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一章
2、純真でいらっしゃるから
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マルティナさまは、私の頬にキスするだけなのになかなか動くことができずにいらっしゃる。
うーん。お小さい頃は、背伸びをしてキスしてくださることもあったのになぁ。一度だけだが。
こちらからキスをするのは簡単だが……やはり、してほしいではないですか。
おっと、今の心の声は口に出していないよな。
私をちらっと見ると、マルティナさまはすぐに視線を外してしまう。そして、もじもじと肩を微かに揺らすのだ。
天井に映った水面の反射が、まるでマルティナさまを彩るようにきらめいている。
そんな風に恥じらうあなただから、私はゆうべは何もできなかったんですよ? お分かりですか?
眠りに落ちてしまったあなたを寝間着に着替えさせて。ベッドに横たえ。
相手が私でなければ、とっくに襲われていますよ?
いや、私は夫だし結婚もしたのだから襲ってもいいのかもしれないが。
きっと多分、絶対、罪悪感が半端ない気がするのだ。
そう、夫婦となってもちゃんと同意は必要だ。うん。
でなければ幼い頃の純真なあなたの姿が脳裏をよぎって、自己嫌悪に陥りそうだ。
「仕方ありませんね。お手伝いしますよ」
「え?」
蒼い目を大きく見開くマルティナさまの背中に手を添える。そしてこちらへ向かって、華奢な背中を押す。
ちゅ、と軽い音がした。
あまりにも柔らかく、菓子のような感覚が左の頬に伝わってくる。あれはなんという菓子だったか、ギモーヴ? マシュマロ? よく知らないが、ふわふわで口に入れたら溶けてしまうアレだ。
マルティナさまの……妻となったあなたの唇が私の頬に触れた。
その事実を認識すると、かぁーっと顔が熱くなった。
自分で、そう仕向けたくせに。
「その、ほっぺ以外にもした方がいい?」
さらにもじもじとしながら、我が妻は可愛らしい言葉を口にした。
何なんですか、その申し出は。
夫となった私以外に、そんな言葉を発しては決してなりませんよ。
ああ、いかん。起きたばかりだというのに頭がくらくらする。
マルティナさまの肩に手を添えたまま頭を抱えたからだろうか。彼女はしきりに私の顔を見上げてくる。その視線に耐え切れなくなりそうだ。
なんだろう、この感覚。
結婚式を挙げたからだろうか。マルティナさまに対する独占欲が半端ないのだが。
私はこんなに欲深い人間だったのか? それとも気づかずにいただけだろうか。
「あのー、お二人ともお目覚めでしょうか。お庭に朝食をご用意しておりますが」
控えめなノックの音と共に、メイドが扉の向こうから声をかけてきた。
起きたのは早朝のはずだったのに、いつのまにか随分と時間が経っている。
「そういえばお腹が空いたわ」
「夕食もとらずに、ぐっすりとお眠りでしたから」
寝室の丸いテーブルには、姫さま……ではなくマルティナさまの分のサンドウィッチが手つかずで残っている。布巾をかけてあるが、もう乾燥していそうだな。
多分、卵を取る為に王宮で飼っている鶏の餌になるのだろう。
◇◇◇
わたし、どれだけ眠っていたのかしら。
ずいぶんとすっきりとした目覚めだったわ。
顔を洗って、着替えを済ませる。結婚したから髪は結い上げた方がいいのだろうけれど。窮屈だから公務以外では今まで通りにおろすことにした。
アレクと寝室は同じだけれど。さすがに素肌を見られるのは恥ずかしいから、衝立の陰で着替える。
あら? そういえばわたし寝間着に着替えた覚えがないのだけれど。
寝ている間にメイドがしてくれたのかしら。
すでに身支度を済ませたアレクを見ると、左の頬に手をやっている。
そして視線が合うと、はっとしたように琥珀色の目を見開いて、すぐに横を向いてしまう。
えぇ、なぁに? どうして目を逸らせるの?
アレクの袖をくいっと引っ張って彼の顔を覗きこむけれど。やっぱり目を合わせてくれない。
「少々お待ちください」
「でももう支度は出来てるでしょ」
「いえ、心の支度というか準備が。こう見えて純情なのですよ」
わ、分からない。どうしちゃったのかしら。
うーん。お小さい頃は、背伸びをしてキスしてくださることもあったのになぁ。一度だけだが。
こちらからキスをするのは簡単だが……やはり、してほしいではないですか。
おっと、今の心の声は口に出していないよな。
私をちらっと見ると、マルティナさまはすぐに視線を外してしまう。そして、もじもじと肩を微かに揺らすのだ。
天井に映った水面の反射が、まるでマルティナさまを彩るようにきらめいている。
そんな風に恥じらうあなただから、私はゆうべは何もできなかったんですよ? お分かりですか?
眠りに落ちてしまったあなたを寝間着に着替えさせて。ベッドに横たえ。
相手が私でなければ、とっくに襲われていますよ?
いや、私は夫だし結婚もしたのだから襲ってもいいのかもしれないが。
きっと多分、絶対、罪悪感が半端ない気がするのだ。
そう、夫婦となってもちゃんと同意は必要だ。うん。
でなければ幼い頃の純真なあなたの姿が脳裏をよぎって、自己嫌悪に陥りそうだ。
「仕方ありませんね。お手伝いしますよ」
「え?」
蒼い目を大きく見開くマルティナさまの背中に手を添える。そしてこちらへ向かって、華奢な背中を押す。
ちゅ、と軽い音がした。
あまりにも柔らかく、菓子のような感覚が左の頬に伝わってくる。あれはなんという菓子だったか、ギモーヴ? マシュマロ? よく知らないが、ふわふわで口に入れたら溶けてしまうアレだ。
マルティナさまの……妻となったあなたの唇が私の頬に触れた。
その事実を認識すると、かぁーっと顔が熱くなった。
自分で、そう仕向けたくせに。
「その、ほっぺ以外にもした方がいい?」
さらにもじもじとしながら、我が妻は可愛らしい言葉を口にした。
何なんですか、その申し出は。
夫となった私以外に、そんな言葉を発しては決してなりませんよ。
ああ、いかん。起きたばかりだというのに頭がくらくらする。
マルティナさまの肩に手を添えたまま頭を抱えたからだろうか。彼女はしきりに私の顔を見上げてくる。その視線に耐え切れなくなりそうだ。
なんだろう、この感覚。
結婚式を挙げたからだろうか。マルティナさまに対する独占欲が半端ないのだが。
私はこんなに欲深い人間だったのか? それとも気づかずにいただけだろうか。
「あのー、お二人ともお目覚めでしょうか。お庭に朝食をご用意しておりますが」
控えめなノックの音と共に、メイドが扉の向こうから声をかけてきた。
起きたのは早朝のはずだったのに、いつのまにか随分と時間が経っている。
「そういえばお腹が空いたわ」
「夕食もとらずに、ぐっすりとお眠りでしたから」
寝室の丸いテーブルには、姫さま……ではなくマルティナさまの分のサンドウィッチが手つかずで残っている。布巾をかけてあるが、もう乾燥していそうだな。
多分、卵を取る為に王宮で飼っている鶏の餌になるのだろう。
◇◇◇
わたし、どれだけ眠っていたのかしら。
ずいぶんとすっきりとした目覚めだったわ。
顔を洗って、着替えを済ませる。結婚したから髪は結い上げた方がいいのだろうけれど。窮屈だから公務以外では今まで通りにおろすことにした。
アレクと寝室は同じだけれど。さすがに素肌を見られるのは恥ずかしいから、衝立の陰で着替える。
あら? そういえばわたし寝間着に着替えた覚えがないのだけれど。
寝ている間にメイドがしてくれたのかしら。
すでに身支度を済ませたアレクを見ると、左の頬に手をやっている。
そして視線が合うと、はっとしたように琥珀色の目を見開いて、すぐに横を向いてしまう。
えぇ、なぁに? どうして目を逸らせるの?
アレクの袖をくいっと引っ張って彼の顔を覗きこむけれど。やっぱり目を合わせてくれない。
「少々お待ちください」
「でももう支度は出来てるでしょ」
「いえ、心の支度というか準備が。こう見えて純情なのですよ」
わ、分からない。どうしちゃったのかしら。
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