無情の電脳傭兵 異世界で再起動する

graypersona

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闇からの訪問者

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巨大大陸がまだ形を成したばかりの頃、
この世界にあったのは、日の光を遮る靄のような
形の定まらぬ巨大な姿のものであったという。

その形の定まらぬ混沌とした巨大な存在から
今の神々が形を持って現れると同時に、
この世界には様々な命が生まれ出たのだという。

その神々は生まれ出た命達を見守り、
時に干渉するような存在であったという。

巨大な姿のもの達は、神々との間で争いがあり、
地上からは炎の姿のものを残していなくなったという。

その争いの後、神々は天空の高みに住み、
今も地上の世界をじっくりと見守っている。
まるで地下から出てくるものがいないか
見張っているかのように。



光があれば影がある。
表裏一体に思えるものであるが、
元々光の届かぬ空間には影は存在しえず、
そのような空間は宇宙の深淵と同じく
闇が覆いつくし支配している。


そんな闇の中から歯ぎしりと共に
声らしきものが零れた。

 『・・・・・・・・・・・』

理解できる言葉ではないようだが、応える声があった。

 「はい、まだ見つかっておりませんが、
  ハーデス様であれば、
  必ずや彼の者をとらえて
  ここへ連れて来られるかと。」

宥める様な声に急がせろと言わんばかりの
歯ぎしりが返された。




何処とも知れぬ暗がりの中で
目を閉じて瞑想する黒ずくめの男がいた。

 (なるほど、彼の者は子供達の
  体内に仕込まれた広域殲滅魔法を
  取り除いて回っているという事か。

  しかも、移動を始めると早すぎるのか
  私の闇の目が追い切れぬとは。
  実に興味深い。

  この私の闇の目が彼の者を捉えるのが先か、
  天空の神の目が私を捉えるのが先か。

  いずれにせよ、あの方の命だ。
  何としても、生きたまま
  闇の世界へ連れて行かせてもらう。


  ふむ、ここより西の港町だな。
  この世のすべてが闇に通じていることを
  思い知るがいい。)

瞑想する男の姿がその暗がりの中へ
溶け込むように消えていった。



 「うわー、西側の港町って港町に
  魚人族の子供がこれでもかってほどいるんだけど。
  
  多すぎだろ、これ。
  いつになったらこの行脚終わるんだよ。」

 「文句言う暇があったら手を動かして、
  調整ポッドの起動をするのだわ。」

ぶつぶつ言うセブンにサラがそう言い放ちつつ、
魚人族の子供達にギルドが開設した孤児院の説明を続けていた。

アトランティス帝国でクローン技術で生み出され、
さらに電脳兵化された魚人族の子供達は、
当然ながら親の顔も自分の名すら知らない
自我を持たない自爆兵だ。

体内の魔石に仕込まれた広域殲滅魔法を無効化するのは
サラが開発者権限で組み上げたプログラムで対応できる。
問題は無効化後に自我を持った状態の子供達の行き先だった。

彼らはもう成長することはなく、魔石の魔力補給だけで
200万時間は連続稼働できるのだが、
メンテナンスが不要というわけではない。

専用の簡易調整ポッドをセブンが錬成し、
受け入れ先に子供達とセットで引き渡す必要があった。

この街ではギルドが荷物持ちの仕事の斡旋を兼ねて
受け入れに協力してくれることになっていた。
サラは子供達にこのことを説明していたのだった。


ただ、この無効化の作業は決して楽なものではなかった。
サラもセブンも厳しい現実を何度も目の当たりにしていた。

自我を急に持った子供達の中には自分が理解できずに
発狂するものが多かった。
体内の制御回路が焼き切れるまで暴れるため、
セブンが動かなくなるまで抱きとめる役割をしていた。

回路が焼き切れた魚人族の子供達は
サラが浄化の魔法をかけた後、アイテムボックスに
安置している。

海竜ヨルムンガンドが見守る海の底に
多くの遺体が眠りにつく予定だ。


 「ぼくは誰なの?ねぇ?ぼくってなんなの?
  わかんないよ、わかんないよ!!」

今もまた調整ポッドから出た子供の一人が発狂し暴れ始めた。

初めのころは、暴走した子供を苦しまないように
撃ち殺してやるべきだというセブンを
サラが押しやり、こと切れるまで涙を流しながら抱きしめていた。
そんなサラを見ていられなくなり、
セブンが同じ対応をするようにしていた。


 「ふむ、気持ちは分からなくはないが、
  私が一思いに送ってあげるとしよう。」

セブンの背後から不意にそんな声がかかると、
暴れていた魚人族の子供の体が溶けるように消え去った。

セブンが振り返るとそこには黒ずくめの男が
無表情の顔で佇んでいた。

 「何をしているかと思えば、そのような事に
  時間を要していたのか。

  過去の時間の中で
  君は散々殺してきたのではないかね?

  何故、同じ対応を取らない?
  どうせ死ぬ命だ、同じ結果ではないかね?」


 「いや、ここは戦場じゃない。

  しかも、彼らの殲滅指令を受けた傭兵を
  しているわけでもない。

  今の状態だと、ただのボランティアだ。

  しかも彼らにこんなことをしたものとは
  無縁とは言い切れないのでね。
  罪滅ぼし的なところもあるんだ。

  で、おたくはどちら様で?」

 「なるほど、その心がけは良しとしよう。

  私はある方からの命を受けて君を探していたのだよ。

  セブン殿、私と一緒に来て貰おうか、冥界の闇へ。」

 「あー、何れ行くことになると覚悟はできているんだけど、
  もうちょっと時間くれないかな。」

 「一思いに私が彼らを送ってあげよう。
  そうすれば、早く済むのではないかね?」

 「いやいや、選別せずに送ったら可哀そうなんだけど。
  って、みんな地獄行きってないんじゃないか、
  俺はいいけど、この子達には何も罪なんてないだろ。」

 「勘違いだな。それは君の倫理観念での選別だ。
  冥界の裁きとはそうではないのだよ。

  さて、ここで発狂する子供達は私が送っておいた。
  一緒に来給え。」

 「いや、まだ俺死んでもいないんだけど。」

 「大丈夫だ、安心し給え。
  生きたままでも冥界に行けるのだよ。」

 「いやいや、安心して生きたまま地獄に行けないんだけど。
  あり得ないんだけど。」


 「セブン、そちらはどなたなのかしら?」

訪問者に気付いたサラが話しかけてきた。 
 
 「これは失礼。
  私はこの世界ではハーデスと呼ばれるもの。
 
  セブン殿を冥界にお連れするべく罷り越した次第。
 
  では、サラ殿、セブン殿をお連れしますので失礼を。」

 「えっ!?ハーデスって、冥界の王?
  いや、やめて!
  セブンを連れて行かないで!
  彼は私のために戦場に出たの!
  私のせいなの!
  連れて行くのなら私を!」

 「いいえ、あの方の命ですので、
  あなたではございません。

  失礼を。セブン殿、参りますよ。」

そう言うとセブンとハーデスと名乗った男の姿が
溶けるように消えていった。
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