3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 青学年生

手紙

わたくしの健康管理の一環かと。先生はわたくしの主治医のようなものですし」

 受胎可能かというのも把握する必要がある、のかしら?なんとなく護衛が増えそうな気がする。あ、レオナルドさんが増えたんだった。そういえばダニエルさんはどうしたのかしら?夏期休暇に入ってから見ていないけれど。

 明日には王都に帰るという日、生理痛のハーブティーを飲んでいると、侍女が手紙を持ってきた。

「あら、サフィア様からですわ」

「ん?第2王子妃から?」

「わざわざここにお手紙をだなんて、何かあったのでしょうか?」

「もうすぐヒューバートの1歳の誕生日だからね。幼児洗礼を行うんだよ。それに出席してほしいって事じゃない?」

「ヒューバートって、第2王子殿下のお子様ですか?お子が出来たのは伺いましたが、お生まれになられたとは聞いておりませんが?」

「王家はね。1歳になったらお披露目をするんだよ。幼児洗礼を行ってね。それまでは生まれた事を隠すんだ。昔の名残らしいね。その昔は5歳まで秘密だったらしいよ」

 日本でいう「7歳までは神の内」と同じ考え方かしら?たしか数え年で7歳になるまでの子供は、まだ神様からこの世に預けられている存在、あるいは神に近い存在であると考えられていたのよね。昔は医療が発達していなくて子供の死亡率が高かったから。7歳まで無事に成長する事を願う気持ちが強くて、「神の子」として大切に扱われたと聞いた。その名残が七五三だとか。詳しくは覚えていないけれど。

 サミュエル先生のいう通り、手紙は洗礼式への出席伺いだった。日時は冬期休暇中。あれ?日が合わない気が。

「王宮行事との兼ね合いだね。王太子の子なら大々的に祝うけれど、第2王子の子だからね。王宮行事優先になっちゃうんだよね。それにたぶん、キャシーちゃんの予定にも合わせたんだと思うよ」

わたくしのですか?」

「ずいぶん感謝していたからね。キャシーちゃんが居なければ子は授かれなかったって。ジェームズとサフィア妃は、本当は命名式にも呼びたがってたんだけどね。さすがに慣習は無視出来なくてね」

 1年間子の誕生を秘するなら、私を呼ぶにしても何らかの正当な理由が必要だし、部外者に知られてはならないという事なら、私に知られるのはまずいだろう。口は固いつもりだけれど、どこから漏れるか分からないから。私が訪ねた後でお子の誕生が噂として囁かれたら、私が疑われる。それは王家もフェルナー家も私としても避けたい事態だ。

 特に私は光の聖女候補として人々の注目の的だ。私があまり騒がれたくないと思っているからと、周りが配慮してくれているから、自由に出歩けるし、教会や救民院に行く事が出来ている。とてもありがたいと思う。

「しかし夜会じゃなく茶会か。こっちもキャシーちゃんへの配慮かな?」

「正式なお披露目は、夜会ですか?」

「その予定だよ。私も招待されているけどね。キャシーちゃん、パートナーで一緒に行く?」

「お年が近い方がいらっしゃいましたら」

「……居ないだろうね。待てよ?侯爵や辺境伯は、家族ぐるみかな?それなら大丈夫?」

 ガブリエラ様やイザベラ様の事ね。

「お義父様に相談してみます」

「それが良いね。こちらも確かめておくよ。ドレスやアクセサリーも贈ろうか?」

「婚約者として?」

「まぁね。アドバイザーは居るし」

 そう言ってリーサさんを見る。

「リーサさんやセシルさんもご一緒なら、もっと楽しいのですけれど」

「え、やぁだぁ。私は平民よ?しかも自国から逃げてきたの。そんな華やかな場には相応しくないわ」

 そんな事は無いと思うけれど。リーサさんは落ち着いた大人な美人さんだ。マナーもしっかりと身に付いている。さすがに高位貴族のマナーは無理だけれど、下位貴族の、それも伯爵家程度のマナーは身に付いていると感じている。

「その相談は明日の魔術車くるまの中でしても、良いんじゃないか?夜会となるとセシルも他の貴族達との顔繋ぎとして、場を活用出来るだろうし」

「そうねぇ。でも、夜会って、パートナーが必要じゃないの?そう聞いたんだけど」

「必ず必要って訳じゃないけどね。出来ればパートナーが居た方が良いと思うよ。中には居るからねぇ。1人の女性を狙ってヤラかすのが。王宮主宰の夜会をなんだと思っているんだか」

「ヤラかすって……」

「空き部屋に連れ込まれたりね。その他にも怪しいクスリを使っている連中も居たね。控室を作っておかないと、何かあった時に困るんだけど、ああいう目的で使われるのはちょっとね。特殊清掃が必要になってくるし」

 特殊清掃って……。お亡くなりになってしまう訳じゃないわよね?さすがに王宮での刃傷沙汰は、あり得ないわよね?

「何があったんですか?」

「あの時はまいったよ。キャシーちゃんが生まれた頃、1歳位かな?その頃の話だけど、ご禁制の薬物で判断能力が落ちた数組の男女が、ひとつの部屋でねぇ。最終的に笑いながら斬り合いを始めるし。光魔法使いとして治癒したけど、血をだらだら流しながら、ヘラヘラ笑ってて、ちょっと怖かった。女性は私の服を脱がそうとするし。血だらけで」

「まるでヤク中だな」

「ヤク中?あぁ、コークとか?」

「まぁな。ドラッグの系統だよな」

 コークはコカインの事だそうだ。もしもし?お2人はどうして知っているのですか?え?普通に友人同士で話していた?注意事項として?そうですか。

 こういう話を聞く度に、お国柄の違いという物を感じる。

「たぶん当たっているよ。禁止薬物でそれまでも楽しんでいたらしい。今は何をしているんだか」

「把握しておられないのですか?」

「当時は大騒ぎになったけど、15年以上が経ったからね。把握はしていないよ。関係各所に聞けば分かるだろうけど」

「夜会ってそんな事があったりするのね」

「かなり特殊、と言えないのがなんとも情けないね」

 刃傷沙汰があったのか。おそらくはそれ以外のスキャンダルも。

「とにかくそんな事があってから、パートナーが居た方が望ましいっていう風潮が広まったんだよね」

「そういう事なのね。あら?という事は、いまだに根絶出来てなくて可能性があるのよね?キャスリーンさんをそんな所にやりたくないわね」

「その辺は王族が守ってんだろ?サミュエル様も居るし。なんだったら公爵様辺りががっちりガードしてそうだし」

「がっちりガード、ね。あながち間違ってはいないね。国軍にも近衛にもキャシーちゃんの支持者が居るしね。公爵プリンスがしっかり統率しているから遠くから眺めるだけだけどさ」

 遠くから眺めるって、私って珍獣扱い?纏わりつかれるより良いけど。

 お手紙の件は、王都に戻ってからお義父様に相談する事にした。行く事になりそうな気がするけれどね。

「王都に戻ってからなのかい?伝心機で連絡しても良いんだよ?」

「伝心機はタイミングが難しいのですわ。お義父様のお仕事のお邪魔をしてはなりませんし」

「じゃあ、夜とか?」

「そうですわね。先生、そんなに急かされずとも、ちゃんと相談いたしますわよ?」

「そこは信用してるよ」

 じゃあ何なのだろう?

 結局先生からは答えを聞き出せないまま、翌日の出発の日になった。レオナルドさんが魔術車を入念に整備している間に、領城のみんなにお別れの挨拶をする。

「また来てくださいね」

「えぇ。確約は出来ないけれど、必ず帰ってきます。ここ領城わたくしの帰る場所ですもの」

「嬉しい事を仰ってくださる」

 領城を出て王都に向かう道筋に、ベンジャミンさんご夫妻と女の子が待っていてくれた。








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