3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

寄り道……寄り道?

  「助けてほしい」と言った平伏した人達と、「集落に来てほしいらしい」と言ったファレンノーザ公爵の言葉から、推測される事柄はひとつしかない。何らかの病気や怪我で苦しんでいる人が複数人居るんだと思う。当然罠だという事も考えられる。

「まずはお立ちください」

「いいえ、いいえ。このままで。光の聖女様や尊いご身分の方に、おそれ多くもお声をかけたのです。お顔を見るなど、とてもとても……」

 ものすごく話しにくいんだけど。しゃがみこもうとすると、公爵やサミュエル先生に物凄い目で見られた。

「お答えいただけますか?病人か怪我人でしょうか?」

 平伏したままの人達に問いかける。

「怪我人です。複数の」

 複数の怪我人か。

「先生、向かいましょう」

「ちょっと待ってくれるかな?今、確かめさせているから」

 ジリジリした時間が過ぎる。やがてひとりの騎士が戻ってきた。

「報告いたします。サトゥーレ川沿いの岩盤が崩落しております」

「サトゥーレ川って、たしかハナアイム領とフェルナー領の境目を通る川だよね?」

 サミュエル先生が言う。たしかオルブライト様の所の側を流れる川が、サトゥーレ川だった。

「はい。急ぎましょう」

 ただちに王都に連絡を入れる騎士を選出し、伝令に走ってもらって、私達は現場に向かった。荷馬車に積んである救援物資も一緒だ。無駄と思われる馬車はそのまま王都に帰した。

 私はダニエル様の馬に乗せてもらった。マリアさんの馬は2人乗りに向いていないらしい。

 平伏していた人達は申し訳ないけど荷馬車に乗ってもらった。

 馬で駆ける事、10分。集落に着いた。慌ただしい空気を感じる。

 平伏していた人達はこの集落の代表者達で、荷馬車から降りて集落内を案内してくれた。怪我人が集められているのは、サトゥーレ川に程近い、掘っ立て小屋のような場所だった。元はサトゥーレ川の近くの作業小屋だったらしく、一応床は板張りされている。中には12人が横たわっていた。足や手に巻かれた布が赤く染まっている。頭に怪我している人も居るし、女性や子供も居る。

「キャシーちゃん、まずは?」

わたくしが指示しますの?」

「こういうのも経験だよ」

 まずは簡単にトリアージをしていく。重傷者から治療すると告げ、納得してもらうしかない。私達は貴族だから、それを利用させてもらった。この場合は性別年齢関係無しだ。当然不満もあるだろうけど、誰も口にしなかった。

 岩に押し潰された人が多くて、まだ埋まっているかもしれないという事なので、手すきの護衛にはそちらに行ってもらう。サミュエル先生と協力して治療を進めていく。

 治療が全体人数の半分ほど終わった時、新たな患者が運び込まれた。全身が血に染まっている。

「キャシーちゃんはその人を頼むよ」

「分かりました」

 間違いなく最重傷者であろう男性を治療していく。頭からも出血しているし、手足も骨折して、腹部も血に染まっている。まずは頭部を治す。

「あなたっ」

「入らないでください。今、光魔法使いが治療しております」

「お願いします、あの人の側に行かせてぇぇ!!……」

 入口で家族らしき人が叫んでいた。護衛の騎士がそれを押し止めている。

 誰も死なせない。気合いを入れ直して治療を続行する。

「おい、なんだ?この光は」

 不意に辺りが明るくなった。

「キャシーちゃん……」

 サミュエル先生の呻き声のような声が聞こえた。

 治療速度が上がる。最重傷者の男性の怪我がみるみる治っていく。頭部が終わったら腹部、手足と治療していった。明らかに治癒速度が速い。

 全ての人を治療し終えた時、胸元のペンダントの石が砕けた。

「あ……」

「キャシーちゃん、怪我は無い?」

「はい。でもペルクナスの心臓が、砕けてしまいました」

「まぁ、仕方がないね。形があればいつかは壊れるんだから」

「そうですね。仕方がないですよね」

 ちょっと残念だけど。

「ところでキャシーちゃん、無理はしてない?」

「はい。まったく。途中で明るくなりましたよね?」

「他人事だね。あの光はキャシーちゃんの手元からだったよ?」

「え?わたくしから?」

「光を浴びたら治癒速度が上がった。何を考えてたんだい?」

「この人も誰も死なせないとは決意いたしましたが。外からのお声が聞こえましたので。気合いを入れ直して治療しましたけど」

「それかもね。よく分からないけど」

わたくしにもよく分かりませんわ。あれだけの人数を治癒して、まだ余裕がありそうなのですけれど」

「私もだよ。あの怪我の程度なら、魔力が少なくなっていても、おかしくないんだけどね。他に怪我人は居ないのかな?」

「どなたかにお聞きしないと分かりませんわね」

 2人で話しながら小屋を出た。外では救出作業というか、崩落した岩盤を取り除いていた。ファレンノーザ公爵も作業員に混ざっていた。

公爵プリンス……」

「公爵閣下……」

「おぉ、治療は終わったかね?2人共」

「はい。公爵プリンスはお手伝いですか?」

「ひとりでも人員が欲しいところだからな、今は。身分がどうとか言ってられん。それに岩を除いておかぬと、ブレイクリー男爵領の二の舞になっては困るからな」

「テミポイト川ですか。あれは酷い人災でしたからね」

 岩を取り除く作業は、私は役に立たない。ダニエル様は地魔法で大きな岩を移動させているし、マリアさんはソリのような道具を作り出して、お手伝いしている。

「先生、わたくしには何も出来ませんか?」

「十分に役に立ったよ。少し休もう」

「でも……」

「気になるなら、みんなが怪我をしないように、お祈りでもしていたら?」

 サミュエル先生はハハハ、と笑って私を促して小屋に戻った。小屋の中ではお身内達が手を取り合って喜んでいた。

「こういうのを見ると、助かって良かったって思うよね」

「はい。温かい気持ちになります」

 サミュエル先生と話していると、気が付いた患者やお身内に感謝された。

「ありがとうございました」

「感謝してもし足りません」

「お2人のおかげで、助かりました。痛みもありません」

「「「「「ありがとうございました」」」」」

 その場にいた全員に頭を下げられた。子供もよく分かっていない感じながら、頭を下げてくれている。

「頭をあげてください。光魔法使いとして当然の事です」

 サミュエル先生が一般庶民の顔をして言う。なるほど。こうやって一般庶民だとアピールしているのか。私も見習わないと。

 とはいっても私達の今の格好は、貴族の服装だ。私はフェアールカク領に向かった時の白いワンピースだし、サミュエル先生は仕立ての良い貴族服だ。素材も違うし型も違う。どうやっても庶民には見えない。それでも下級貴族かな?位に受け止められたらしい。

 一方の私はどう見ても高位貴族。みんなが遠巻きにしていて、ちょっと寂しい。

「おねえちゃん、キゾクさま?」

 3歳位だろうか?女の子が私のスカートを引っ張った。

「えぇ……。うん、そうよ。でも、仲良くしてくれると嬉しいな」

「なかよくしてあげるっ。おねえちゃん、あそんで?」

「エマっ!!こっちに来なさい!!無礼を働いてはなりません」

母親らしき女性が慌てて女の子を引っ張った。

「申し訳ございませんっ」

「まぁ、いいえ。とても可愛らしいお嬢さんですわね」

「ありがとうございます。お転婆で礼儀も知らなくて」

そこまで話してハッとしたように頭を下げた。

「申し訳ございません。ご無礼を」

「いいえ、無礼など。お気になさらないでください」

「おねえちゃんのおようふく、きれい」

「ありがとう。エマちゃんの髪の毛も可愛いね」

ツインテールにしてるんだよね。エマちゃんが動く度にピョコピョコ動いて、とても可愛い。

















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