3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
461 / 733
学院高等部 青学年生

木の記憶

 当時の事を知る使用人は、領城内に居なかった。今日はお休みをもらって、娘さんのお家に行っているらしい。お孫さんの就職祝だって。領城の使用人は8割が住み込みで、通いは少ない。

 明日には帰ってくると言うので、帰ってきたら教えてくれるように頼んで、後は領城内で過ごした。

 翌日、使用人が戻ったとの知らせに、面会したいと伝えて部屋を用意してもらった。

 私の側にサミュエル先生が座って、リーサさんとレオナルドさんとマリアさんは別室だ。サミュエル先生と伝心機とレオナルドさんの伝心機を繋ぎっぱなしにして、あちらでも会話が聞こえるようにしてある。

 ローレンス様の侍女をしていたメイサが、少し緊張しながら入室してきた。侍女頭だった侍女は領城勤めを引退したという。

「お嬢様、お呼びでしょうか?」

「呼び立ててごめんなさい。少しお話を聞きたくて」

「話ですか?」

「メイサはローレンスが幼い頃に、侍女をしていたのよね?」

「はい。こちら領城にいらっしゃる頃は、私と他3名がお側でお世話をさせていただいておりました」

「お庭のアーモンドの木を植えた当時の事を、覚えている?」

「はい。植えたといいますか、ローレンス坊ちゃまが生のアーモンドをばらまいてしまわれたのですけれど」

「それはいつの話?ローレンスがおいくつの時?」

「あれはローレンス坊ちゃまが3歳の春ですよ。元々植えるおつもりでしたが、転倒されてばらまいてしまわれて。涙をこらえながら庭師と共に1粒1粒植えておられました」

「ランベルトお義兄様とお庭で遊んだりしていた?」

「はい。よく駆け回っておられましたよ。5歳になられた頃から、フェルナー家のご嫡男としての自覚が芽生えられたのか、落ち着かれましたけれど」

 じゃあ、あれはいつの頃の風景なんだろう?

「ローレンス君の今の状況は知っているかな?」

 私が黙ってしまったので、サミュエル先生がメイサに質問した。

「旦那様からご説明がございました。ローレンス様がお嬢様を裏切られるなんて、信じられませんでしたが、本当の事なんですね?」

「本当の事だね。ただ、裏切ったというか嵌められたというか。その辺りは間違えないでやってもらえるかな?」

「かしこまりました」

「こちらに戻ってきてからの住まいの事は?」

「伺っております。私もそちらに移る事になっております」

「相手の女性がかなり奔放だから、それだけ覚えておいてやって。貴族にはほとんどいないと思うし、平民でもかなり珍しいというかまぁ、早々居ないと思うよ」

「ブランジット様は、お相手の女性をご存じなのですか?」

「情報収集の為に、何度か話はしたよ。距離の詰め方が極端な女性だね。弱っているところにあの調子で励ましを受けたら、流される男性も多いだろうね。微妙に男性の自尊心をくすぐってくるんだよ。だからそちらに移る人達は相手の女性を諌めたり出来る人になっていると聞いているし、男性は相手が居ない者を集めたと聞いた。メイサさんには取りまとめの立場をお願いすると聞いているよ」

 そんなところまで話が進んでいるの?サミュエル先生はどうして知ってるの?

「お任せくださいと断言するつもりだったのですが、自信が無くなってきました」

「ある程度はタウンハウス王都フェルナー邸で教育はしているよ」

「かしこまりました」

 頷いたメイサが私をじっと見る。

「お嬢様、またフェルナー領に来ていただけますか?」

「それはどういう……」

「理由はどうであれ、ローレンス坊ちゃまがお嬢様を裏切ったという事実に、変わりはございません。ですが、私共はお嬢様の最初に運び込まれた姿を忘れられないのです。あの小さく、今にも消えそうだったお嬢様がこんなにお美しくなられた。これからもそのお姿を見守っていきたいのです」

「メイサ……」

「ローレンス坊ちゃまと顔を会わせろとは申しません。お嬢様がおいでの際に、ローレンス坊ちゃまがいらっしゃっても完璧に隠し通して見せます。どうか、フェルナー領を嫌いにならないでください」

「フェルナー領は良い所ですし、嫌いになんかなりませんよ。嫌いになれませんもの。お義父様がお治めになっておられる、暖かくて優しいフェルナー領が、わたくしは大好きですのよ」

「ありがとうございます、お嬢様」

 メイサが部屋を出ていくと、静かにマリアさんが入ってきた。

「さて、キャシーちゃん。疑問は解決したかな?」

「いいえ。でもあの風景はアーモンドの木が見ていた風景なのでは?と感じました」

「なるほど。キャシーちゃんならありうるからね。光だけでなく水も植物も持っているんだ。植物魔法には木の声を聞くという術式もあるし、キャシーちゃんの不思議な光魔法ならアーモンドの木の記憶を見ても不思議じゃないからね」

「植物魔法って、成長させるだけじゃないというのは知っておりましたけれど、木の声を聞くのですか?」

「成長させるには適切な水、日光、栄養が必要です。経験則からそれを行うのが庭師、木の声を直接聞いて行うのが植物魔法使いですね。経験豊富な庭師と組んで、庭師として働いている者も居りますよ」

 マリアさんが答える。そういえばマリアさんって、植物魔法使いだったっけ。

わたくしの植物魔法は、香りの増幅された物ばかりですけれど、わたくしにも通常の魔法は使えるのでしょうか?」

 ちょっと自信が無くなってきた。サミュエル先生にまで、不思議な光魔法とか言われちゃうし。

「使えてるでしょ?規格外ではあるけれど、通常の光魔法も水魔法も。ちゃんと加減出来てるんだし。気にしなくてもキャシーちゃんの魔法はちゃんと普通の魔法だよ」

「先生は人を褒めるのがお上手ですわね」

「一応教師だからね。でも、ウソは言っていないよ」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして。そろそろ戻ろうか」

 繋げっぱなしにしておいた伝心機を切る。

「先生……」

 どうしよう。立ち上がれない。

「ん?どうしたの?キャシーちゃん」

「少し下腹部痛が」

 さっきから下腹部にと鈍痛があるのよね。これって覚えのある痛みだからもしかしたら……。

「下腹部痛?」

「リーサさんを呼んでいただけますか?」

「分かった」

 マリアさんには残ってもらった。その事によって、マリアさんは薄々勘付いたみたい。

「キャスリーン様、薬湯はお持ちですか?」

「ハーブティーなら。アルヴィンから渡されて、収納ピアスの中ですね」

 収納ピアスから各種お薬と1回分ずつに分けたハーブティーを取り出す。

「それは?」

「お薬箱ですわ。必要な常備薬をここに入れてあります」

「便利ですね」

「収納ピアスがあるから出来る事ですけれど。レティキュール手提げバッグには入れられませんし」

 入らないのよね。3種類位なら入るけれど。それに持ち歩くのも面倒だ。ドローストリングバッグ巾着袋に入れておけばチェーンベルトに通して持ち歩けるけれど、邪魔になっちゃうしね。

「キャスリーンさん」

「お呼び立てして申し訳ございません、リーサさん」

「良いのよ。どうしたの?」

「おそらくですが、初潮が始まりました」

「おめでとう。おめでとうだけど、煩わされて大変よね」

「リーサさんにはお伝えしないとと思いまして。セシルさんとララさんにも」

「喜ぶと思うわよ」

 マリアさんは護衛として側にいてくれる。今も一緒だったから、事情は分かってくれると思う。

「マリアさん、先生にご報告はなさるのですわよね?」

「はい。このような事までどうかと思うのですが」

「サミュエル様って、どうしてそんな事まで?」




感想 103

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

成功条件は、まさかの婚約破棄!?

たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」 王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。 王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、 それを聞いた彼女は……? ※他サイト様にも公開始めました!

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……