく見守ってしまう。

「キャシーちゃん、あの2人って良い雰囲気よね」

「そうですね。チェルシー様は否定されておりましたけど」

「説得力は無いわよね」

 2人で話していると、ケネス様とブレンダ様が話に加わった。

「あんな楽しそうな母さん、初めて見ました」

「両親は罰せられましたし、自由になっていただきたいです」

「想いは止められませんけれど、お2人共、どこかで遠慮している気がいたしますわね」

「遠慮?」

「気の所為せいでしょうか?お互いに自分は相応しくないと思っている気がいたします」

 私がそう言うと、ララ様、ブレンダ様、ケネス様がノボリッチ伯爵とチェルシー様を一斉に見た。

「よく分かんないわ」

「お互いに想いあっているのは分かるんだけど」

「自分は相応しくない?どうして?」

「ノボリッチ伯爵様はご自分の健康面に不安を抱えておいでですし、チェルシー様はご自分の年齢を気にされている感じがいたします」

「ノボリッチ伯爵様の健康面の不安は見て分かるわ。チェルシーさんの年齢って……。それもそうよね。ブレンダさんのお母さんなんだもの」

「見た目はお若いですから、気にしなくても良いと思いますけれど、お相手が伯爵様というのが……。社交界では色々言う方がいらっしゃいますからねぇ」

「そうよね。私は詳しくは知らないけど、身分でしか見ない人もいるものね」

 ララ様にも私の危惧するところが伝わったらしい。ノボリッチ伯爵に言う人は少なくても、チェルシー様に直接ぶつける人は少なくないと思う。チェルシー様はそこまで弱くないと信じたいけど。

 恋愛は個人の自由だし、私達はまだまだ子供だ。口出しは出来ない。

 結局この日はほとんど光魔法を使わずに終わった。お医者様の薬湯やポーション水剤の準備を手伝わせてもらった。

 お医者様の指示の元行う薬湯やポーション水剤の下準備は、とても勉強になった。ポーション水剤は最後に光魔法が必要となる為、今は準備だけでサミュエル先生が救民院を訪れた時にまとめて作るのだそうだ。

 お手伝いを終えて帰ろうとすると、ミリアディス様からお呼びがかかった。

「ミリアディス様、お呼びとうかがいましたが」

 ミリアディス様の執務室に行くと、ローレンス様とエドワード様が一緒にいた。

「ごめんなさいね。および立てしちゃって」

「何かございましたか?」

「えぇ、キャスリーン様。申し訳ないのだけれど至急ベルヌーイ領に向かってくれないかしら」

「ベルヌーイ領ですか?」

「えぇ。ヨハケーネ国との境がレジェス鉱山なのはご存じですわね?そこの坑道で大規模な落盤事故があったらしいの」

「それでわたくしを派遣すると?」

「ブランジット様に言われてしまって。わたくしもエドワード様も反対したのですけれど」

「サミュエル先生にですか?」

 たぶん、経験を積ませる目的だと思う。でもレジェス鉱山は王都から遠い。往復で何日かかるか。

「ブランジット様も一緒に行かれるわ。お願い出来ないかしら」

「移動手段はどうなさるのですか?」

「緊急事態だからね。今、手続きを行っているよ」

 エドワード様が硬い表情で告げる。ローレンス様も同様だ。

「移動手段があるのなら、構いませんが」

「キャシー……」

 ローレンス様が何かを言いかけてエドワード様に制された。

「ごめんなさいね。本来ならキャスリーン様をなんて許可はしたくないのだけど。まだ学生なのですもの」

「それほどの緊急事態なのでしょう?」

「明日の早朝に出発となると思うわ」

「分かりました」

「キャシー、私も一緒に行くからね」

「ローレンス様も?」

 エドワード様をチラッと見ると、苦笑しているのが分かった。

「ローレンス様、ご無理は言っておりませんわよね?」

「……言ってない……」

 言ったのね。エドワード様は許可してないんだと思う。

「ローレンス様とご一緒できるのは嬉しいですが、職務を投げ捨ててませんわよね?」

 黙ってしまったローレンス様を見つめる。

「エドワード様、いかがですか?」

「申し入れはあったけど、許可は出していない」

「ですわよね」

「私はキャシーの婚約者です。一緒に行く権利はある」

「落ち着け、ローレンス。お前が行って何が出来る」

「それは……」

「聞き分けろ、ローレンス・フェルナー。私だって許可したい。だが私達が行っても今は役に立たない」

 ローレンス様が再び黙ってしまった。帰りの馬車の中ではずっと私の手を握っていた。



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