3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

オルブライト様の牧場 ④

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「失礼いたします。フェルナー様とマルムクヴィスト様の護衛にまいりました」

 ララさんとセシルさんが出ていって少し経った頃、訪いおとないの声が聞こえた。リーサさんがドアを開けて対応する。ドアの外にはさっきのブレンダー家の女性が立っていた。

「ご苦労様。あの男達は?」

「ただいま尋問中です」

「そう。お父様から借りてきた奪い取ってきた本があるんだけど、必要かしら?」

 なんだか妙な副音声が聞こえたような?

「どのような?」

「これよ」

 リーサさんがバッグから取り出したのは、おどろおどろしい装丁の薄めの本。

「リーサさん、何ですか?それ」

「魔法心理学の本よ」

「魔法心理学……」

 って、何?言葉通りに取れば、魔法による心理学なんだけど。ちょっと嫌な予感がする。自白させる為の魔法とかじゃないよね?

「良いですね、これ。お借りしても?」

 パラパラとページをめくっていた女性が、喜色満面になった。

「えぇ。好きに使って」

 リーサさんがイイ笑顔で言っているのが、かえって怖いです。

 女性が受け取った本を持って入ってきた。この女性はここで過ごすようだ。

 私は医師資格取得の勉強を始めた。ローレンス様の事があって、少しだけ遅れている。

「キャスリーンさん、それは?」

「医師資格取得の勉強です。少し遅れてしまっているように感じましたので」

「医師資格って、かなりな難易度って聞いたけど?」

「自分の為ですから。強制された物なら放っておくんですけどね」

「試験日はいつなの?」

「まだまだ先ですよ。少なくとも1年はあります」

「今年というか、あら?キャスリーンさんって、今おいくつ?」

わたくしは15歳ですわ」

「えっと、学年でいうと?」

「8学年生です」

「卒業は?」

「最終学年生ですわね。18歳で卒業となります」

「そうなのね。ん?最終学年生?12学年生じゃないの?」

「青学年生と最終学年生ですわ。この2年だけ呼び方が違うのですわ」

「不思議ね」

 そう言うリーサさんは、手のひらにすっぽり収まる大きさの木の葉のような物と、束ねられた糸を持ってきた。

「リーサさん、それは?」

「タティングよ。レース編みの道具」

「タティング?」

「この舟形の道具をタティングというの。これで糸を結んでいくのよ」

「レースって編むだけじゃないんですね」

「だけじゃないのよ」

 リーサさんはタティングレースを、私は勉強を、護衛の女性は読書をして時間を過ごす。窓は開けてあるけどスリット状になっていて、人が通れない隙間しか開いていない。

 サワサワと爽やかな風が吹き抜ける。風向きが良いのか、それとも消臭の魔道具を使っているのか、嫌な匂いはしない。

 お昼頃にはサンドイッチとスープが届けられ、美味しく食べ終わった頃、セシルさんとララさんが戻ってきた。

「キャシーちゃん、お昼からベリー摘みに行かない?」

「ベリー摘みですか?」

「ブランカちゃんが案内してくれるって。ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーが摘めるみたい」

「行きたいですけれど、ご迷惑にならないでしょうか?」

 さっきの男性も、私がターゲットだったっぽいし。みんなに迷惑がかからないかが心配になってしまう。

「大丈夫よ。完全隔離はされていないけど、人が近付けないようになっているから」

「それなら安心です」

「って、オルブライトさんが言ってた」

 所有者が言ってるなら安心よね。

 リーサさんの方も、セシルさんが説明していたらしく了承していて、護衛の女性も黙って頷いていた。

 食休みの後、4人プラス護衛の4人でベリー摘みに行く。牧場とは少し離れた場所で、畑の一角にベリー畑があった。ベリー畑の隣にはアッポーリンゴの木が植わっていた。

「あら、アッポーリンゴね?」

「はい。まだ季節には早いんですが」

アッポーリンゴパイとか、アッポーリンゴ入りのプルーム・ケイクとかも良いのよね。秋に来ようかしら?」

「是非来てください」

 セシルさんとブランカさんの会話が弾んでいる。

 ベリー畑にはオルブライト様の所で働いている奥様2人が、待っていてくれた。

 ブルーベリーは見知っていた物よりも小さい物だった。野生種との交雑種だそうだ。

「でも美味しいんですよ。酸味も甘味も強くって、私はこっちの方が好きです」

 ブランカさんが力説している。粒が小さいからと敬遠されがちなようだ。

「あら、味が濃いのね」

 一粒パクッと口に入れたセシルさんが言う。

「セシル……」

「食べてみるのは、仕方がないと思って?味は確かめないと」

「今は友人との旅行でしょ?」

「職業病よ」

「あなたは今は商会の娘なのよ?」

「分かってるわよ。でも商会でもお菓子部門は、私の管轄下だったのよ」

「たしかにセシルのお菓子は美味しいけれど」

「ね?だから諦めて?」

 ブルーベリーの他にラズベリーを摘み終わって、コテージ客棟に帰った。

「早速プレザーブにしちゃおうかしら?」

「あ、ほらあれは?セシルが作った事のある、ヴァレ……なんとかって」

「ヴァレニエね。あれもプレザーブよ。東ヨーロッパで作られてるプレザーブ」

「プレザーブって何?」

「見た目は果肉の残ったジャム。でもね、粘度がほとんど無いの」

「んん?」

「簡単に言えば、果実の砂糖煮よ」

「甘そう……」

「ジャムも甘いでしょ?」

 そう言われればそうだけど。砂糖煮って聞くと、余計に甘そうな感じだよね。

「でも、セシル。ここで作るの?」

「お砂糖は持ってきてるのよ」

 そう言ってセシルさんがトランクを開ける。その中には大きな布に包まれた不揃いの白い塊が入っていた。

「お砂糖よ。コイン型のお砂糖があったでしょ?その失敗作というか、不正規品ね。それを持ってきちゃった」

「このままでも売り物になりそうですけど?」

「なるわよ?でもね、王都店では売らない。王都店にはハイクオリティの物しか置かないって決めてるの」

「ブランド付け?」

「マーケティングよ」

 王都だからハイクオリティな物が買えるという、そんなイメージを付ける訳ね。

「王家にも献上したの。喜ばれたわ」

 献上したのがフルールドリスのコイン型砂糖だったら、それはさぞかし喜ばれただろう。王家の花だもの。

「セシルさん、作って保管はどうするんですか?」

「私達で食べた後、おすそわけするわ。このベリー達は購入した訳じゃないしね」

 パンケーキを焼き上げながら、セシルさんが言う。たくさん焼いているのはおすそわけの為だったのね。

「お客さん、生クリームを持ってきました」

「ありがとう、ブランカちゃん」

「わぁ、良い匂い」

「ブランカちゃん、ちょっと味見をしていかない?」

「しますっ」

 セシルさんがミニパンケーキを焼いて生クリームとプレザーブをトッピングして、ブランカさんに渡す。幸せそうな顔でモグモグするブランカさんに、なんとなく癒される。

「ブランカちゃん、このパンケーキに生クリームとこのベリーを盛り付けてね?」

「あ、お手伝いするわ」

 ララさんがブランカさんを手伝って、母屋の方に行ってしまった。私達もそれぞれパンケーキに生クリームとプレザーブをトッピングする。

 ララさんが戻ってきたら、おやつの時間。紅茶はリーサさんが淹れてくれた。またしても私のやる事がない。だってね、私が手を出そうとすると、主にリーサさんに阻止されるんだもの。

「リーサさん、わたくしにもさせてください」

「あら、ダメよ。ここに来たのはキャスリーンさんを休ませようって意図もあるんだから」

「そうだったのですか?」

 休ませようって、無理をしているように見えたのかしら?見えたわね。貧困地区の事故からずっと動きっぱなしだったし、あの事故現場での無茶な事2人同時治癒も知られちゃってるし。



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