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異説かぐや姫

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 「今回のは特別だと思って欲しいわ。
  といっても、本当は私も現在を見通す力で
  貴方の思いと共感してしまったのも原因だわ。
  すでに終わったこととして忘れましょうね。」

 「いやいやそんなにあっさりと言われても
  無理でしょ、普通?」

 「これくらい、といったら気に触るかしら?
  でも、これくらいの事は常に起こりうる事だわ。
  そうね、そのうち気にならなくなる時が来るわ。

  その時は記憶は消してしまう事がとても大事なの。
  貴方のために。
  でも、その時の思いは貴方の胸の中に永遠に残るわ。
  記憶と思いは別のものだから。」

 「と言われてもなぁ。
  この世界のことって元の世界と繋がってて
  分岐した世界なんだよね?

  って、ことは、俺のセブンって名前は
  最初の配属分隊からついたもんだったんだ。
  てっきりスペースチタンボディの7番試験体だと
  思ってたよ。」

 「そうね、でもそれだけでもないのよ。
  貴方について回る数字がセブンに
  つながることが多いからだわ。
  
  言葉にも呪いのような作用があるように、
  数字にもあるのよ。
  因果律に関わる言葉と数字、
  それは時にタロットなどの占いとしても
  使われるわ。
  その人がその時引き寄せる、関わる言葉と数字が
  物事の流れを変えることは良くあるのだわ。

  さて、次の世界に着いたわ。
  本当はここはウルズ姉様の担当なのだけど、
  次の世界の途中にあるからついでに頼まれたの。」

 「ええっ?そんな理由?
  ついでって、簡単なお仕事なんでしょうか?」

 「うーん、どうなんでしょう。
  はっきり言うと私には見通せないのよ、過去の世界だから。
  未来に少し悪い影響が出そうだから、
  対応が必要だそうよ。

  今回は、わがままな異星人を追い返すのが
  ミッションよ。お願いね。」

 「わ、わがままな異星人?
  いやいやいや、まず言葉の壁ってどうなるんですか?
  なんか色々と付き合わされそうで、
  嫌なイメージしかないんですけど。」

 「安心していいわ、過去だけど、
  普通の日本語で大丈夫だそうよ。
  貴方なら大丈夫だと思うわ。」

 「普通の日本語って。って、次の世界って日本なんですね?
  あー、隠れ里のほうに行ってみたいなぁ。」

 「駄目よ。今回はあまり時間がないの、ごめんなさい。
  ウルズ姉様に言わせると貴方なら五秒かからないとの事よ。」

 「いやいや、そんな瞬殺できるような
  内容じゃないと思うんですけど。

  まぁ、とりあえず行ってきますか。
  着いてからミッションプログラム組むよ。
 
  オーダー アクセプト。
  ノルンズ マーセナリー
  セブン出撃する。」

白い靄の中に虹色の輝く魔法陣が浮かび上がった。
同じ虹色の靄を纏ったセブンが底へ吸い込まれていった。

 「いってらっしゃい、セブン。
  わがままなお姫様のお守り、お願いね。」



虹色の靄が薄まっていくと、そこは巨人族も埋もれるくらいの
竹林の中だった。
そよぐ風が心地良さそうな葉の擦れる音を立てている。

 「あれ?
  これって昔の画像で見た京都の嵐山っていう感じだな。
  ずいぶん太い竹もあるんだな。
  ・・・いやいや奥に竹とは思えないものが
  垂直に突き刺さってるんですけど。
  どう見てもロケットなんですけど。

  ハッチ空いてるな?
  生存者は、・・・付近に生命反応なし。
  んっ?電波出てるな。
  同じ内容の繰り返し、遭難信号かな?
  バグドローンで修復できるか確認するかな。

  っと、斜面の下に人の気配があるな。
  結構人がいるな。

  ドローンちゃん、情報収集に出動だ。」

セブンのバックパックからバグドローンが飛び立ってゆく。
ロケット型の宇宙船らしきものは修復できそうなので、
修理部品を錬成で作り出し、飛び立てるように
修理に勤しむバグドローン達であった。

下の方で集まっている人だかりは結構身分の良い人たちなのか、
牛車に乗ってきているようだ。
どうも下にある民家の娘さんの取り合いをしているようだ。

 (娘さんも大変だな。
  私はものじゃないとかなんとか言えばいいのに。)

電脳内に届いた、バグドローンからの映像と音声を確認しながら
セブンはそう思っていた。

 『あら、覗きの趣味がおありなのかしら?
  こちらへいらっしゃいな、不思議な力を使う術士さん。』

不意に電脳内に念話が聞こえてきた。

 「すごい子がいるな。シヴァ様レベルかも
  じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しますよ。」

 『ええ、どうぞ。お待ちしておりますわ。』



賑やかだった人々は静まりかえり、
座敷の奥で鎮座する美しい娘の言葉を待っていた。

 「では、ここにいらっしゃる方々を
  私の伴侶となることを希望される方々として
  お願いしてもよろしいでしょうか?」

 「ああ、なんでもいうが良い。」
 「君を娶れるのであれば、なんでも聞こう。」
 「うむ、その通りだ。」
 「いや、何で俺までここにいるんですかね?
  俺は見に来ただけですけど?」

約一名に異論がありそうだが、
娘は聞き終える前に話し始めていた。

 「では、今から申し上げるものを
  ここへお持ちになられた方の伴侶となりましょう。

  一つは、神龍のウロコを一枚。
  一つは、神狼の爪を一欠片。
  一つは、神気の水を柄杓に一杯。

  期限は来月の満月の夜までと致しましょう。

  それと、何か甘くて美味しいものも所望しますわ。」

聞き終えて絶句する男たち。
なんじゃそれは?どこにあるんじゃ?という疑問が
顔に浮かんでいる。

ただ1人、困った顔をするものがいた。

 (やば、全部あるんだけど。
  
  この前、北の街の神酒をお土産で渡したら
  ウロコで代価とせよって神龍さんがくれてるし、

  巻き爪が痛くなってきたから、切ってくれって、
  フェンリルが頼んできたから切ってやった爪があるし、

  神気の水っていつもの水でいいよな。

  どうするかな。)

目の前では、言ってやった、揃えられるものなら
揃えてみよって顔をして涼しげな目をしている娘の
見るものを虜にする妖しい美貌が輝いていた。
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