タツノオトシゴの憂鬱

春野わか

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───

 乙姫ちゃんと赤ちゃん達が、目覚めた僕の周りを囲んでいた。

「良く頑張ったわね」

「パパ」「パパ」「パパ」

「もうパパって呼んでくれるのかい? 」

 赤ちゃん達の愛らしさに僕の目に涙が滲む。
 無事に終わったんだと実感が沸き胸が熱くなる。

「名前を考えないとね」

「沢山いるから大変だなあ」

「ダンスしながら考える? 」

「そうだね。子供達ともダンスしたいな」

 尾を絡めてユラユラ。
 子供達にもダンスを教えてあげないと。

 ちっちゃな尾と絡めてダンスダンス。

「沢山いるから覚え易い名前がいいわよね」

「そうだね」

「ねえ、また卵産み付けていい? 」

「え? 」

 僕は自分の耳を疑った。


───────そして、また妊娠した。


「五郎ちゃん、具合どう? 」

「うう……つわりが……子供達は? 」

「笑夫さんのとこで遊んで貰ったり、ルカ君達に泳ぎを教えて貰ったりしてるみたい」

「そっか……それは……良かった」

「そういえば花さん、産後の傷のせいで元気無かったみたいだけど、最近はまた気合いを取り戻してるみたいよ」

「そうか……良かった……」

 再びつわりに苦しんでいる僕だけど、すっかり多様性に富んだフォレストが気に入ってしまった。

 此処に住む動物達とは種を越えた友情が芽生え、みんなとても心が温かい。
 たまに海が懐かしくなるけど、本当にフォレストに来て良かった。

 そのうち子供達を海へ連れて行って、その雄大さも教えてあげたいけど。

 そして、また僕が臨月を迎えた頃──

「大ニュース大ニュースよ!五郎ちゃん」

 フォレスト新聞に目を通していた乙姫ちゃんが興奮気味に僕の方に顔を向けた。

 何だろう。
 フォレスト新聞は地球上の様々な動物達のニュースを扱っている。

「此処よ!此処見て! 」

 乙姫ちゃんが口で指した紙面に目を遣る。

 そこには驚くべき事が書かれていた。

『人間の雄もこれからは妊娠可能に! 』

「人間の雄が? 」

「そうよ!まだ実際に人間の雄で出産経験してるのは、カクレクマノミみたいに性転換した元雌だけみたいだけど。先を読んでみて! 」

 僕は興奮気味に先を読んだ。

 人間の持つ育児のう的な物は雄にも移植出来て、タツノオトシゴみたいに雄の胎内で赤ちゃんを育てる事は技術的には明日からでも実行可能というような事が書かれていた。

「ねえ、凄いと思わない?人間って環境破壊ばっかりしてる嫌な奴等かと思ってたけど、他の種が持たない技術はあるのね」

「僕達とは身体の構造が違うから、雄がイキんで産み出すのは無理みたいだけどね」

 自然界でヨウジウオ科だけが雄で出産するという孤独と憂鬱は、僕の中では既に薄れていた。

 雌が産もうが雄が産もうが命は尊く、子供達が愛しい事に変わりはない。

 ただ、人間の雄とは友達になれないかもしれないけど、妊夫仲間が増えるのは素直に嬉しかった。

「人間の雌では移植した育児のうで実際に出産も成功してるみたいだね」

「じゃあ、人間の雄もそのうち出産するようになるのかなあ」

「きっと近い未来にね!乙姫ちゃん。ダンスしよう! 」

「うん、五郎ちゃん」

 尾を絡めてチューしてダンスダンス。

 人間の雄が赤ちゃんを出産!
 そんな時代はもうすぐそこまで来てるのかもしれませんね。


                 End
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