サンタに捧ぐ贈り物

春野わか

文字の大きさ
11 / 16

しおりを挟む
「YES!!YES!!HOOーーーー」

 爽快感で思わず絶叫した。
 クルー達もノってきた。
 白銀の雪を跳ね上げ滑走する。
 ルディの力強い脚運びとリーダーシップでキレキレのスピード感を味わう。

「わわわわ!ルディ! 」

 何度も横回転しながら突き進む。
 楽しむ余裕はあったが付け髭は雪塗れだ。
 こんなサンタのソリは有りなのだろうか。

「マシューちゃん、どう?あたしの走り。マジでサイコーでしょ? 」

 ルディはセクシーにウインクした。

「もうすぐ目的地よ!住宅が集中している区域だから一気に配れるわ」

 クインが冷静に指示を出す。

「速度緩めて」

 マシューは手綱を引いた。

 ピンクやブルー、パステルグリーンで塗装されたマンションや家々が立ち並ぶ。
 どの家も玄関のオレンジ色のライトが灯された儘だ。
 鍵の掛けられていない窓から静かに入り、ツリーの下や靴下にプレゼントを忍ばせる。

 昔の老人は何て元気なんだ。
 煙筒を自力で登り、暖炉から忍び込むなんて正気の沙汰じゃない。

 各所に設けられているクローバーカンパニーの倉庫に保管してあるプレゼントをソリに積み込み、続けて家々を回る。

「マシュー、今の所いいペースよ! 」

 クインの声に励まされる。
 
 再びソリに跨がり住宅が密集する区域に降り立った。
 プレゼントの入った袋を背負い、一階の窓枠を越えようとしたところで足が引っ掛かり、床に尻餅を付いてしまった。
 
「いてっ──」
 
 小声で呟き尻を擦る。

「サンタさん? 」

 マシューの心臓がドキリと跳ね上がった。
 5、6歳の女の子がトロンとした目で彼を見詰めている。
 彼が入った窓はトイレに通じる廊下の真正面にあったのだ。

 気弱なマシューの心臓は、相手に聞こえるんじゃないかというくらいドクドクと脈打ち始めた。
 こんな時、サンタなら──

「メリークリスマス! 」

 しゃがんで目線を合わせ、そっと女の子の頭に手を起きプレゼントを差し出す。
 女の子はプレゼントを受け取ったが寝惚け眼でぼんやりしている。
 その隙にマシューはゆっくりと背を向け、ジングルベルをフンフン歌いながら身体を揺らして入ってきた窓から外に出た。

「漸く歌とダンスが役に立った」

「下手なダンスが~~役に立つのさ! 」

 エイダンがふざけて歌うと笑いが起こる。

 ソリは次の場所へ向かう為高度を上げた。
 下を見下ろす。
 都市部の華やかな明かりが遠くに見えた。

「良し!どんどん行っちゃうわよーー」

 ルディの掛け声でクルー達の足並みが加速し、マシューの髭が風で後ろに靡く。
 クルー達がまた歌い出した
 
 走れそりよ 
 丘の上は
 雪も白く 風も白く
 歌う声は 飛んで行くよ
 輝きはじめた 星の空へ

 OH YEAH ソソ、ソックス吊るして楽しい夢を
 朝目覚めればきっと届いてる
 6頭のトナカイ 勇敢な我等 サンタの相棒 いきなり参上 回り巡るよ  YoYoソリで

 ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
 鈴のリズムに ひかりの輪が舞う
 ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る
 森に林に 響きながら

 ジングルベルにラップを入れてきた。
 マシューも共に口ずさむ。
 トナカイ達からパワーを分けて貰って疲れも吹き飛ぶ。
 
 何て素敵な夜なんだ。
 ソリを走らせながら眺める夜景こそが、自分に対するプレゼントに思えた。

「次の目的地、後30m」

 クインは真剣な面持ちでモニターを見詰めていた。

 管制室のモニターは4分割され一つにはマシュー達のリアルな姿が映し出されている。
 目的地が色分けされていて、障害物となる大きな建物は赤く点滅し、サンタの現在地を確認出来る映像。
 それにプレゼントを届け終わった区域が塗りつぶされていく映像と、ソリの方向と道を示すナビとなる映像だ。

 モニターの下では絶えず数字がカウントされている。
 プレゼントの個数だ。
 0になればノルマ達成となる。

 速度を落として緩やかにソリが着地した。 
 レモンイエローの壁にペンキで可愛らしい花や木や虹が描かれた大きな建物があった。
 建物の敷地内には大小の雪だるまが幸せそうな顔で並んで立っている。

 ドアをノックする前に扉が開いた。

「メリークリスマス! 」

「メリークリスマス! 」

 児童養護施設の職員と挨拶を交わしてプレゼントを渡す。
 ソリに跨がる時、窓に掛かるカーテンの隙間からベッドを並べて眠る子供達の姿が見えた。

「いい夢を! 」

 雪に付いたサンタの足跡は明日には消えているだろう。
 再びソリは飛び、鈴の音を鳴らしながら次を目指した。

「皆ぐっすり寝ていたから、かっこいいサンタの姿見せてあげられなくて残念だったわね」

 ルディが言った。

「サンタは奥ゆかしいんだ。さあ急ごう! 」

 始めは振り回されていたマシューも、トナカイ達の制御に慣れてきた。
 ぐずぐずしてはいられない。
 障害物に対して警告を発するクインの声が何度か届いた。
 でもスピードは落とさない。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...