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04 帰路
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(そういえば、あの日もこんな打ち上げだったわね)
恭弥と付き合うようになったきっかけをぼんやりと思い出し、氷がとけて水っぽくなったコークハイを口に運ぶ。
あの日佳菜子にべったりだった恭弥だが、今はベロベロに酔っ払い、佳菜子の存在を忘れてしまったのか可愛い女の子たちに囲まれ楽しそうに笑い声をあげている。
そろそろ帰ろうかな、と鞄を手にしたところで、それに気付いた恭弥がフラフラと近寄ってきた。どうやら一応気には留めていたらしい。
「恭ちゃん。ごめんだけど先に帰るね」
「え~! もう帰っちゃうのさみしい……」
いつかのように下から見上げられるのだが、反射的にぱっと顔を逸らした。寂しいと言いながら、恭弥がこの飲みの席で佳菜子の隣にいたのは初めの数分だけ。すぐに別の女の子の傍に腰を下ろしたというのに、よく言えたものだと乾いた笑いが漏れてしまう。
「ね~佳菜ちゃん、ここのお金払ったらさ、手持ちなくなっちゃって……」
「……また?」
「ほんとごめん! 来週バイト代入ったら返すから! 二万でいいから貸してくれない……?」
いや二万て。先月も切実そうに頼んできたから用立てたけれど、それだってまだ返ってきていない。信用値はもはやゼロである。
だが大人として、こんな大勢の目の前で言い争いたくないという気持ちもある。
きゅるんと甘えて見上げてくる恭弥にため息をつき、佳菜子はこっそりと財布からお札を取り出した。
「無駄遣いしちゃだめだからね?」
「ありがとう佳菜ちゃん大好き! あのさ、あの子たちにはファンサービスしてあげてるだけだからね。おれが好きなのは佳菜ちゃんだけだから♡じゃ、気を付けて帰ってね!」
寂しいだなんて言っていたのはどの口か。恭弥は機嫌よく手を振って、佳菜子を見送ることなくすぐに女の子たちのところへ戻っていく。
それを冷めた目で追って、佳菜子はひとり店を後にした。
「は~~~~っ、そろそろ潮時かなぁ」
木曜の夜、都会は人で溢れている。
楽しそうに腕を組み、すれ違っていくカップルたちが眩しい。幸せそうに笑う彼らが羨ましくて、つい目で追ってしまう。初夏とはいえ、夜はまだ少しだけ肌寒い。
ぽつんと、つい立ち止まってしまった佳菜子の背中へ、なにかがぶつかった。
「きゃっ」
「急に止まんな。迷惑だろ」
「あなた……!」
振り返った佳菜子の目に映ったのは、体格の良いカシスレッド。額が見えるように整えられた髪型は、彼の端正な顔立ちを、よりクールに映し出している。
だが相変わらず佳菜子を見下したような綾斗の表情に、面食いの佳菜子とてさすがに苦々しく顔を歪めた。
「なに? もしかしてつけてきてたの? ストーカー? 気持ちわる……」
「あ? 付き合うのは一軒だけって言ってただろうが。あいつらのバカみたいな話、これ以上聞いてられるかよ。俺だって暇じゃないんで。ちょうどいいから送ってやる」
「人の彼氏の悪口言うのやめてもらえます? それにそんなお忙しい方に送ってもらわなくても結構なんですけど」
「はっ、彼氏ねぇ……」
佳菜子の返事を聞いていないのか、綾人は並んで歩き出してしまう。そうしてまた佳菜子を馬鹿にしたように鼻で笑うのだ。
一体、佳菜子のなにが彼をそうさせているのだろう。
「付き合ってるとか思ってんの、おまえだけなんじゃね?」
「っ、そんなわけ、ないでしょ」
今まさに恭弥とのこれからを考えていた佳菜子は、言葉に詰まる。
綾斗の言う通り、恭弥には他に女がいるのだろう。音楽活動だなんて口先だけのお遊びだし、定職にもつかず日中は佳菜子の家でゲームをして、夕方ふらっと出かけ夜遅くに帰ってくる。そんなの、どう考えてもおかしい。
大好きだとか佳菜子だけだとか、佳菜子がいないと生きていけないだなんて白々しい言葉で彼女を縛り、佳菜子の承認欲求をただ満たすだけの存在。けれどもそれに縋り、恭弥を寂しさを埋める相手としか見ていなかった佳菜子だって、いい彼女だとは言えないはずだ。
きっと、恭弥との関係は初めから歪なものだったから。
それでも、佳菜ちゃん、と甘えてくる恭弥には確かに情があって、ずるずるとここまできてしまった。
「確かめてみれば?」
恭弥と付き合うようになったきっかけをぼんやりと思い出し、氷がとけて水っぽくなったコークハイを口に運ぶ。
あの日佳菜子にべったりだった恭弥だが、今はベロベロに酔っ払い、佳菜子の存在を忘れてしまったのか可愛い女の子たちに囲まれ楽しそうに笑い声をあげている。
そろそろ帰ろうかな、と鞄を手にしたところで、それに気付いた恭弥がフラフラと近寄ってきた。どうやら一応気には留めていたらしい。
「恭ちゃん。ごめんだけど先に帰るね」
「え~! もう帰っちゃうのさみしい……」
いつかのように下から見上げられるのだが、反射的にぱっと顔を逸らした。寂しいと言いながら、恭弥がこの飲みの席で佳菜子の隣にいたのは初めの数分だけ。すぐに別の女の子の傍に腰を下ろしたというのに、よく言えたものだと乾いた笑いが漏れてしまう。
「ね~佳菜ちゃん、ここのお金払ったらさ、手持ちなくなっちゃって……」
「……また?」
「ほんとごめん! 来週バイト代入ったら返すから! 二万でいいから貸してくれない……?」
いや二万て。先月も切実そうに頼んできたから用立てたけれど、それだってまだ返ってきていない。信用値はもはやゼロである。
だが大人として、こんな大勢の目の前で言い争いたくないという気持ちもある。
きゅるんと甘えて見上げてくる恭弥にため息をつき、佳菜子はこっそりと財布からお札を取り出した。
「無駄遣いしちゃだめだからね?」
「ありがとう佳菜ちゃん大好き! あのさ、あの子たちにはファンサービスしてあげてるだけだからね。おれが好きなのは佳菜ちゃんだけだから♡じゃ、気を付けて帰ってね!」
寂しいだなんて言っていたのはどの口か。恭弥は機嫌よく手を振って、佳菜子を見送ることなくすぐに女の子たちのところへ戻っていく。
それを冷めた目で追って、佳菜子はひとり店を後にした。
「は~~~~っ、そろそろ潮時かなぁ」
木曜の夜、都会は人で溢れている。
楽しそうに腕を組み、すれ違っていくカップルたちが眩しい。幸せそうに笑う彼らが羨ましくて、つい目で追ってしまう。初夏とはいえ、夜はまだ少しだけ肌寒い。
ぽつんと、つい立ち止まってしまった佳菜子の背中へ、なにかがぶつかった。
「きゃっ」
「急に止まんな。迷惑だろ」
「あなた……!」
振り返った佳菜子の目に映ったのは、体格の良いカシスレッド。額が見えるように整えられた髪型は、彼の端正な顔立ちを、よりクールに映し出している。
だが相変わらず佳菜子を見下したような綾斗の表情に、面食いの佳菜子とてさすがに苦々しく顔を歪めた。
「なに? もしかしてつけてきてたの? ストーカー? 気持ちわる……」
「あ? 付き合うのは一軒だけって言ってただろうが。あいつらのバカみたいな話、これ以上聞いてられるかよ。俺だって暇じゃないんで。ちょうどいいから送ってやる」
「人の彼氏の悪口言うのやめてもらえます? それにそんなお忙しい方に送ってもらわなくても結構なんですけど」
「はっ、彼氏ねぇ……」
佳菜子の返事を聞いていないのか、綾人は並んで歩き出してしまう。そうしてまた佳菜子を馬鹿にしたように鼻で笑うのだ。
一体、佳菜子のなにが彼をそうさせているのだろう。
「付き合ってるとか思ってんの、おまえだけなんじゃね?」
「っ、そんなわけ、ないでしょ」
今まさに恭弥とのこれからを考えていた佳菜子は、言葉に詰まる。
綾斗の言う通り、恭弥には他に女がいるのだろう。音楽活動だなんて口先だけのお遊びだし、定職にもつかず日中は佳菜子の家でゲームをして、夕方ふらっと出かけ夜遅くに帰ってくる。そんなの、どう考えてもおかしい。
大好きだとか佳菜子だけだとか、佳菜子がいないと生きていけないだなんて白々しい言葉で彼女を縛り、佳菜子の承認欲求をただ満たすだけの存在。けれどもそれに縋り、恭弥を寂しさを埋める相手としか見ていなかった佳菜子だって、いい彼女だとは言えないはずだ。
きっと、恭弥との関係は初めから歪なものだったから。
それでも、佳菜ちゃん、と甘えてくる恭弥には確かに情があって、ずるずるとここまできてしまった。
「確かめてみれば?」
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