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【挿絵あり】番外編 うれしはずかし夏休み
03 馬車
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◇
「馬で走った方が早くないっすかぁ……?」
大きな体を窮屈そうに馬車に押し込めて、ヒルデガルドの隣に座るベイルがそう零したのは、もう五回目だ。
「馬車で二日かかるのよ。それを馬でなんて、わたくしの体力が持つわけないでしょうが。それにまだ三十分も走ってないのだけれど」
「三十分も走ってないのにもう身体がバッキバキなんですって! 姫さんはそのままでいいんで、俺だけ馬ぁ乗ってきていいですか」
「いいわけないでしょう! こちとら道中もいちゃいちゃしちゃお♡なんて煩悩まみれでやってんのよ!」
「やってるってなんすか怖い!」
貞操の危機を感じたのか、ベイルが逃げ腰になる。
だが、彼の言い分ももっともだ。大きな馬車を用意したが、それでも巨漢のベイルにとっては居心地はよくないだろう。
どうしたものかと考えていると、隣に座っているベイルがヒルデガルドの耳に口を寄せてきた。
「なぁ姫さん、俺があんたを乗せてやりますよ。馬上なら、今よりもっと密着して宿まで向かえるな? しかも、予定よりもずっと早く着く」
腰に回した腕で、グッと力強く引き寄せられた。そして彼の大きな手がいやらしく下腹を撫で、ヒルデガルドの身体がずくりと疼いてしまう。
「…………あなた、そんなことを言えばわたくしが頷くとでも思っているの?」
「違いました?」
にやり、ベイルは悪い笑みを浮かべる。どうやら彼も、少しずつ婚約者に毒されてきたらしい。
だが心外である。気高き王女殿下に向かって、なんたる言い草。馬鹿にしているのかこの男は。
ここはきっちり王族の威厳というものを示しておく必要がある。
「ちょっと! 至急馬を用意して! 二人乗り用の鞍もよ!」
ヒルデガルドは御者への連絡窓を殴るように叩き、大声で叫んだ。
「馬で走った方が早くないっすかぁ……?」
大きな体を窮屈そうに馬車に押し込めて、ヒルデガルドの隣に座るベイルがそう零したのは、もう五回目だ。
「馬車で二日かかるのよ。それを馬でなんて、わたくしの体力が持つわけないでしょうが。それにまだ三十分も走ってないのだけれど」
「三十分も走ってないのにもう身体がバッキバキなんですって! 姫さんはそのままでいいんで、俺だけ馬ぁ乗ってきていいですか」
「いいわけないでしょう! こちとら道中もいちゃいちゃしちゃお♡なんて煩悩まみれでやってんのよ!」
「やってるってなんすか怖い!」
貞操の危機を感じたのか、ベイルが逃げ腰になる。
だが、彼の言い分ももっともだ。大きな馬車を用意したが、それでも巨漢のベイルにとっては居心地はよくないだろう。
どうしたものかと考えていると、隣に座っているベイルがヒルデガルドの耳に口を寄せてきた。
「なぁ姫さん、俺があんたを乗せてやりますよ。馬上なら、今よりもっと密着して宿まで向かえるな? しかも、予定よりもずっと早く着く」
腰に回した腕で、グッと力強く引き寄せられた。そして彼の大きな手がいやらしく下腹を撫で、ヒルデガルドの身体がずくりと疼いてしまう。
「…………あなた、そんなことを言えばわたくしが頷くとでも思っているの?」
「違いました?」
にやり、ベイルは悪い笑みを浮かべる。どうやら彼も、少しずつ婚約者に毒されてきたらしい。
だが心外である。気高き王女殿下に向かって、なんたる言い草。馬鹿にしているのかこの男は。
ここはきっちり王族の威厳というものを示しておく必要がある。
「ちょっと! 至急馬を用意して! 二人乗り用の鞍もよ!」
ヒルデガルドは御者への連絡窓を殴るように叩き、大声で叫んだ。
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