タツノオトシゴの憂鬱

春野わか

文字の大きさ
8 / 9

しおりを挟む
「鳩メールで呼んだから直ぐに来てくれるって!子供達がいるから僕が運んであげる事は出来なくて、ごめんね。後で駆け付けるから」

 笑夫さんの言う通り、イルカは直ぐにやってきた。

「HEY!何処へ運べばいいんだい?僕はルカ!あれ?君もしかして──」

「五郎ちゃん!! 」

 少し軽い感じのイケ面イルカの背中から乙姫ちゃんが顔を出した。

「乙姫ちゃん! 」

 可愛い奥さんの顔を見て、驚きの後に安堵がじわっと込み上げて泣きそうになってしまう。

「早く乗って!出来る事なら此処でじゃなくて家に帰って産みたいでしょ? 」

 乙姫ちゃんの言う通りだった。
 家にある海草のインテリアに尻尾を絡めてイキまないとダメだ。

 笑夫さんがルカ君の背中に僕を乗せてくれた。

「五郎ちゃん、しっかりね」

「じゃあ、飛ばすよ! 」

 まるで海を泳ぐようなスピードだ。
 僕達タツノオトシゴは本当に泳ぎの下手な海の生き物なのに、イルカと来たら何て速さなんだろう。

 陣痛は苦しいけど風が気持ちいい。

 弁&銀の頭上を通り抜ける時、僕の姿を認めて彼等の嘴がオーの字になる。

 ムチオトカゲの影子さん、熊美さんに鹿子さん。
 皆が驚きの表情でイルカに乗った僕を見上げる。

「産気づいてるんだよ! 」

 頭上を通過する時、ルカ君が彼女達に伝えた。

 アザミさんと楽美さんと心愛さんの立ち話する姿が目に入った。
 
 猛スピードで進むイルカの上の僕と一瞬目が合う。

 三匹は何か叫んでいたけど聞こえなかった。

 あ、花さんだ!

 ガルルルルルル

 吠えられても、もう怖くない。
 でも相変わらず顔は怖い。

 陣痛は強くなったり弱くなったり。
 いててててて。

 痛みで顔を顰めた時、家に到着した。

「五郎ちゃん、着いたわよ!ルカ君ありがとう! 」

「どういたしましてーー」

 そう言うと、ルカ君はあっという間に行ってしまった。

 乙姫ちゃんに支えられ家に入ると、海藻のインテリアに尻尾を絡ませる。

 ああ、やっぱり海藻に掴まってると安心する。
 
「五郎ちゃん痛くない? 」

 可愛くて優しい乙姫ちゃん。
 最高の奥さんだ。

 こんな状態じゃなければ直ぐに尾を絡めてダンスしてチューしたいのに。

「ううううーー陣痛がぁーー」

 思わずイキみたくなるけど、まだ早い。
 暫くして痛みが収まり、また痛みが復活する。
 
 それにしても何だか周りが騒がしい。
 はっと窓を見ると沢山の動物達が覗き込んでいた。

 乙姫ちゃんが外に出る。

 ドアを開けた途端に皆の大きな声援が部屋中に溢れる。

「頑張れ!五郎君! 」

「落ち着いて!息吸って吐いてー」

 その中には雛達を背中に乗せた笑夫さんの姿もあった。
 
 途中出会ったアザミさん楽美さんに心愛さんは祈るように両手を合わせ、熊美さん鹿子さんも駆け付けてくれた。

 ルカ君は他の雄達を引き連れて、ムチオトカゲの影子さんも興味津々という風に見守ってくれている。

「五郎ーーーー気合い入れろーー負けんじゃねーぞーーーーガルルルルルル」

 恐ろしく気合いの入った声援はもちろん花さんだ。
 こんな熱い声援を送られたらイキんでしまいそうになる。

 道で出会ったカバの親子やまだ話した事ない動物達まで覗き込んでいる。

 フォレスト中の動物達が集まってきてるんじゃないだろうか。

 弁&銀も後から短い足をチョコマカと動かしながら息を切らしながら走ってきた。

 何て皆いい動物達なんだ。

 新参者の僕の為に──

「息吸って吐いてーー」

「ヒッ・ヒッ・フー」「ヒッ・ヒッ・フー」
「ヒッ・ヒッ・フー」「それ、ヒッ・ヒッ・フー」

 ラマーズ法呼吸を皆で唱和し始める。

 僕のお腹がブルルっと震えた。

「ヒッ・ヒッ・フーヒッ・ヒッ・フー」

 呼吸を調えイキむ。

 ポコッ


 「あ!! 」

 僕の育児のうから赤ちゃんが一匹勢い良く飛び出した。

 一瞬静まり返った屋外の動物達から拍手と歓声が沸き起こる。

 乙姫ちゃんが赤ちゃんを受け止めチューをした。

「まだまだ! 」

 勢い付いた僕は次々と赤ちゃんを産み出していく。

「可愛い!おめでとーー」

 皆の祝福の声が溢れる中、最後の赤ちゃんが育児のうから飛び出すと、僕はぐったりと床に倒れ込んでしまった。

「五郎ちゃん、ありがとう!こんなに可愛い赤ちゃんを沢山産んでくれてありがとう」

 乙姫ちゃんは涙を流して僕に頬擦りした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...