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第一章
血の味を知った者⑤
しおりを挟むその尻尾をそっと撫でていると、少し前の事を思い出した。
そう、彼に出会ったあの日の事。
「……狡い、ひと」
今まで私に優しい温もりを与えてくれたのは、ギンさんだけだった。
3年前に会ったあの日に私を真綿で包み込むように優しく扱い、眠らせてくれたんだと思う。
だけど、勘違いしてはいけない。
あくまでもギンさんは私の復讐相手だ。
ルネさん達が死ぬ原因になった、憎き相手。
時間が掛かっても殺すつもりの相手に過ぎず、恋愛感情なんて絶対に持たないだろう。
「…どうして…置いて行ったの…ぐすっ…」
そう、思っているのに。あの日の事を思い出すと、酷く辛い感情まで込み上がってきて、目から熱い雫が大量に零れ落ちた。
「どうして…連れて行ってくれなかったの…っ、」
一緒に連れて行って欲しかった。
ギンさんと、一緒に行きたかった。
それを分かっていたはずなのに、ギンさんは私の事を置いて行ったんだ。
やっと出逢えた運命の番にまで裏切られる人生を歩むなんて誰が予想したのだろうーー?
「…うっ、うぅっ、」
「…、」
この時、背を向けていた彼がどんな表情をしていたのかを私は知らない。
しばらく、私が涙を啜る音だけが部屋に響いていた。
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