3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 9学年生

新学期

 オーツポートから戻ると、数日で夏期休暇が終わってしまった。今年は救民院にあまり行けなかったな。

 新学期が始まっても、サミュエル先生はお仕事が忙しいらしく、学院には来ていなかった。サミュエル先生のお仕事って、トリコローレオーツポート支店の件よね?お仕事を増やして申し訳ない。

 夏期休暇が終わると、学院は一気に芸術祭の準備一色になる。薬草研究会はそうでもないけれど、芸術系と呼ばれる授業外交流の倶楽部では、夜遅くまで延長して作品を仕上げているそうだ。

 今年もモデルを頼まれたので、お針子部に行く。刺繍手芸合同倶楽部はお針子部として参加が認められていた。これまでは有志という立場での参加だったのよね。

 今年のドレスはリージェンシースタイルという、胸のすぐ下で絞ってバストを支え、スカートを流すスタイルのドレス。エンパイアドレスが代表的な例らしい。はい。例によってガブリエラ様の解説です。私はそこまで詳しくありません。エンパイアドレス位は分かるけどね。

わたくしには似合わない気がいたします」

「お似合いですわよ?背も伸びられましたし」

「丸みは足りませんけどね」

「それも個性ですわ」

 個性、ねぇ。個性って便利な言葉だよね。画一的であれとは思わないけれど、奇抜すぎるファッションはどうかと思っちゃうのよね。

 リージェンシースタイルのドレスは、今の社交界での流行りではない。少し前に流行った物だ。

「またコルセットが流行してますのよ」

「え?またですか?」

 コルセットは敬遠されていたんだけど。

「ソフトコルセットというそうですわ。昔ほどキツく締め上げないそうですけれど」

 昔のコルセットは柱にしがみついて、3人がかりで絞めていたという逸話もある。当然私は使いたくないし、使った事も無い。

 あれ?ソフトコルセットは今でもあるよね?こちらは使った事がある。

「ガブリエラ様、そのソフトコルセットって、今のソフトコルセットとは違いますの?」

「今のコルセットはお腰だけでしょう?流行ってきているコルセットはお胸まで強調しますの」

 ロングかショートかの違いってわけか。

 見せられたコルセットはソフトという名を冠するだけあって、ステー支持柱は軟らかだ。その代わりともいうようにブラジャー一体型で、胸を押し上げるように脇から集めるようにかなりのボリュームが作られるようになっている。

「これを着用いたしますの?」

「まぁ、いいえ。今回は少し長めのコルセットを使用しますわ。さすがにこれは……」

 ガブリエラ様、私のお胸を見ないでください。成長はしてますよ?目立たないだけで。

 エンパイアドレスは胸の下に切り替えがある、ハイウエスト仕様だ。基本的に小柄で華奢な人が似合うとされていて、私はそのタイプに当てはまる。

 じゃあなぜ似合わないと思ったかというと、見せてもらったドレスがものすごーく大人っぽかったから。デコルテとか背中とか開いていて、ちょっと着るのはって思っちゃう。

「この上にショールを羽織りますから、背中もデコルテも隠れますわよ?」

「お色はこのままですか?」

 見せられたドレスの色は、ハッキリした赤色。

「これは違いますわよ。キャスリーン様のドレスは、奥で仕上げ中です」

 色は教えてくれないのね。ガブリエラ様を信じているから、何も言わないけれど。

「ガブリエラ様、そろそろ薬草研究会の後継指名をしないと」

「あぁ、そういえば、生徒会執行部の方が、キャスリーン様を探しておられましたわ」

「え?」

「キャスリーン様はお昼休みには、いつも図書館に行かれますでしょう?お勉強の為だと皆様知っておりますから、そう言ったのですが。諦めないようですわね」

 生徒会執行部かぁ。たぶん用件は執行役員への打診だ。去年も声をかけられたし、その時に「来年こそは」って言われちゃったもの。

わたくしの事は良いのです。薬草研究会の次期部長はどうなさいます?」

「そうですわねぇ。薬草に詳しくて、熱心でというと、ストレイエス様とハンフリー様かしら。2学年下は熱心な部員が多いですものね」

「あの2人ですか。話をしてみますか?」

 トバイア・ポールソンも熱心なんだけど、彼は薬草にそこまで詳しくないのよね。

「まずは主だった者で、話し合いをいたしませんか?」

「そうですわね。2人で決めるのも、ですし」

 試着室で同じ型のドレスを着て調整してもらいながら、そんな話をする。試着室内は基本的に2人だけだから、内緒話も出来る。私達は内緒話をしている訳じゃないけど、状況的には内緒話よねぇ。

 調整が終わると、ガブリエラ様がドレスを持っていった。私服に着替えて試着室を出る。

 ここに来ると最初に聖女様衣装を着て出た年の、デザイン画を見る事が出来る。いつでも来て良いとは言われているけれど、用もないのに入り浸るのもね。

 絵姿はデザイン画の隣に掲げられていて、私とシェーン様が並んでいる。

「ここに来られると、キャスリーン様はいつもその絵を見ていますのね」

「ガブリエラ様」

「デザイン画も多くなりましたわ。そろそろ整理しないと」

「どこかに片付けますの?」

「1枚1枚綴じ紐で綴じますのよ」

「あぁ、本のようにしますのね?」

 和綴じノートのように綴じられたデザイン集は、いくつか見せてもらった。綺麗なレタリングタッチの刺繍で表紙が飾られた、豪華なデザイン集だ。ここにも転生者の影響がありそうだ。

「絵姿はどうなさいますの?」

 お針子部を出て、ガブリエラ様に聞いてみた。

「絵姿も同様ですけれど、キャスリーン様と護衛の方の絵姿だけはそのままと

「決まっております?」

「全員の意志ですわ」

「ガブリエラ様?」

「あのデザインは人気ですのよ。キャスリーン様がご提案なさった『我こそは光の聖女コンテスト』も、開催されると聞き及んでおりますし」

 提案しておいてなんだけど、本当にやっちゃうのね。もしかして執行役員の用事ってそっちの方かしら?

「ガブリエラ様、コンテストのお衣装は決まっておりますの?」

わたくしも詳しくは無いのですけれど、白いワンピースだと聞いておりますわ。光の聖女様は派手さを好まないからと」

 意味ありげに見られてしまった。

 薬草研究会に戻ると、フランシス・エンヴィーオ、アッシュ・クレイヴン、イグニレス・ゲイツがこちらを見た。もっともイグニレス・ゲイツの視線はガブリエラ様に固定されている。

「お疲れ様でした。フェルナー嬢」

「何か変わった事はございましたか?」

 ササッと寄ってきたフランシス・エンヴィーオが、律儀に報告してくれる。部長はガブリエラ様なんだけど。

「いいえ。ストレイエスとハンフリーがなにやらこそこそやっていた位ですね」

 なにやらこそこそ?

「何をなさっておられましたの?」

「そこまでは。ですがそう心配する事は無いと思いますよ」

 あ、これは何か知っているな。ジッと見つめると、フイッと目を逸らされた。

「何か知っておられますわね?」

「申し訳ありません。本人にお聞きください」

 笑って言われてしまった。

 本人にお聞きくださいと言われても、「はい、そうですか」って聞けるわけがないのよね。こそこそしてたのなら、知られたくないのだろうし。

 10日後、ランチにカフェに行こうとしたら、前方で生徒会執行部役員が待ち構えているのが見えた。

「キャスリーン様?どうなさいましたの?」

「イザベラ様、申し訳ございませんが、先に行っていただけますか?」

「それは構いませんけれど」

 そう言いながら私の視線の先を見る。

「あぁ。分かりましたわ。遅くなられるかもしれませんから、こちらで何か手配しましょうか?」

「いいえ。お気遣いありがとうございます」














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