【番外編】小さな姫さまは護衛騎士に恋してる

絹乃

文字の大きさ
4 / 17
一章

4、池のほとりで朝食を【2】

しおりを挟む
 トーストにジャムばかりのせて食べていたら叱られちゃうから、わたしは頑張って苦手なベイクドビーンズも燻製のお肉も食べた。
 とろりと黄身がとろける半熟の卵。銀製のトースト・スタンドに挟んであるかりっと焼けた薄いパンを取り、黄身をつけるかジャムを塗るか迷ってしまう。

「クラウドベリーですか。珍しいですね。確か森の宝石と呼ばれているんですよね」
「ええ。お母さまがバートやメイド達と一緒に摘みに行ったらしいの」
「妃殿下とバート殿下がご自分で?」

 わたしはこくりと頷いた。
 お母さまも弟のバートも森に行くのが大好きで、季節のベリーをよく摘んでくる。王室が管理している森だから、手入れもされているし危なくないみたい。

 バート、元気にしているかしら。
 半日しか離れていないけれど、寂しがっていないかしら。泣いていないかしら。

 甘えん坊の弟が、無人のわたしの部屋の扉をノックしているんじゃないかと考えると、寂しさで息が洩れる。
 でも、大丈夫。お茶に招待されているから、午後には会えるんだもの。
 たくさん抱きしめてあげましょう。

 木々の向こうに見える、昨日まで住んでいた主邸を眺めながら、わたしは紅茶をいただいた。
 庭で囀る鳥の声は、バートにも聞こえているはず。遠くないの、大丈夫よ。

「はい、アレクもジャムをどうぞ」
「ではいただきます」

 スプーンを手にとろうとするアレク。でもわたしが先に、銀のスプーンで橙色に半透明なクラウドベリーのジャムをすくった。
 
「はい」
「『はい』って、姫さまっ」

 突然、アレクは辺りに視線を向けた。だから大丈夫だって。見てるのなんて鳥だけよ?

「早くしてくれないと、手がだるくなっちゃう」
「嘘です。そんなに重くありません。それに姫さまはもっと重いものだって持てるはずです。ご自分で椅子を引いたりもなさるじゃないですか」

 むっ。なかなか頑固ね。
 それでもわたしは意地でも手を引かなかった。

◇◇◇

 だからどうしてそんなに「あーんして」が大好きなんですか? 姫さまは。
 ああ、違うな。反対だ。
「あーんして」がお小さい頃から好きだから、長じてロマンス小説が好きになったのだ。
 
「結婚式でアレクも気疲れしたでしょう? クラウドベリーは健康にいいっていうわ。それに美肌になるのよ」
「でしたら、なおさら姫さまが召し上がってください」

 確かに男だって肌は綺麗な方がいい。実際甥っこのエーミルなんて、肌はすべすべだ。

「エーミルのほっぺ、きもちいいー」などと主であるバート殿下に頬を撫でられているのを見かけた時は、さすがに同情した。
 ちなみのその時のエーミルの表情は「無」だった。

――なんでこんなにすべすべなの?
――なぜでしょう? ぼくにも分かりません。
――ぼくもエーミルみたいにすべすべになるー。

 そう仰いながら、なおもバートさまはエーミルの左右の頬を小さい手で挟んでいらした。
 我らの主は、どうにも護衛のことを構いすぎる。

 しかし、今の私はただの護衛ではない。姫さまの夫なのだ。

「姫さま」
「マルティナって呼んで」

 まったく朝から可愛い我儘を仰る。私はマルティナさまの手から、素早くスプーンを奪った。近衛騎士団の副団長として優美な所作は叩きこまれている。
 銀に光るスプーンにのったジャムは、こぼれることがなかった。

「私こそ、愛する妻にジャムを食べさせてあげたいんですよ? その愉しみを奪うおつもりですか?」
「え? ええ?」

 形勢逆転だ。マルティナさまの頬にさっと朱が差した。
 恥ずかしそうに瞼を伏せるその様子が愛らしくて。自分からしたことなのに、私までドキドキしてしまった。

 というか恥ずかしいので、早くこのジャムを召し上がってください。

「あ、あのね。アレクもわたしに『あーんして』って言うの」

 無茶言わんでくださいっ。恥ずかしくて死んでしまいます。
 心の声が口から零れそうになった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。

ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。 ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

【完結】社畜が溺愛スローライフを手に入れるまで

たまこ
恋愛
恋愛にも結婚にも程遠い、アラサー社畜女子が、溺愛×スローライフを手に入れるまでの軌跡。

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

氷の公爵の婚姻試験

潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

処理中です...