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第一章
Ωの脱出計画 ①
しおりを挟む作戦は、簡単に成功した。
私の言葉を信じたルネさんは丁寧にトイレまで送ってくれて、「何かあったらベルを鳴らすのよ」と一言残してその場を去った。
「…うーん、」
この屋敷のトイレはとても広く、慎重に進みながら辺りに視線を張り巡らせ、脱出経路がないかを確認する。
家のトイレも凄く広かったけれど、この屋敷には沢山の人や獣人が居るからか、個室の量も多い。
しかも一角にはシャワーもついてる。
別に大浴場があったというのに、ここにシャワーが付いている意味は何なのか。
考えの浅い私はまだ知らなかった。
「…何だ、ルビーじゃないか。」
後ろから聞こえた低い声に肩が上下して、恐る恐る振り返る。
けれど視線は上げられず、聞き覚えのある声に身体が震え、床ばかりを見下ろす。
何故なら、既に相手の威圧を感じ取っていたからだ。
この場に居合わせるだけでも感じる凄まじいその圧をロウという黒豹は持っている。
半月を描く金色の目が私の身体に向いている気がして、膝を震わせながら俯いていると。ヒタヒタと向かい側から足音が近付いてくる。
「トイレに来て、何をしていた…?」
「…トイレを、したくて。」
「では何故、俺の方を見ない?」
「…ッ、き、緊張して…いるから…、」
相手の鋭い切り返しにゴクリと喉を鳴らし、後退する。
じわじわと足元から迫り来る恐怖に耐えかねた身体は震えをさらに倍増させ、冷や汗まで流れ出る。
どうすればいい。
どうすればこの状況を変えられる。
考えろ、考えろ…。
考えろ、私…!
焦りが募る中、ハッとして顔を上げると、ロウが私の目の前まで迫ってきていて。後ろには洋風に飾られた壁があった。
「俺は優しいからな。今、正直に言えば許してやる」
「…、」
緊張で上下しそうになった喉をスゥ…と爪のある指先で撫でつけられ、口を結ぶ。
細められた金色の瞳を見上げる事無く、自身の足元を見ながら考えた。
「ここに来て、何か良くない事でも考えたのか?」
「…いいえ、」
嘘の付き方を学べば、ここで問い詰められる事もなかったのかもしれない。
震えた声で返した言葉をロウさんが逃がすわけがなく、喉元を撫でていた指が爪を立て、首を圧迫し始めた。
向けられているのは怒りに染まった金色の瞳。腕を辿って見えたのは何処からどう見ても相手は牙を向いた一匹の黒豹。
「…もう一度聞く。」
「…っくぅ、ぅ、うっ、」
「ここに来て、何を考えた……?」
ーー何かあったら、ベルを鳴らすのよ。
この緊急時に思い出すのは両親の事でもなく、辛かった事でもなく。ルネさんの助言だった。
ベル…。
ベルは、何処に…っ。
辺りに視線を巡らせ、幸い壁沿いに置いてあったそのベルに手を伸ばす。
怒りに我を忘れているロウはそれにすら気付いていなく、細い私の腕がベルを取り、力いっぱい押し鳴らした。
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