ハングリーアングリー

春野わか

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スタンド・バイ・ミート

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「ねえ、右斜め後ろの、ギャル利根にそっくりじゃない? 」

「あんなメイクしてたら七十のお婆ちゃんでもそう見えるわよ。セレブがこんな庶民のツアーに一人で参加する訳ないじゃない」

 ご当地グルメを大食いしてるのをテレビで良く見掛ける。
 食べる量なら負けてないのに。
 経費はテレビ局もちで大食いしか能が無いのにセレブ。
 ギャル利根と自分の違いはなんだろう。
 化粧が濃いか薄いかだろうか。

 塔子とお喋りしながら車窓に並行する景色に何となく視線を流す。
 雲も疎らな青空が続いていた。

 渋滞も無く、バスは海老名SAでトイレ休憩を取り、御殿場インターから一般道に降りて最初の目的地に到着した。

「此方で相州牛の定食を召し上がって頂きます」

 先ずはツアー貸し切りレストランで相州牛の定食だ。
 白を基調としたカジュアルな店内の席に着いて暫くすると、コンソメスープとサラダとパンがテーブルに運ばれてきた。
 トマトとレタスだけのサラダは至ってシンプルだが、近くの農園で取れた無農薬野菜を使っているという。

「美味しそう」

 フォークを手に取り塔子に微笑む。

「ねえ、庭が綺麗だよ」

 塔子に言われて両開きのお洒落なハイサッシから見える洋風庭園に顔を向けるが、好実の意識は直ぐに料理に戻った。

「あれ?」

 白い皿の上にあったものが全て消えている。

「え?何で?まさか!」

 思わず高い声を出すが、正面に座る塔子は何食わぬ顔で口をモグモグ動かしている。
 
「どうしたの?」

「サラダもスープもパンも消えてる」

 あらぬ疑念が沸いたがスカートをギュっと握り締め、友情を壊し兼ねない発言を堪える。

「そんな、料理がいきなり消える訳ないじゃない。食べたんでしょ?瞬く間に。何時もそうじゃない」

 そう言われると自信が無くなってきた。
 塔子は大食いだが早食いでは無い。
 それに引き換え自分は大食いで早食いだ。
 塔子とは長い付き合いだし、いくら何でも人の料理にこっそり手を付ける程下劣な人間では無い。

 その時、ぷんと食欲をそそる香りが鼻先を掠め、好実の寄せられた眉間の皺が緩んだ。

「相州牛のステーキ! 」

 メインディッシュの登場に沈んだテンションが跳ねる。
 スーパーで売られている肉とは風格が違う。
 サラダやスープなんてどうでもいい。
 野菜が逃げ出す訳は無いから、いつの間にか食べていたのかも。

 興奮し過ぎて記憶が飛んでしまっただけかもしれない。
 スープはうっかり溢してしまった、とか。

 好実は気を取り直して、フォークとナイフを構えた。

「そういえば、前に話してた本」

 上質な肉にナイフを入れようとしていたところ、塔子が隣の椅子に置いたバックから一冊の本を取り出し目の前に差し出してきた。

 タイトルは「諦めないダイエット!今度こそ痩せられる」だった。

 今!よりによって今!
 塔子が空気が読めないのは今に始まった事では無いけど。

「わあ、ありがとう。ホント嬉しい! 」

 開いた眉間が再び狭まり胃袋が一瞬だけ縮むも、作り笑いで本を受け取り頁を捲って見せる。
 どんなに親しくとも女同士は建前が大事。
 笑顔を固めた儘、テーブルに視線を戻すと今度は真っ白の皿から相州牛が消えていた。



 



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