3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
268 / 733
学院中等部 7学年生

みんなと一緒に

 昼食後、少しの食休み後、セシルさんによるお菓子作り講座が始まった。参加者はリーサさんとララさんと強制参加のレオナルドさん。私はその気になれなくて、参加しなかった。

「キャシーちゃん、見てるのは大丈夫?」

「はい。ここにいて良いですか?」

「途中参加しても良いわよ。好きにしていてね」

 楽しい事に参加はしたくないけど、人が楽しそうにしているのは見ていたい。

「参加しないのか?」

 最初のバターを柔らかくする為だけに駆り出されていた、炎の聖人様が私の側に来た。

「今は参加したくないのです。でもひとりでいると余計な事を考えてしまうというか、良くない事が思い浮かんできそうで」

「そうだな。ひとりにならない方がいい。俺もここにいよう」

「炎の聖人様も?ラッセル様は?」

「ジジィはあっちで難しそうな紙と格闘中だ」

「難しそうな紙ですか?」

「チラッと見えたけどな、ありゃあ、魔道具の術式だな。何の魔道具かは知らないが」

「それでも魔道具の術式だと、お分かりになられるのですね。すごいです」

「そうか?火に関する魔道具には、いくつか関わったからな」

「すごいです。尊敬します」

「そうかそうか。もっと褒めて良いぞ」

「キャー、ステキィー」

 レオナルドさんが楽しそうに、離れた場所から棒読みで言う。

「お前に褒められても嬉しくない」

「不器用だからって拗ねるなよ」

「拗ねてねぇよ。お前はただの護衛だろうが。それもカミーユの」

「オッサンはあっちで籠っているからヒマなんだよ」

「女に囲まれて嬉しそうで、ヒマで困ってるようには見えねぇな」

「うっせぇ」

 炎の聖人様とレオナルドさんもいいコンビだと思う。

「炎の聖人様は護衛は居ないのですか?」

「置いてきた。一応聖人だから護衛聖騎士はいるが、大地のおっさんと俺は数が少ないんだ。今んとこ1番多いのはブルーム顕花の聖女だな。護衛が8人いる。トゥリクル水鞠の聖女は7人。水は攻撃も出来るからな。1番少ないのはフォルゴレ雷光の聖人。コイツは本気を出したら一瞬で消えちまう。だから護衛は1人。ストーム疾風の聖人も速いが、フォルゴレ雷光の聖人には負けるからな。俺と大地のおっさんと同じ3人だ」

「護衛を置いてきちゃって良かったのですか?」

「慣れてるだろうよ。いつもの事だし」

「ご心労、お察しいたします」

「どっちの?って護衛の方だよな?」

「はい」

「光の聖女は貴族のお嬢さんだから、気にならないのかもな。俺は気になるんだよ。俺が動くと後を付いてくるってのが」

わたくしも気にはなりましてよ?」

「そうなのか?」

「今はダニエル……とマリア……の2人ですが」

「妙な間が開いてないか?」

「敬称を付けてしまいますので。今、矯正中です」

「キャシーちゃんってば、私にまでララ様って言ってたのよぉ」

 クッキー生地を伸ばしながら、ララさんが言う。

「今は直しましたわよ?」

「そうね。ララさんよね」

 型で抜いたクッキー生地を、天板に並べるのをリーサさんとセシルさんに任せたララさんがこちらに来た。

「キャシーちゃん、出来たら食べてよね」

「1枚なら」

「私とセシルさんとリーサさんとレオナルドさんの分として、ひとり1枚としても4枚あるのよ?」

「今は、ご容赦ください」

「仕方がないわね。私は明日帰っちゃうから、私のからね」

「はい」

 口の中に血の味が広がった。え?まさか……。とっさに口を押さえ、レストルームに駆け込む。

「キャシーちゃん?」

 口の中の物を吐き出すと、洗面ボウルが赤く染まった。

「キャシーちゃん!?ちょっとっ」

「騒がなくても大丈夫です。たぶんこれは代償経だいしょうけいですから」

 口を漱いで、ララさんに説明する。

代償経だいしょうけい?」

「月経の代わりに違う場所から出血するんです。たいていは鼻出血なんですけどね」

「原因とかは?」

「ホルモンバランスの乱れによるものと考えられています。月経周期が安定していない方に起こる事が多く、無月経や過少月経などの月経異常があると生じやすいんです。わたくしはいまだに無月経ですから、その所為せいではないかと」

「心配ないのね?」

「はい。正常とは言いがたいですが、心配ございません」

「良かったぁ」

「どうしたの?」

 リーサさんがやって来た。

「申し訳ございません。洗面ボウルを汚してしまいました」

「気にしなくて良いけど。いったいどうしたの?」

「おそらく代償経だいしょうけいです。喉か口の中から出血いたしました」

「大丈夫なのね?」

「はい」

 代償経だいしょうけいの知識があるらしいリーサさんは、それ以上何も聞いてこなかった。

 午後からのお茶の時間に、セシルさんがハチミツ生姜湯を淹れてくれた。マグカップのような厚手のポッテリとした縦長のカップを両手で持って、ゆっくりと飲み込む。一応の大事を取ってクッキーはやめておいた。

「あれ?フェルナー嬢は別の飲み物?」

 お茶の時間に部屋から出てきたラッセル様が、私の飲んでいるハチミツ生姜湯を見て言った。

「はい。少し喉に炎症が」

「光魔法で癒したら?」

「それも考えたのですが」

「ゆっくり休んだ方が良いかもね。うん。その方が良いね」

 ひとりでうんうんと頷いてラッセル様は席に着いた。

「こんなにゆっくりと出来たのは久しぶりだねぇ。最近は引退したってのに引っ張り出される事が多くってさぁ」

「カミーユはのんびりしたいからって、気の向くままの旅暮らしだもんな」

「おかげでいろんな人達と知り合えてるよ。炎の聖人様と知り合えるとは思わなかった。会ったのはずいぶん前だしね」

「引っ張り回されるこっちは大変だよ」

「だから最近はひとりで行動しているでしょ?修行のお邪魔は出来ないからねぇ」

「何の修行なの?」

「警護の仕方とか、色々。急ピッチで進めてもらってるから、あの腹黒の言っていた期間より早く終えられそうだ」

「腹黒って?」

「貴公子然として裏で色々動いている、フェルナー嬢のセンセイ」

「ブランジット様?え?あの方、腹黒なの?」

「まだ現役で働いていた頃は、暗黒微笑の貴公子って呼ばれていたね。外交関係に同席して、若輩者でございって顔して、いつの間にか丸め込まれて、スタヴィリス国の言い分が通ったり有利になったりするんだよ。情報を扱うのが上手くってさ。ゴーヴィリスはそこまでじゃなかったけど、1度コテンパンにやられた国が暗殺騒ぎを起こしてね。あの時は大変だったよ」

「暗殺……って……」

「宿舎に爆薬を持った人を突撃させたんだよ。自爆テロみたいにね」

「それってその人も死んじゃうわよね?」

「交渉失敗で、帰っても処刑だからって供述したよ。家族を人質に取られててさ。酷い国だったよ」

「過去形って事は、その国は?」

「とっくに潰れたよ。今は立憲議会制になって、国名も変わった」

「ブランジット様はその後どうなさったの?」

「さぁ?ただその1件以降、外交で見る事は無くなったようだよ」

「何年前の話ですか?」

「10年位前かな?引退直前の時だったから」

 私の光魔法の先生になったのと同じ頃だ。私の先生になったから?だからなの?

「あの国は元々が酷い国だったからな。国民の事なんて考えもしない、自分達が贅沢出来れば良いって国だった。軍事力だけに力を入れててな」

「炎の聖人様もご存じなの?」

「クーデター側に知り合いが居るって奴が、聖国に駆け込んできたんだよ。助力をって言われてな。聖王猊下が断っておられたが」

「断っちゃったの?」

「聖人、聖女が直接出る事態は、多くない。特に俺なんかは被害を拡大させる事しか出来ん。大地のもトゥリクル水鞠の聖女も同意見だった。光の聖女が居なくて良かったとも思ったな」






感想 103

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

「ちょっと待った」コールをしたのはヒロインでした

みおな
恋愛
「オフェーリア!貴様との婚約を破棄する!!」  学年の年度末のパーティーで突然告げられた婚約破棄。 「ちょっと待ってください!」  婚約者に諸々言おうとしていたら、それに待ったコールをしたのは、ヒロインでした。  あらあら。婚約者様。周囲をご覧になってくださいませ。  あなたの味方は1人もいませんわよ?  ですが、その婚約破棄。喜んでお受けしますわ。

【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?

未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」 膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。 彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。 「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」 魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。 一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。 家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。 そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。 ハッピーエンドです!

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。