3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

兵士達との対話

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 屋内訓練場に入ると、みんなの視線が一斉にこちらを向いた。ファレンノーザ公爵が一緒だから、下卑た視線は無い。

「どうかされましたか?総督。光の聖女様もご一緒とは」

 ひとりの将校が駆け寄ってきた。

「皆と話をしたいと、フェルナー嬢が仰ってな。俺は少し離れているから」

「へっ?離れているんですか?それはその……」

「フェルナー嬢が希望されたのだ」

 苦々しい顔でファレンノーザ公爵が言う。おそらく纏め役の将校の方が、私を見た。

「粗暴な者が多いですので、ご容赦願います」

「かしこまりました」

 なおも不安そうにしながら、案内してくれた。

「光の聖女様が皆と話をしたいそうだ」

「へっ?俺達と?」

「よろしくお願いいたします」

「いやでも、話って何を?」

「お貴族様のお嬢様が何を聞きたいって言うんだ?」

「何でもよろしいのです。ただ、わたくしは聞く事しか出来ません。何かの拍子にこういう事があって、と友人に言ってしまうかもしれませんが」

「それは……」

「個人が特定出来る事柄、外部に知られてはマズい事柄は、決して漏らしません」

「お姫さんはどこの出身だ?」

「フェルナー侯爵領ですわね」

「お前、何を聞いてんだ?」

「年は?」

「15歳です」

「15歳かぁぁ」

「おい?」

「だってさ、こんなにちっこいんだぜ?なのにここに連れてこられて、不安なんじゃないかと」

「不安はございませんわよ。国軍訓練場を訪れたのも、わたくしの意志です。救民院で治療活動をしておりました時に、ファレンノーザ公爵閣下に訪問の要請は受けましたが、受け入れて訪問したいと言ったのはわたくしです」

「男ばかりでむさ苦しいが、大丈夫か?」

わたくし、フェルナー侯爵家の私兵達の訓練時に、側で見させていただく事もございますの」

「それは貴族のお綺麗な訓練だろ?こっちは泥だらけで汚れてるんだぞ?」

「どこも同じですわよ。フェアールカク辺境領の皆様もそんな感じでしたし」

「なんでそんな事を知ってるんだ?」

「実際に行きましたもの。あちらで治癒行為をしてきました」

「フェアールカク辺境領まで?」

「はい」

「あっ、そういえば出発式の時に居たかも?」

 ひとりの将校が、思い出したように言う。

「居りましたわね」

 ザワザワとし始めた。

「あのぉ、聖女様がわざわざ行ったんですか?」

「はい。光魔法使いとしてまいりました。特別待遇は受けておりません」

「そうは言ってもお嬢様だろ?特別待遇に決まっているじゃないか」

「たしかに宿泊したのは領主館でした。ですが、食事は避難民の皆様と同じ物でした。こちらから提供もしております。避難された方のお食事を奪う訳にいきませんから」

「ひとつ言っておくが、フェルナー嬢の言った事は真実だ。俺達がこちらで一緒にと言ってもかたくなに固辞していた。宿泊だけは総督閣下に連れていかれていたが」

 一緒にフェアールカク領に行った将校が言ってくれた。この人、最初は文句ばかり言っていたのよね。その内何も言わなくなったけれど。

「なぁ、お姫様、侯爵家の私兵って、どんな事をやってるんだ?」

「護衛や領内の治安維持活動です。皆様と変わりませんわね」

「侯爵領で訓練してんのか?」

タウンハウス王都の侯爵邸付きの私兵達は、タウンハウス王都の侯爵邸で訓練しております」

「お姫様も見てるんだよな?」

わたくしはまだ学生ですので、長期休暇の時だけですが。救民院にもまいりますから、居ない時もございます」

「お姫様が怪我とか治してくれんの?」

タウンハウス王都の侯爵邸付きのお医者様がいらっしゃいますので、お医者様が。お医者様の指示がありましたら、わたくしが対応いたします」

「光魔法使いが対応するって、どんな怪我だよ」

「骨折や長引くだろう打撲ですわね。訓練に支障をきたしますので。光魔法の多用は、人の持つ治癒力を奪いかねませんので、必要最低限の使用をとお医者様には言われております」

 擦過傷はお酒で洗っておしまい。お酒はウィスキーらしく、医務室に小型の樽で常備されている。飲んじゃう人もいるらしくお医者様がいつも怒っている。

 ちなみにウィスキーで洗ったからといって、殺菌作用は無い。それでもお医者様が使っているのは、消毒に有効だと習ってきたから。ウィスキーに殺菌効果は無いと言ったんだけど、残念ながら覆せなかった。現代では真水で洗い流す方法が主流だ。消毒液は使わない方が良いとされている。細菌も消毒出来るけど、正常な細胞組織も傷付けちゃうという理由だ。病院では生理食塩水を使っているけど、ご家庭では水道水で十分だ。日本の水道水は品質管理がしっかりしていて、細菌の心配はほとんど無いから。

 出血が多かったり傷口がパカッと開いている場合には、浄化の魔道具に入れてあるゴーズガーゼを使う。フェルナー侯爵家のお医者様は麻酔無しで縫っちゃう事もある。局所麻酔もあるけど、直接傷口に塗布していて、見ていて怖かった。

「兵士の訓練って、キツいんだよな」

「容赦なく転がされるし、鎧は熱いし」

「お姫様が来てくれるなら、頑張れるんだけどな」

 口々に言われてしまった。

わたくしがですか?お義父様と婚約者の許可が出たらになりますわね」

「あー、婚約者かぁ」

「良い顔はしないだろ?お姫様、可愛らしいし」

「俺達と嫌がらずに話もしてくれるしな」

「絶対に溺愛されてそう」

「友達と一緒にとか?」

「お姫様のオトモダチってお貴族様だろ?無理だって」

 友達と一緒にかぁ。ガブリエラ様、イザベラ様、リリス様の顔が浮かぶ。みんな美人で可愛いけど、ガブリエラ様とイザベラ様は婚約者というか、お相手がいる。リリス様は人見知り発動しそうだな。人見知りだけど必要な時には、しっかりするんだよね。

「見学して欲しいのですか?」

「そりゃあもちろん。可愛い女の子に頑張ってとか言われたら、やる気も出るってもんよ」

「慰問も良いけどさ、なんていうか相手してやってるって感じがなぁ」

「そうそう。誰にも相手されないだろうから、仕方なくって言われた事あるんだぜ、俺」

「国軍って言っても、何かあって褒められるのは俺達じゃなくて上官だしな」

「指示に従って動いただけって言われるしさぁ。俺らはそれしか許されてねぇよ。勝手な事をするなって怒られんだぜ。その後の処罰も怖いしさ」

「そうだよな。人助けしてたら殴られた奴、知ってる。そんな消えそうな命など捨て置けって怒鳴られてた」

「どなたにですか?」

「上官だよ。つっても、あの人じゃない。あの人はあいつを庇ってたんだ」

 少し離れていた将校を見る。

 消えそうな命など捨て置け、か。災害現場では間違っているとは言い切れない。出来れば全員助けたくても、それが出来ないと判断したら、トリアージ命の選別をするしかない。

 でもさっきの兵士が言ったのは、おそらく違う意味だ。

「捨て置けと言われた要救助者は、もしかして平民ですか?」

「そうだよ、平民だ。助けても意味が無いって言われてた」

「助けても意味が無い……」

「お姫様にそんな顔をしてほしい訳じゃないんだ。悪いな。愚痴を聞かせちまって」

「いいえ。お話しいただき、ありがとうございました」

 ファレンノーザ公爵が歩いてきた。どうやら時間のようだ。

「フェルナー嬢、気は済んだか?」

「ある程度ですわね。少し気になるお話も聞きましたから」

「気になる話?」

「身分至上主義者のお話ですわ。こちらにいらっしゃる皆様は、真摯に職務に向き合っておられます。ですがこちらにいらっしゃらない方にそのような方が居るようです」

「ふむ。例えば?」

「命に軽重を見る方ですわね。身分が高いから、低いからと差別する方です」

「ふむ。詳しく聞かせてもらおう」

「別室でもよろしいでしょうか?」

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