3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
265 / 658
学院中等部 7学年生

みんなの気遣い

しおりを挟む
「ストゥルッフォリ。ナポリの伝統菓子よ。小さな丸いドーナツにたっぷりのはちみつをからめて、さらにカンディーティという果物の砂糖漬けやシロップ漬けやトッピング用の砂糖などを合わせた甘~いお菓子」

「聞いただけで甘そう」

「ジンジャーブレッドマンは?」

「作っちゃう?材料はあるわよ?」

「作りたいっ」

 きゃあきゃあと予定が決まっていく。ララさんは「イチゴのショートケーキを食べたい」と言って、「ブッシュ・ド・ノエルで我慢してね」と言われていた。この時期、フラガリアイチゴは無いのよね。グリーンハウス温室で大々的に栽培流通してないから。

 私はどこか他人事ひとごととして、みんなを見ていた。虚無感が自分を満たしている気がする。積極的に何かをしようと思わない。

「キャスリーンちゃんは何か食べたい物は?」

 セシルさんが聞いた。

わたくしは……。ごめんなさい」

「良いのよ?無理をしなくて良いわ」

 リーサさんが背中を撫でてくれた。

 午後のお茶の時間には、使用人達も一緒にお茶を楽しんだ。男女関係無くて、リーサさんも楽しそうで充実しているのが分かる。

 夕食後、ひとしきり騒いだ後、各々おのおのの部屋に引き上げた。

「ここがキャスリーンちゃんのお部屋よ」

 タウンハウス王都のフェルナー邸のお部屋よりは小さいけれど、広い部屋に広い天蓋付きのベッドが置いてあった。他にもソファーセットとか、ドレッサーも用意されている。

「よろしいのですか?こんなに大きなお部屋を」

「私が決めたの。当然よ」

「ありがとうございます」

 天蓋の内側で着替えをして、ソファーセットに座る。

「疲れた?」

「いいえ。疲れてなどおりません」

「ねぇ、キャスリーンちゃん。ローレンス様の事は、私も聞いたわ。大丈夫?無理してない?」

「無理はしておりません。それにローレンス様は必ず帰っていらっしゃいます」

「えぇ、そうね。私もそう思うわ。でもね、不安じゃない?」

「不安など。ローレンス様の方が辛く苦しい思いをしてらっしゃるに違いございません。わたくしが不安になど……」

 ポロリと涙が頬を伝った。あれ?おかしいな?

「泣いてしまいなさい。ローレンス様はきっと帰ってらっしゃるけれど、それまで泣いちゃダメなんて誰も言わないわ。泣いて良いのよ」

 リーサさんにそっと抱き締められた。どうしよう。涙が止まらない。

 気が付いたらリーサさんに抱き締められたまま、わんわんと大声で泣いていた。

「大丈夫。大丈夫よ。1度吐き出してしまいなさい。そうすればもっと強くなれるわ。大丈夫よ。みんなが居るわ」

 リーサさんの言葉が心に沁みていく。みっともなく大声で泣いて、いつのまにか眠ってしまった。



 ~~~リーサ視点~~~



 キャスリーンちゃんは泣いたまま眠ってしまった。部屋の隅に居たキャスリーンちゃんの護衛に頼んで、ベッドに運んでもらう。

「お手数をお掛け致しました」

「良いのよ。もしかしてずっとあんな感じだったの?」

「そうですね。今回の件でお泣きになられたのは、先程が初めてです」

「貴女からも話を聞きたいわ。一緒に来てちょうだい」

 キャスリーンちゃんの護衛を連れて、部屋に戻る。

「遅かったわね。どうだった?」

「泣いて泣いて、泣き疲れて眠ったわ。まともに眠れてないようだから、朝まで起きないと思うけど。眠り香だっけ?あの匂いにも気付いていないようだったから」

「そう。珍しいわね。キャシーちゃんは匂いにも敏感で、いつもと少しでも違ったら、すぐに気付くのに」

「そうなの?」

「うん。だから香水も控えめだし、普段と違うとすぐにバレるのよね」

「キャスリーンちゃんは、ここに来るまでどうしてたの?」

「ローレンス様の事があってから、暇さえあればお祈りよ。無意識に魔力も使ってるみたいで、キャシーちゃんがお祈りをすると、不調が消えるのよ。気付いていないみたいだけど。それにキャシーちゃん自身が淡く発光するの」

「え?」

「そうよね?」

「はい。フェルナー邸でも同じです。その度にキャスリーン様が消えてしまいそうで、不安になってしまいます」

「確かに不安よね?今14歳?」

「もう少しで15歳になられますね」

「小さすぎない?というか、細すぎない?身長はあると思うけど。細いから心配だわ」

「でも身長は伸びたのよ。嬉しそうだったもの、夏に会った時に」

「今はその事は良いのよ。もちろん喜ばしい事だけど心も身体も大人びてきてというか、心は大人だったわね、前から。そうでしょ?」

「えぇ。会った時からね。しっかりしてるってレベルじゃなかったわ」

「あの、皆様方。キャスリーン様はいまだ……」

「ん?どうしたの?いまだって何の事?」

「月の物が来ておりません」

「え……」

 遅くない?だいたい15歳までには、毎月のわずらわしさに悩まされるわよね?

「私がキャスリーン様に付けられたのは、そもそもが女性だから、という理由でございます。男性には話しにくい事も多いだろうからと。学院に居る間はそう護衛が必要な事態には陥りません。キャスリーン様はすでに何回か、危ない目に遭われておられますが、それでも影でお守りする人数も増やしていますし、本来は目立つ護衛は1人で十分なのです」

「私にも付いてたの?」

「ララ様はそれほど目立たれませんでしたので。もっともキャスリーン様と一緒に居る場合が多いからと判断されましたので、その兼ね合いもございましたけれど」

「あ、そうなんだ」

「残念だったわね」

揶揄からかわないでよぅ」

「キャスリーンちゃんが『光の聖女』候補になったのも関係はあるの?」

「ございます」

「そう。それならここに居る間、キャスリーンちゃんを徹底的に甘やかしましょう。キャスリーンちゃんって転生前の年齢が高かったからって、年相応の精神状態じゃないと思うの。今のキャスリーンちゃんは私達の妹ポジションなのに、1番大人びてるってどうなのよ。分かってる?ララさん、セシル」

「分かってるわ」

「分かってまぁす」

「マリアさんもお願いします。私達はキャスリーンちゃんとこういう時にしか関われないの。学院に居る間はマリアさんに頼むしかないの」

「承知いたしました」

「ブランジット様に、了解は取った方がいいのかしら?」

「話しておきます。反対はされないと思いますので」

「ブランジット先生も、キャシーちゃんを気に入ってるのよね」

「あ、そうだ。明日はラッセルさんとレオナルドさんが来るわ。キャスリーンちゃんにはサプライズでお願い。ラッセルさんはもう1人連れてくるって言っていたけど。ジョーダンさんかしら?」

「オルブライトさんかも?」

「誰?それ」

「牧場主さんよ。キャシーちゃんと一緒に会った、転生者の1人。ご結婚されているから自由に動けないって言っていたけど」

「家族を放ってくるのもね。考えものだものね」

「じゃあ違うんじゃない?」

 セシルとララさんが話をしている。

「ねぇ、マリアさん。さっきの話、学院内で危険な目に遭ったって、どういう危険だったの?」

「……誘拐監禁でございます。我々が潰した誘拐計画が3件。キャスリーン様を我が物にせんとする襲撃計画が5件でございます」

「多すぎない?」

「全て潰しきる事が出来なかった我々の、不徳の致すところでございます」

「キャスリーンちゃんが危ない目に遭ったのは2回だっけ?それなら優秀な方じゃない?」

「お守りすべき対象を危険にさらすようでは、3流の仕事ですので」

「厳しいわねぇ」

「当然の事です」










しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

処理中です...