3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

自分に出来る事を

「どうして?光魔法って、怪我を早く治せるわよね?」

 セシルさんが言うけど、私にはその理由が分かってしまった。怪我を早く治せれば、前線に早く戻せる。どちらかの陣営に光の聖女が付けば、相手方の被害が拡大するかもしれない。

「だからだ。戦線を長引かせる事が出来てしまう。被害が拡大してしまうんだ。その上、光の聖女の身にも危険が及ぶ。光の聖女ってのはそれだけ強力な力を持っているんだ。祭り上げられるなら良い方だ。監禁状態で延々と光魔法を行使させられるって事もあり得る」

「そっか。なんだか怖いわね。キャスリーンちゃんは今まで大丈夫なのよね?」

「はい。貴族で学院生だから、いろんな面で守られています」

「良かったわ」

 それにまだ候補だし。そこは声を大にして主張したい。無駄だろうけど。

「炎の聖人様、今回こちらにいらっしゃったのは、わたくしを見に、ですわね?」

「あぁ。ちょっと間が悪かったが。婚約者殿が行方不明とは。だがな、光の聖女、信じていると良い」

「はい」

 正直に言うと、まだ受け止めきれていない。だけどみんなが私に気を使ってくれている。それなら虚勢でも良い。『信じて待つ光の聖女』の仮面を被らなきゃいけない。


 夕食後、炎の聖人様と話をした。炎の聖人様は15歳で『炎の聖人』と認定されたそうだ。以来40年、炎の聖人として各国を回っているんだって。え?炎の聖人様って55歳なの?

「ジジィでビックリしたか?」

「反対です。そのようなお年だと思わなくて」

「魔力が満ちていると、成長速度が少しゆっくりになるらしいからな。大地のは今、73歳だが、見た目は50歳代だ。そんな風になるのは、聖人、聖女クラスだけらしいが」

「魔力量の違いによるものでしょうか?」

「そうとも言い切れん。魔力の使い方でははないかと思われているが。すまんな。上手く言えん」

「いいえ、わたくしこそ困惑させてしまい、申し訳ございません」

「他に何か聞きたい事があるんじゃないか?」

 少し考えて、口を開いた。

「炎の聖人様ではなく、ヴァルター・バルテン様として聞いていただけますか?」

「は?」

「今の時期、気温は10℃以下でしょう。そうしますと水温は高くても15℃以下。仮に15℃としても生存出来るのは1時間から6時間。転落時に意識を失っていれば溺死は免れるかもしれません。でも降雪していたと考えると水温は下がって……」

「ちょちょちょ、ちょっと待て」

「はい」

「カミーユを呼ぼう。俺はその辺りは全く分からん」

「申し訳ございません」

「さっきのはその、ゼンセの記憶とやらの知識か?」

「はい」

 ラッセル様がやって来た。炎の聖人様が、ざっと今の話をする。

「フェルナー嬢、非常に言いにくいんだけど、その仮定でいくとフェルナー君が生存している可能性は、極めて低いと認めざるを得ないよ?」

「分かっております。それでも少しでも可能性にかけたいんです」

「どこから転落したか、分かってるの?」

「様々な状況と、お義父様の言葉から、だいたいの見当は付けましたが、確実ではございません」

 ラッセル様が黙り込んだ。

「分かったよ。その場所を教えて?僕が行ってみるから。ヴァルター・バルテン様、付いてきてくれるよね?」

「俺が?何の役にも立たんぞ?」

「『炎の聖人様』がいると、教会の転送部屋が使い放題だからね」

「俺はその為の通行証かよ」

 炎の聖人様が天を仰いだ。

 翌日、予定より少し早く、ラッセル様と炎の聖人様とレオナルドさんは出発した。私の頼み事の所為せいだと思うと、少し申し訳なくなる。

「フェルナー嬢、何かあったらレオナルド君を寄越すから」

「申し訳ございません。よろしくお願い致します」

 何の事か分かっていないレオナルドさんには悪いと思う。完全に使いっ走りだもんね。

「ラッセルさん達、今日のお昼を食べていくって言ってたわよね?」

「何か知らないけど、予定を思い出したみたい」

「そうなんだ。せっかくミンスパイを焼こうと思ったのに」

「ミンスパイってどういうのだっけ?」

「ミンスパイはドライフルーツとナッツ類を詰めたパイよ。元はお肉を使っていたけど、いつの間にか変わってしまったらしいの。イギリスではクリスマスに食べられていたらしいわ」

「この辺りでも食べるわよ?ナッツをペースト状にして、ドライフルーツのお酒漬けを混ぜ込んだパイ。子供の頃は食べられなかったのよ。親が食べさせてくれなくってね」

「アルコールは焼くと飛ぶわよ?」

「自分達だけで食べたかったんじゃない?子供の食べる物じゃないってひっぱたかれたもの」

「えーっと……」

「そんな事はしょっちゅうだったわ。だから早く家を出たかったの。念願叶ってやっと家を出られたわ」

「いろんなご家庭があるのね」

 セシルさんがしみじみと言った。

 ララさんは明日には戻るらしい。

「いつまででもって言われたけど、やっぱり気になっちゃうのよね。キャシーちゃんの事は気掛かりだったけど、ずいぶん落ち着いてるし」

「私が付いているわ。セシルは?用事はどうなっているの?」

「今は統括マネージャーのシモンが場所の選定をしているわ。ある程度の候補が決まったら私の出番。まぁ、私はお飾りよ。実際のCEOはシモンが勤めるわ。私はオーナー一族だけど、経営はさっぱりだもの。お父様もそれを認めているしね」

「そうなのね」

 昼食後にミンスパイを作るセシルさんを、みんなで見物する。セシルさんの手は魔法みたいに、いろいろな美味しい物を生み出していく。

 その間にも私の意識から、ローレンス様の安否の件が離れない。私の計算した場所は、本当にあっているのか。ラッセル様達に無駄足を踏ませたんじゃないのか。不安が渦巻いている。

「キャシーちゃん、どうしたの?何か考え事?」

「少しラッセル様にお願い事をいたしまして」

「お願い事?」

「えぇ」

「なぁにぃ?何の話ぃ?」

「炎の聖人様って、55歳って知ってました?」

「は?え?55歳?嘘でしょ?」

「本当だそうです」

「見えないわよねぇ」

「でも、異世界物って魔力量が多いと若くなるとか、寿命が長いとか、定番じゃなかった?」

「何それ?」

「聞いた事が無いけど?」

「嘘。定番よね?キャシーちゃん」

「申し訳ございません。わたくしにそちら方面の知識はございません」

「そういえば詳しくないって言ってたっけ」

 なんとか誤魔化せたかな?

 リーサさんだけは意味ありげに私を見たけど、セシルさんとララさんは誤魔化せたっぽい。

 セシルさんがミンスパイとパネトーネを焼いている内に、リーサさんに別室に連れていかれた。

「キャスリーンちゃん、何のお願い事をしたの?」

「無駄かもしれない事です。わたくしは動けませんから、ラッセル様にお頼みいたしました」

「無駄かもしれないって?」

「申し訳ございません」

「言いたくないのね?キャスリーンちゃん、昨日持っていた紙と関係はある?」

「はい」

「メイドが見付けて、私に渡してくれたわ。何なのこれ?数字が多すぎて訳が分かんないんだけど」

「水温と生存可能時間の関係です」

「キャスリーンちゃん……」

「どうしても希望を捨てられないんです」

「捨てなくて良いわ。炎の聖人様が言っていたじゃない。光の聖女は奇跡の存在なんでしょ?キャスリーンちゃんが希望を捨てちゃいけないわ」

「ありがとう、ございます」

「お礼なんて良いわよ。とにかく自棄を起こしたとかじゃないのね?」

「はい。ご心配をおかけいたします」

「転生者仲間以前に、友人だからって思ってもらえないかしら?キャスリーンちゃんを甘やかせる機会なんて滅多にないから、楽しみなのよ、私もセシルも。普段は会えないしね」








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