3歳で捨てられた件

玲羅

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学院高等部 青学年生

相談

「オーナー、そろそろ」

「いけない。ごめんね、キャスリーンちゃん。今、会議中だったのよ」

「お気になさらないでくださいませ。ヴァレール様、お邪魔をいたしました」

「またお越しくださいませ」

 丁寧なお辞儀で見送られて別邸に帰ってくると、雪花が走り出てきた。その後ろにラッセル様がいる。

「おかえり、フェルナー嬢」

「ただいま戻りましたわ、ラッセル様」

「フェルナー嬢の居ない間に、第2王子殿下から手紙が届いて、フェルナー領城に送ったんだけど」

「はい。確かに受けとりました。ラッセル様のお気遣いでしたのね。ありがとうございます」

 あぁ、お義父様に相談しなきゃ。本邸に戻りたくないけれど行かなきゃならないかしら?伝心機の使用は時間が気になるし。

「それから伝言。フェルナー侯爵から、フェルナー嬢の都合の良い時に連絡をくれって。時間とか気にせずに」

 あら、私の懸念がバレちゃってた。それにさすがお義父様。フォローが完璧。

「分かりました。連絡してみます」

 自室に入ると着替えをしてサロンに行った。このサロンは転生者のみんなの憩いの場となっている。メインサロンとでもいうのかけっこう広いし、みんなが思い思いの時間を過ごせる。

 サロンにはラッセル様とサミュエル先生がいた。2人で何かを話している。難しい顔をしているから、たぶん難しい話だと思う。

「キャシーちゃん、ちょっと良いかな?」

「はい」

 え、なんだろう?

「キャシーちゃん、第2王子妃と仲が良いよね?」

「それなりには良好だと思っておりますが」

「第2王子妃の前の友人のメイジャー家のイオタ嬢を知っているかい?」

「最初にサフィア様にお目通りが叶いました折りに、いらっしゃいましたわね。その後はお会いしておりませんが」

「彼女が困っているらしい」

「お困りになっておられるのですか?」

「直接相談を受けたのは僕だよ。王宮までちょっと散歩しに行っていたんだけど、誰かに突き飛ばされて、階段を落ちてきた所を受け止めたんだけど」

 王宮まで散歩って、ちょっとの距離じゃないけれど。1時間はかかると思う。それに階段の上で突き飛ばされた人を受け止めた?どこの主人公ですか?

「セッカちゃんのお散歩の途中だったんだよね。で、手当てだけして送り届けたんだけど、その時にフェルナー嬢の話が出てね」

「お兄上が呪われたそうだ」

「呪われた?」

「神官には解呪は無理だと言われたらしい」

「解呪は無理って、その神官は本物ですか?」

「それは今調べさせているよ。解呪依頼は記録に残すからね」

「症状は?お聞きになっておられますか?」

「聞き取った感じだと狂犬病だね。ただ、右側腹部に鎖のような黒いアザが出現しているらしい。日に日に伸びていると言っていたけど」

「黒いアザで成長しているのなら、呪いだろうね。狂犬病は薬では治せないし」

 狂犬病は発症してしまうと、治療法は無い。患者を落ち着かせたり症状を和らげたりといった処置を行って、なるだけ脳を休ませるしかない。狂犬病予防ワクチンはこちらの世界にもあるけれど、発症してしまえば手の打ちようがない。

「医者は鎮静剤の投与しか出来ないと頭を下げたようだ。こう言ってはなんだけど、とても裕福そうにはみえなかったね。どちらかと言えば困窮していると思う」

わたくしが解呪してよろしいのでしょうか?」

「秘密裏に、となるだろうけどね。第2王子妃には知らせてなさそうだし」

「お知らせして、というわけにはいきませんわよね」

 そんな事をしたら、サフィア様に相談が殺到する。逆恨みなんかも向かうだろう。私が解呪しても騒動にならないのは、すべてを秘密裏に行っているからだ。事情を知る人物が最小限だからこそ、私は平穏に暮らせている。防波堤になってくれている方々には、感謝しかない。主にサミュエル先生とお義父様だけど。

「これはお茶会出席の口実が出来ましたわね」

「出席の口実って」

「お義父様やお義母様が反対なさっても、出席しなければならないと説得出来ます」

「第2王子妃に会いたかったんだ?」

「というか、お子様にお目にかかりたいのですわ。きっと可愛らしいに違いございませんから」

「キャシーちゃんって、子供好きだったんだ?」

「好きですわよ?」

「好きだったんだ」

 え?意外だったの?

「可愛い関係に興味が無いのかと」

「ドレスもシンプルなのが好きだしね」

「可愛い物は好きですけれど、自分では身に付けたくはございませんもの」

「フェルナー夫人が、『キャシーちゃんなら絶対に似合うのに』って言っていたのは、だからか」

 あぁ、小さい頃ね。フリフリのドレスには目一杯抵抗したから。小さい頃は今より前世の人格の方が強かったし、二十歳はたち越えてのフリフリドレスは着たくなかったからね。しかもピンクのフリフリドレス。駄々をこねた訳じゃなくて、1日お義母様と口を利かなかっただけだけど。

 夜になってから、お義父様に連絡をした。2コールで出たあげく、即座に移動したっぽいのには驚いたけど。

『どうした?キャスリーン』

「第2王子妃殿下から、お茶会の招待を受けました」

『この時期にか?』

「開催はヒューバート殿下のお披露目の日ですわね」

『また気の早い話だな』

「おそらくお披露目の夜会にも招待されるのでは?と、サミュエル先生が仰いました」

『ではその前から王宮に居る事になるな』

「そうなりますわね」

『それで?キャスリーンはどうしたいのだ?』

「お茶会はお受けいたします。夜会は迷っております」

『ほぅ。何故?と聞いても?』

「夜会の規模が分かりかねますので。同世代の方が居てくださればよろしいのですが、居てくだされなければ目立ちますわよね?」

『キャスリーンはすでに目立っているがな。まぁ良い。その辺りは確認しておこう』

「ありがとうございます。それからひとつ、お願いがございます」

『珍しいな、キャスリーンからのお願いは』

「メイジャー家について、何かご存知ありませんか?」

『メイジャー家?男爵家だな。フェアールカク辺境領の西にある。昨年先代夫妻が相次いで亡くなられたのだが、今もあまり領地経営が良好とは言えないようだ』

「原因は?」

『作物の不作と先代夫妻の死去が重なった事だな。質の悪い風邪が流行ってな』

「質の悪い風邪?」

『通常の風邪より症状が重いらしい。症状は発熱、咳、鼻水、喉の痛みとここまでは風邪の症状なのだが、ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸や呼吸困難が治まらなかった患者が多く、領主夫妻も命を落とした』

「季節はいつ頃ですか?」

『昨年の初夏だな』

 重い風邪症状と聞いて思い浮かぶのは、ヒトメタニューモウイルス hMPVRSウイルス RSV。その違いは流行時期。ヒトメタニューモウイルス hMPVの流行時期は春から初夏、RSウイルス RSVの流行時期は秋から冬。ただ、近年は夏から増加傾向となり秋にピークがみられていた。2021年以降は春から初夏に継続した増加がみられ、夏にピークがみられてきている。でもそれはこちらの世界では関係は無いだろう。

ヒトメタニューモウイルス hMPVでしょうか」

『ん?ヒトメタ……?』

「ヒトメタニューモウイルスです。風邪と同様、対症療法しかございませんわね」

『ふむ。キャスリーンなら治せるのかね?』

「たぶんとしか言いようがございませんわね」

 断言は出来ないのよね。断言しちゃうと「お医者様がこう言ったから」と言われるし、症状や期間にズレが生じると「嘘を言われた」なんて言われちゃうから。だから医療従事者は、病状に関しては断言しない。かつての日本は「医療過信」だった。すなわち医者は「お医者様」であり「お医者様が言うなら間違いない」という風潮だ。今はそれ程でも無いどころか、医療不信気味だと思う。




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