3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 青学年生

夏期休暇

 夏期休暇に入るとすぐに、タウンハウス王都フェルナー邸に急いだ。お義父様も同じ判断をしたようで、朝一番に魔術車を寄越してくれた。

「トマス、ごめんなさいね?」

「何を仰います。最近お屋敷が浮き立ってますが、何かあったんですか?」

「浮き立ってる?」

「奥様も坊っちゃ……、次代様も若奥様も、お顔が明るいというか。それに少し慌ただしい感じで。でも嫌な感じじゃないんすよね」

「そう」

 トマスは詳しい事を知らないのね。お義父様がどの範囲まで話したのか分からないから話せないけれど。

 タウンハウス王都フェルナー邸に着くと、お義母様がいつものように出迎えてくれた。

「キャシーちゃん、ローレンスが……」

 それだけ言って私をギュッと抱き締める。

「お義母様、ローレンス様のお部屋は?」

「すでに整えたわ。あぁ、待ち遠しいわね。それにしても……」

 お義母様の話の途中で、私の伝心機が着信を告げた。相手はセシルさん。

「お義母様、失礼いたします」

 断ってから通話ボタンを押す。

『キャスリーンちゃん?』

「はい、セシルさん。どうなさいました?」

『お父様から連絡が入ったわ。ローレンス様は3日後の船に乗るって。だからスタヴィリス国に着くのは4日後のお昼ね。オーツポートに入港予定よ』

「ありがとうございます」

『ただ、お連れ様がいらっしゃるようなの。女性なんだけれど、少し体調が良くないみたいで。遅れて送るって言ったんだけど、大丈夫って言い張ってるみたい』

「女性、ですか」

『例の保養所を手配しておいたわ。お出迎え、行くでしょ?』

「お義父様に聞いてみます」

『行くなら連絡してちょうだい?』

「はい。お世話をおかけいたします」

『やぁだぁ。お世話なんかじゃないわ。キャスリーンちゃんに笑っていてほしい、姉の立場のお節介よ』

 明るい声でセシルさんは笑って、通話が切れた。

「キャシーちゃん、それって」

「伝心機ですわ。お義母様はご存じでしょう?」

「えぇ。旦那様が5台購入予定だと言っていたけれど」

「お義父様、お義母様、ランベルトお義兄様、アンバーお義姉様、で4台ですわね。もしかしてローレンス様の分も入っているのでしょうか?」

「その辺りは分からないけれど。さっきのは?」

「トリコローレのセシルさんです」

「あぁ、あのお嬢さん。あの方も持っているの?」

「復活させたのが転生者ですので。ラッセル様が関わっていらっしゃいますので、その関係で贈っていただきました」

「旦那様はご存じなの?」

「はい」

「それなら良いわ。早速手配をしなきゃね。私はここを離れられないから、キャシーちゃんが行ってくれる?」

「かしこまりました」

 自室に入って、着替える。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ただいま、フラン。早速で悪いけれど旅の準備をお願い。10日分で良いわ」

「は?え?」

「ローレンス様の事は聞いた?」

「はい。無事でいらっしゃったと」

「迎えに行くの。だから用意をお願い」

「かしこまりました」

 フランが私の着替えを終えて、いそいそとトランクを出してきた。今回10日分としたのは馬車で向かうからだ。少し大型の馬車を使うからローレンス様とお連れ様も気兼ねはしないと思う。我が家フェルナー家の魔術車はそこまで大きくないのよね。セシルさんの家なら、もっと大きいのがありそうだけれど。

 以前オーツポートに行った時のリムジンは、どこに行ったかって?お義兄様とお義姉様が領地に行くのに使っているそうだ。中で書類仕事が出来るからって、お気に入りらしい。ちなみに今は2人ともフェルナー領に滞在中。ローレンス様の帰還に合わせて王都に来るらしい。

 ちなみに雪花とデルタはお義兄様達とフェルナー領に行っている。ちょっと寂しい。

 翌日。お義父様にもお出迎えを頼まれた私は、護衛と一緒に馬車に乗った。セシルさんも一緒に行ってくれるから、気が楽だ。もう1台荷物を乗せる用の小型馬車も一緒で、こちらにはお世話になったロシュフォール家の船員さんに、渡すお礼の品が積まれている。セシルさんには「必要ない」って言われたけれど、礼儀としてやっぱりね。貴族のメンツもあるし。

 トリコローレでセシルさんをピックアップして、オーツポートに向かって走り出した。

「キャスリーンちゃん、その書類は?」

「薬草研究会のこれからの薬草の仕入れ量や、その予算の計算書ですわ」

「……さらっと難しい事を言ったわね。これからのって?」

「今年半年で使う薬草ですわね。正確には夏期休暇明けにこれを元に調整して、実際には10月頃に発注いたします」

「半年毎に予算計算しているの?」

「えぇ。毎年さほど変わりはございませんし。ポーション水剤用の薬草はほぼ固定ですから、特に難しくはございませんでしてよ?」

「他に何を作っているの?」

「ハーブ入りクッキーやケーキ、ハーブ石鹸、サシェですわね。サシェは他の部との共同ですが」

「色々やっているのね」

「セシルさん、オーツポートとアウラリアの距離って、そんなに離れているんですか?」

「距離は100㎞位よ。問題は船の速度ね。時速30㎞位なの。17ノットって言っていたから。前世では1ノットは時速1.852㎞だったけど、こちらでは1ノットは時速1.5㎞なのよね。それにアウラリアとスタヴィリスの間に海流の安定しない場所があるのよ。そこを避けたらもっと時間がかかるわ」

「そうなのですね」

「ロシュフォール家の船員は、腕の確かな者ばかりよ。心配しなくて良いわ」

「そういえば、アウラリアからのお手紙って、どうやって届いたのですか?」

「いわゆる伝書鳩よ。使うのはロビンだけど」

 ロビンって、コマドリよね?大きさは前世と激しく違うけれど。最大で50cm位になるんだもの。

「伝書ロビンですわね」

「ふふ、そうね」

 馬車は順調に進んで、オーツポートに到着した。地中で狼の群れに遭遇したし熊さんもノッソリ出てきたけど、被害も無かったし、順調だったと思う。

 オーツポートのトリコローレの保養所は、以前来た時より明るい印象で私達を迎えてくれた。心理的な物だと思うけれど、以前は少し暗い印象だったのよね。

「キャスリーンちゃん、お連れ様の事なんだけど」

「セシルさん、ローレンス様がその方を選ばれたとしても、文句は言わないでくださいませね?」

「どうしてよ?」

わたくしはローレンス様がお心の決められたなら、潔く身を引きます」

「ちょっと、キャスリーンちゃん?」

わたくしが願うのは、ローレンス様の幸せですので」

「納得出来ないわ。キャスリーンちゃんはそれで良いの?」

「はい。わたくし侯爵家の娘フェルナー家の娘ですから。お義父様にも伝えてございます」

「……分かった。納得は出来ないけど、キャスリーンちゃんが決めたのなら」

「ありがとうございます」

 その日は海岸を散歩したり、トリコローレオーツポート店に行ったりして過ごした。

 翌日。少し濁った海を分けるように、黒く塗られた貨物船がオーツポートの港に着いた。港湾関係者が一斉に動き出す。

 最初に降りてきたのは、トリコローレの関係者、つまりはロシュフォール家の従業員達。

「お嬢様、お出迎えありがとうございます」

「無事に着いたようで良かったわ。今回の荷は?」

「あちらの食器が多いですね。それと食品加工の魔道具」

「魔道具?」

「アイスクリーマーです。ようやく完成しました。後はお嬢様の許可待ちです」

「楽しみだわ。それでお客様は?」

「あちらに」





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