3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

ミザリア伯爵の治療 ②

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「フェルナー嬢、我が家のエプルリンゴのケーキのお味はいかがですか?」

 ウィリアム様があれこれと世話を焼いてくれる。さすがに紅茶は淹れられないけど、私の為に椅子を引いてくれたり、細々とした用事も引き受けてくれている。

「ウィリアムはフェルナー嬢に、好意を持っているようだね」

「光栄ですわ」

 胃、大腸、腹膜、肝臓、膵臓、肺と治療を終え、後は脳と心臓を残すのみとなったその日、ミザリア伯爵に話しかけられた。お医者様の痛み止めは効いているようで、痛みは無いらしく、それは救いだと思う。お医者様はラーフェニック様に対して毒と知りながら薬と偽って服毒させていたけれど、伯爵様にはちゃんと職務を遂行していたようだ。脳と心臓を残したのは、ワザとじゃない。心臓はともかく、脳は繊細すぎて手を出せなかったというのが、本当のところだ。

「フェルナー嬢には婚約者がいたよね?」

「はい」

 今、この場にウィリアム様は居ない。ミザリア伯爵が用事を言い付けて、席を外している。たぶんこれを言いたくて席を外させたんだと思う。

「そうか、そうだよねぇ」

「あの?」

「いやぁね、孫だからって言う訳じゃないけど、素直な良い子なんだよ」

「こちらに来てからの言動で、重々承知しておりますが?」

「尽くしてるよね」

 ハハハと伯爵様が笑う。

「脳の治癒に移ります。脳は繊細な場所ですので、記憶が消える事もあると覚えておいてくださいませ」

「分かったよ」

 光魔法で関知した脳の癌細胞は表面だけ。たぶん大丈夫だと思う。でも、保険はかけておきたい。

 ミザリア伯爵の手を握り、意識を脳に向ける。左脳の表面、左耳の少し上辺りに集中している癌細胞を、少しずつ正常に生まれ変わらせていく。

「ぐぅっ……」

「伯爵様、いったん止めますね」

 伯爵の呻き声が聞こえた為、処置をいったん中止する。

「悪い、ね。中、止させて」

「いいえ。伯爵様の体調が最優先ですから」

 紅茶を飲んで息を調えていた伯爵が、ふぅ、と息を吐いた。

「大丈夫だよ。続けてくれるかな?」

 再び伯爵の手を握り、意識を脳に向ける。ソッと扉が開いて誰かが入ってきた。

 伯爵の呻き声が聞こえて、いったん中断する。

「フェルナー嬢」

「ファレンノーザ公爵閣下。どうなさいました?」

「すまないが、少し急いだ方がいい。休暇が終わってしまう」

「でも……」

「大丈夫だよ。ずいぶん楽になった」

 伯爵も言ってくれた。まだ脳と心臓に癌細胞が残っている状態だ。このまま放置すると、また癌細胞が増殖する。それじゃ意味がない。

「ふむ。ウィル、時間的余裕は?」

「帰りの道程を考えると、2日」

「教会に協力を頼もう。エイドリアンとアーノルドは動かしてもいいかね?」

「エイドリアンは動かせぬ。首謀者のようだ。アーノルドはまぁ、大丈夫だな。アヤツは積極的に動いてはおったが、唆されただけのようだ」

「ではアーノルドに頼もう。手紙を書く」

 専属執事が紙とペンを用意する。にわかに慌ただしくなる室内。隣に来てくれたファレンノーザ公爵に、ソッと聞いてみた。

「閣下、ラーフェニック様はどうしておられますか?」

「長く臥せっておったからな。リハビリとやらでまずは歩いておる」

 それなら安心だ。

「フェルナー嬢こそ、クリスの治療はどうなっておる?」

「ほとんどの癌細胞は取り除けました。後は人のもっとも重要な器官、脳と心臓です。脳の方は後少しなのですが、手こずっております」

「手こずって?」

「脳って繊細な場所ですので、うっかり他の場所の細胞をいじってしまうと、不味い事になってしまいますので」

「それは慎重にならざるをえないな。心臓は良いのか?」

「こちらも怖いですね。脳よりはマシですが」

「なるほど」

 ミザリア伯爵が手紙を書き終え、呼ばれて入室してきたアーノルドに手渡す。アーノルドは手紙を受け取って、出ていった。その後をファレンノーザ公爵の護衛が付いていった。

「さて、フェルナー嬢、悪いが続きを頼めるかな?」

「かしこまりました」

 伯爵の側の椅子に座り、手を握って光魔法を使う。休憩前と同じように伯爵が呻き声をあげたらいったん中止する。伯爵には苦痛が我慢出来なくなる前に声をかけてほしいと言っているんだけど、ギリギリまで我慢してくれちゃうんだよね。

「伯爵様、何度も申しますが、ギリギリまで我慢なさらないでくださいませ」

「何度も言ってるけど、ギリギリではないよ。そこはちゃんと考えているよ」

わたくしは、苦痛を与えたい訳ではないのですよ?」

「知ってるよ。フェルナー嬢の光魔法は温かくて心地いい。心根が綺麗だから、魔法も綺麗なんだろうね」

「伯爵様?誤魔化さないでくださいませ?」

「誤魔化されてくれないね。本当に我慢はしてないよ、ちょっとしか」

「してるじゃありませんか」

 私と ミザリア伯爵の会話を、ファレンノーザ公爵が面白そうに見ていた。

 脳の癌メタ転移を綺麗に取り除き、正常な細胞に戻すと、ミザリア伯爵は眠ってしまった。わたしも魔力が少なくなって、魔力切れギリギリだ。

 フラフラになりながら伯爵の部屋を出ると、ファレンノーザ公爵にヒョイと担ぎ上げられた。肩の上に荷物みたいに、ヒョイっと。

「公爵閣下、降ろしてくださいませ」

「毎回こんな状態か?」

 隣を歩くウィリアム様に問いかける。

「毎回です。今日はいつもよりお疲れのようですが」

「フェルナー嬢、人に無理をするなと言う前に、自分も無理をしない方がいい」

「分かっておりますが、必要な事ですので。妥協は出来ません」

「明日中に終わる予定だが、くれぐれも無理だけはするな。良いな?」

「お約束出来かねます」

「なぜそこまで?」

「信念です。それに癌細胞は1つでも残れば再発します。気を抜く訳にはいきません」

「頑固だな」

「申し訳ございません」

「心にもない事を」

 低く笑って、私の部屋に足を踏み入れる。私に付けられた侍女が止めていたが、気にも介さずベッドに運ばれた。

 侍女がデュベ掛布団をめくると、ポスンとベッドに放り投げられた。

「ゆっくり休め。無理をする事は許さない」

「はい」

「言っても聞かないだろうがな」

 笑いながら言い捨てて、ファレンノーザ公爵は出ていった。

「フェルナー様、夕食はいかがいたしましょう?」

「持ってきていただいてもいいですか?量も少なめで」

「かしこまりました」

侍女が出ていく。要望を伝えに行ってくれたんだと思う。魔力切れになると、頭がフワフワしてまともに立ってられないし、思考も鈍る。命の危険は無いと言われているけれど、本当かどうかは分からない。魔力の量自体が教会の属性判定の水晶の輝きで、多い少ないを判別しているだけらしいし。

結局夕食を食べずに寝てしまったらしい。目が覚めると、室内はボンヤリと足元灯が灯っているだけだった。

「お腹空いた、かも?」

ゴソリとベッドから起き上がる。応接セットのテーブルに保温の魔道具に乗せられたスープとサンドイッチが置いてあった。お湯と茶葉も用意されていて、起きたら食べられるようにしてくれてあった。

ありがたく紅茶を淹れ、サンドイッチとスープを頂く。明日、もう今日かな?伯爵の心臓の処置がある。その為にも、もう少し寝ておいた方がいいよね。

思いがけず長い滞在となってしまって、年越しもここで過ごしてしまった。

ローレンス様、心配しているだろうな。お義父様もお義母様もランベルトお義兄様も。

食事を終えて、少しソファーで考えてしまった。もう寝なきゃ。ファレンノーザ公爵に無理は許さないとか言われちゃったし。

おやすみなさい。
















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