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学院高等部 青学年生
朝のひととき
「まぁ、安心したよ。前の時よりは元気だね」
「私は、そうですわね。思ったよりもダメージを受けていませんわね」
「表面上はね。隠した傷はあるんでしょ?」
「……言い当てないでくださいませ」
「ここでは意地を張らなくて良いんだよ?」
「泣きたい訳ではないのです。ただ少し愚痴を言いたいだけで」
「お酒の力を借りてみるかい?飲酒年齢は過ぎているわけだし」
この世界の飲酒年齢は15歳だからね。
「お酒はいただいた事が無いのですが」
「じゃあ、初飲酒だね」
決定?決定なの?
その日の夕食時にお酒が出されたんだけど、私はものすごくお酒に弱いらしい。夕食後の、いえ正直に言おう。夕食の途中からの記憶がない。目が覚めたら、ベッドの中だった。
「えーっと……」
「お目が覚められましたか?」
別邸での私付きの侍女が来てくれた。
「お身体に異状はございませんか?」
「特におかしな感じは無いけど……。え?今何時?」
「朝の6時です」
「そう」
「ブランジット様をお呼びいたしますね」
「ちょっと待って。サミュエル先生も起床されたばかりでしょう?ご迷惑になってしまうわ」
「ブランジット様からは、お嬢様が起きられたら時間関係なく呼べとの事でしたが」
「えぇぇ……」
「お呼びいたしますね」
侍女が出ていった。え?ちょっと待ってってば。私は夜着のままなんだけど?あれ?いつ着替えたの?というかここまで運んだのは誰?誰が着替えさせたの?
色々と混乱していたら、サミュエル先生が来てくれた。とっさにデュベを顎の下まで引き上げる。
「おっと、悪い」
「いいえ」
「お目覚めのようだね」
「はい。ご迷惑をおかけいたしました」
「迷惑なんてかかってないよ」
「私、夕食の途中からの記憶が無いのですが」
「そうなのかい?すごくしっかり受け答えしてたよ?夕食後にサロンに移動する時に少しふらついてたから、カイルに運ばせたけど。頭痛や気分不良は?」
「ございません」
「それなら良いけどね」
「私は何を言ったのでしょうか?」
「ん?まっとうな事しか言っていないね。ローレンス君が幸せなら、とか、カティさんは貴族社会でやっていけるのかとか、人の心配ばかりだ。マルムクヴィスト嬢がキャシーちゃんは?って聞いたら、聖女になんてなりたくないって言って泣き出しちゃって気が付いたら寝ていた。カイルに寝室まで運ばせて、着替えやメイクは侍女に任せたけど」
「レオナルドさんにお礼を言わないと」
「それからマリアにもひと言言ってやって。カイルに運ばせたらそれから機嫌が悪くて、カイルをずっと睨んでいるんだ」
「マリアさんったら」
着替える為に先生には出ていってもらって、侍女の手を借りて着替える。今は夏だから肘までの長さの袖の半袖のサマードレスだ。腕は出しても良いけれど、足は出しちゃダメなのよね。祖父母世代だと腕も隠す物だったんだって。
侍女がドアを開けると、待っていてくれたサミュエル先生とレオナルドさんとマリアさんと一緒に食堂に向かう。
朝食はイングリッシュブレックファースト。ただし一般的にイメージされるようなソーセージにベーコン、ベイクドビーンズや焼きトマト、マッシュルーム、卵料理等がワンプレートに乗っているボリューミィな物ではなくて、エッグ&ソルジャーズと呼ばれる物。黄身が流れ出すくらいの柔らかい半熟たまごに、短冊型に切ったトーストが添えられている。その柔らかい半熟たまごに、短冊型に切ったトーストをディップして食べる。
飲み物は私とリーサさんとマリアさんがミルクティー、ラッセル様とサミュエル先生とレオナルドさんがコーヒー。
それにプラスして、厚切りのベーコンが添えられている。
「うーん。バゲットにバターとジャムが恋しいねぇ」
「私はこっちの方が好みだね。甘い朝食は食べたくない」
「あら、パンケーキにジャムとクリームもなかなかよ?」
「ここの食事は旨いからな。これでエスプレッソなら言うことはない」
「エスプレッソは専用マシーンが必要なのでは?」
「セシルに期待している。家庭用のエスプレッソマシーンが欲しいんだが、小型化が難しいんだと」
私はお味噌汁が飲みたいと思う時がある。積極的にではないけれど。でも出汁の文化が無いのよね。探せば有るのかもしれないけれど、少なくともお味噌は無いと言われた。
「キャシーちゃん、後で頼みたい事があるんだけど」
「頼みたい事、ですか?」
ラッセル様がチラリと、咎めるような目を向ける。
「聖国のお2人に会ってやってほしい」
「それは構いませんが。もしかして黒い石の件ですか?」
「知ってたんだ?」
「えぇ。ラッセル様からお聞きしました」
「詳しくは本人達から聞いてほしいんだけどね。最近、黒い石が聖国に持ち込まれる事が増えているそうだ」
「聖国に?」
黒い石ってディザスターラメンティの事よね?ソッとチェーンベルトの先のドローストリングバッグに入ったディザスターラメンティを、触って確かめてしまった。
「ブランジット様、朝食の席で言う事ではないでしょう?」
ラッセル様がサミュエル先生に抗議する。
「ちょうど良いと思ったんだよ。例の件とは別の話だから、これ位は許してもらえないかな」
例の件って、何?
朝食を終えて、サロンに移動する。あ、そうだ。レオナルドさんにお礼を言わないと。
「レオナルドさん、昨夜はありがとうございました」
「いや?キャスリーンは酒に弱かったんだな」
「そのようです。私は昨夜の夕食の途中からの記憶が無いのですが、何かございましたか?」
「特に?あぁ、キャスリーンが珍しく、俺にしがみついていた位だな」
「しがみついていた?」
「泣きそうな顔で、俺のシャツを握りしめてた。サロンのソファーに座らせたら、シャンとしたけど」
「そうだったのですか?」
「その男にしがみついたというのは、その男の願望も入っているのでしょう」
「あんたは俺に突っかからないと、会話出来ないのか?」
「うるさい」
「事実だろ?」
「うるさい、黙れ」
だだっ子だ。マリアさんがだだっ子になってる。またレオナルドさんが絶妙に揶揄うのよね。
「レオナルドさん」
「分かってるさ」
「本当に?やり過ぎないでくださいませね?」
「手加減はしてるさ。ずいぶん沸点は低いようだが。アルコール並みだ」
「アルコールってそんなに沸点が低かったでしたっけ?」
「エタノールは約78.37℃だぞ?」
「あぁ、低いですわね」
「そうじゃなくてな?」
「分かっておりますわよ?」
『沸点が低い』『アルコール並み』という言葉に乗っかってみただけじゃない。
「キャスリーンのボケは分かりにくいんだよ」
「そう言われましても」
「お2人共、お仲がおよろしいようですね」
うわぁ、マリアさんから怒りのオーラが……。
「キャスリーンとは転生者同士だし?」
「テンセイシャ同士だからといって、キャスリーン様に馴れ馴れしい。身の程をわきまえなさい」
「はいはい。めんどくせぇな」
ボソッと言ったけど、聞こえてますよ。ほら。マリアさんがピキってなってるじゃない。
「私はお2人に仲良くしてほしいのですけれど」
「マリア次第だな」
「その男と馴れ合う気はありません」
「こんな事を言うだろ?素直じゃないんだよなぁ」
「レオナルドさん、煽らないでくださいませ。マリアさん、レオナルドさんを気に入らないからと、そんなにお怒りにならないでくださいませ」
「私は、そうですわね。思ったよりもダメージを受けていませんわね」
「表面上はね。隠した傷はあるんでしょ?」
「……言い当てないでくださいませ」
「ここでは意地を張らなくて良いんだよ?」
「泣きたい訳ではないのです。ただ少し愚痴を言いたいだけで」
「お酒の力を借りてみるかい?飲酒年齢は過ぎているわけだし」
この世界の飲酒年齢は15歳だからね。
「お酒はいただいた事が無いのですが」
「じゃあ、初飲酒だね」
決定?決定なの?
その日の夕食時にお酒が出されたんだけど、私はものすごくお酒に弱いらしい。夕食後の、いえ正直に言おう。夕食の途中からの記憶がない。目が覚めたら、ベッドの中だった。
「えーっと……」
「お目が覚められましたか?」
別邸での私付きの侍女が来てくれた。
「お身体に異状はございませんか?」
「特におかしな感じは無いけど……。え?今何時?」
「朝の6時です」
「そう」
「ブランジット様をお呼びいたしますね」
「ちょっと待って。サミュエル先生も起床されたばかりでしょう?ご迷惑になってしまうわ」
「ブランジット様からは、お嬢様が起きられたら時間関係なく呼べとの事でしたが」
「えぇぇ……」
「お呼びいたしますね」
侍女が出ていった。え?ちょっと待ってってば。私は夜着のままなんだけど?あれ?いつ着替えたの?というかここまで運んだのは誰?誰が着替えさせたの?
色々と混乱していたら、サミュエル先生が来てくれた。とっさにデュベを顎の下まで引き上げる。
「おっと、悪い」
「いいえ」
「お目覚めのようだね」
「はい。ご迷惑をおかけいたしました」
「迷惑なんてかかってないよ」
「私、夕食の途中からの記憶が無いのですが」
「そうなのかい?すごくしっかり受け答えしてたよ?夕食後にサロンに移動する時に少しふらついてたから、カイルに運ばせたけど。頭痛や気分不良は?」
「ございません」
「それなら良いけどね」
「私は何を言ったのでしょうか?」
「ん?まっとうな事しか言っていないね。ローレンス君が幸せなら、とか、カティさんは貴族社会でやっていけるのかとか、人の心配ばかりだ。マルムクヴィスト嬢がキャシーちゃんは?って聞いたら、聖女になんてなりたくないって言って泣き出しちゃって気が付いたら寝ていた。カイルに寝室まで運ばせて、着替えやメイクは侍女に任せたけど」
「レオナルドさんにお礼を言わないと」
「それからマリアにもひと言言ってやって。カイルに運ばせたらそれから機嫌が悪くて、カイルをずっと睨んでいるんだ」
「マリアさんったら」
着替える為に先生には出ていってもらって、侍女の手を借りて着替える。今は夏だから肘までの長さの袖の半袖のサマードレスだ。腕は出しても良いけれど、足は出しちゃダメなのよね。祖父母世代だと腕も隠す物だったんだって。
侍女がドアを開けると、待っていてくれたサミュエル先生とレオナルドさんとマリアさんと一緒に食堂に向かう。
朝食はイングリッシュブレックファースト。ただし一般的にイメージされるようなソーセージにベーコン、ベイクドビーンズや焼きトマト、マッシュルーム、卵料理等がワンプレートに乗っているボリューミィな物ではなくて、エッグ&ソルジャーズと呼ばれる物。黄身が流れ出すくらいの柔らかい半熟たまごに、短冊型に切ったトーストが添えられている。その柔らかい半熟たまごに、短冊型に切ったトーストをディップして食べる。
飲み物は私とリーサさんとマリアさんがミルクティー、ラッセル様とサミュエル先生とレオナルドさんがコーヒー。
それにプラスして、厚切りのベーコンが添えられている。
「うーん。バゲットにバターとジャムが恋しいねぇ」
「私はこっちの方が好みだね。甘い朝食は食べたくない」
「あら、パンケーキにジャムとクリームもなかなかよ?」
「ここの食事は旨いからな。これでエスプレッソなら言うことはない」
「エスプレッソは専用マシーンが必要なのでは?」
「セシルに期待している。家庭用のエスプレッソマシーンが欲しいんだが、小型化が難しいんだと」
私はお味噌汁が飲みたいと思う時がある。積極的にではないけれど。でも出汁の文化が無いのよね。探せば有るのかもしれないけれど、少なくともお味噌は無いと言われた。
「キャシーちゃん、後で頼みたい事があるんだけど」
「頼みたい事、ですか?」
ラッセル様がチラリと、咎めるような目を向ける。
「聖国のお2人に会ってやってほしい」
「それは構いませんが。もしかして黒い石の件ですか?」
「知ってたんだ?」
「えぇ。ラッセル様からお聞きしました」
「詳しくは本人達から聞いてほしいんだけどね。最近、黒い石が聖国に持ち込まれる事が増えているそうだ」
「聖国に?」
黒い石ってディザスターラメンティの事よね?ソッとチェーンベルトの先のドローストリングバッグに入ったディザスターラメンティを、触って確かめてしまった。
「ブランジット様、朝食の席で言う事ではないでしょう?」
ラッセル様がサミュエル先生に抗議する。
「ちょうど良いと思ったんだよ。例の件とは別の話だから、これ位は許してもらえないかな」
例の件って、何?
朝食を終えて、サロンに移動する。あ、そうだ。レオナルドさんにお礼を言わないと。
「レオナルドさん、昨夜はありがとうございました」
「いや?キャスリーンは酒に弱かったんだな」
「そのようです。私は昨夜の夕食の途中からの記憶が無いのですが、何かございましたか?」
「特に?あぁ、キャスリーンが珍しく、俺にしがみついていた位だな」
「しがみついていた?」
「泣きそうな顔で、俺のシャツを握りしめてた。サロンのソファーに座らせたら、シャンとしたけど」
「そうだったのですか?」
「その男にしがみついたというのは、その男の願望も入っているのでしょう」
「あんたは俺に突っかからないと、会話出来ないのか?」
「うるさい」
「事実だろ?」
「うるさい、黙れ」
だだっ子だ。マリアさんがだだっ子になってる。またレオナルドさんが絶妙に揶揄うのよね。
「レオナルドさん」
「分かってるさ」
「本当に?やり過ぎないでくださいませね?」
「手加減はしてるさ。ずいぶん沸点は低いようだが。アルコール並みだ」
「アルコールってそんなに沸点が低かったでしたっけ?」
「エタノールは約78.37℃だぞ?」
「あぁ、低いですわね」
「そうじゃなくてな?」
「分かっておりますわよ?」
『沸点が低い』『アルコール並み』という言葉に乗っかってみただけじゃない。
「キャスリーンのボケは分かりにくいんだよ」
「そう言われましても」
「お2人共、お仲がおよろしいようですね」
うわぁ、マリアさんから怒りのオーラが……。
「キャスリーンとは転生者同士だし?」
「テンセイシャ同士だからといって、キャスリーン様に馴れ馴れしい。身の程をわきまえなさい」
「はいはい。めんどくせぇな」
ボソッと言ったけど、聞こえてますよ。ほら。マリアさんがピキってなってるじゃない。
「私はお2人に仲良くしてほしいのですけれど」
「マリア次第だな」
「その男と馴れ合う気はありません」
「こんな事を言うだろ?素直じゃないんだよなぁ」
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