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第一章
αへの恨み ④
しおりを挟む「何をしているのです、」
「っ、わっぷ、」
うつら、うつらとして眠りそうになった時、バシャッと顔に冷たい水が掛けられた。
物凄い勢いで鼻の中に入って来た水が痛く、飛び起きて咳き込むと、桶を持った如月に見下ろされていた。
レッスンの中、何かを間違えても冷たい水を掛けられた事は一度も無かった。顔に広がった冷たい感触にハッと目が覚めて、手で濡れた場所を拭う。
ここはもう、元の家ではない。
思い出に浸るほどの余裕はない。
「…ごめんなさい、」
「…申し訳ございません、は?」
「申し訳ございません…、」
ピシャリ、とまた水を掛けられる。
謝り方も直さなければならないこの世界。さて、どうやって逃げ出そうか、と迷う。
この運命を受け入れずに逃亡しようかと考えていたのかって?
当たり前な事だ。
何故、Ωだからという理由であんな事を他の男にもされなければならないのか。
それこそおかしいではないか。
今は従うフリをして、体力が戻ったら逃げ出す事を考えよう。
そうでもしなければ、私は老いるまで憎きαの玩具になるというわけだ。
「如月様…」
「どうしたのです、ルビー。」
「しっかり致しますので、お許し下さいませ。」
「…フン、良いでしょう。では湯浴みをして身体を綺麗にしてきなさい。」
私をこの運命に引き摺りこんだαを絶対に許さない。
それが、誰であってもだ。
こんな屈辱を与えたこのβも、許しはしない。
いつか復讐をする為に、今は大人しくしている必要がある。
痛む身体に鞭を打って立ち上がり、ヨタヨタとした足取りで大浴場に向かう。
壁に手を伝いながら扉を開けると、元いた家の何倍も広いお風呂場が姿を現した。
そこにはちらほらと女の人が居て、全員が私の方を見てギョッとした表情をする。
「如月様、その子は誰ですか?」
「…ああ、今日来た新しいΩのルビーです。皆さん、宜しくお願い致します。」
如月さんの声が浴場内に響くと、どよめきが走った。
どうやらここに居る人達は皆、私と同じようにΩで、ああいうお仕事をしているらしい。
どう見たって子供の私がこの場に入って来て驚くのも無理はないだろう。
モワッとした湯気が立つ中、ヒソヒソ話が聞こえてきて視線を落とす。
この人達は嫌では無いのだろうか。
自分が、Ωだという事が…。
αが憎くは無いのだろうか…。
「ルビーちゃん?こっちにおいで?」
「…ほら、ルビー。先輩方にご挨拶をしにいきなさい」
「…、はい、」
甘ったるい声で呼ばれ、如月の催促もあり、私は恥ずかしがる子供のフリをして渋々と温泉に入っている女の人達の元へと向かう。
「ああ、まずは身体を流してあげましょう。」
「そうですね、」
「凄い血が出てるわ、ロウ様に無理やりされたの?」
「…子供ですもの、痛かったでしょう…、」
行った先にあったのは想像とは違っていた。
皆、種族が違っていて、中には兎や猫の獣人のお姉さんも居た。
それに何故か皆、優しくて。
先輩という名を響かせ、いびられるどころか、お姉さん達に尽くされていた。
「随分酷くされたのね…、大丈夫?」
「…痛、かったです…、」
「そうよね…、あんなの子供が受け止められるようなものじゃないもの…。少し身体を温めた方が良いわ。ヒートを無理やり起こされた後は疲れが溜まるから、」
「…ありがとう、ございます」
中でも一番優しかったのは、猫の獣人さんだった。
全員優しかったのだけれど、その人は格別で。
まだヒートを起こされて間も無い私の身体を労わってくれたのだった。
因みにヒートとは、発情期の事を言うらしい。
無理やり発情期状態にさせられた私の身体には疲労が溜まっていて、休まないと普通の人でも倒れてしまうそう。
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