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【挿絵あり】番外編 うれしはずかし夏休み
05 ビーチパラソル
しおりを挟む「はっ! そろそろ用意しないと、ここって今時分でも陽が落ちると冷えますよね?! 遊ぶ時間なくなっちまう!」
「???? ちょっと???? 今完全に押し倒される気満々だったんですけど???? どうしてくれるのよこの行き場のない気持ち!!!!」
「姫さんの水着どれです? 侍女呼びます? いや、これくらいひとりでできるのか?」
「ちょっと聞いてないふりやめなさいよ! 水着くらいひとりで着替えられるわ!」
「んじゃバスルームどーぞ。俺ぁここでぱっと着替えるんで。覗かないでね」
「ガン見するに決まってんでしょ早く脱ぎなさいよ今すぐ」
なぜだかやらしい雰囲気を霧散させ、ベイルは荷物を漁っている。
だがたしかに、今日みたいな絶好の水遊び日和を捨てるのも勿体ない。と、いうよりも。
「…………あなた、なんだかわたくしよりも楽しみにしていない?」
「えっ?!」
着替えを済ませ部屋に戻ったところで、明らかにソワソワと落ち着かない様子のベイルにじっとりと目を向ける。
ゆったりとした黒色の水着に、白に差し色の青が入ったパーカーというベイルの出で立ちは、はっきりと言って眼福である。窮屈なのを嫌うベイルだから前ははだけていて、ちらちらと覗く浅黒い肌が、何も着ていないよりも却っていやらしい。
彼のこんな姿を見たいという姫様の煩悩が、今回この離宮を選んだと言っても過言ではない。の、だが。
パラソルらしき物を肩に担ぎ、今すぐにでも駆けだしてしまいそうな少年のようなベイルを、さすがの姫様も想像してはいなかった。
「だって討伐中に水浴びとかはありましたけどね? ありゃ遊ぶってより風呂代わりだし。こんな暑い日にキレーな水ん中飛び込めるとか最高じゃないですか?」
「ふ……っ」
思わず笑いが漏れた。
ここに着くまでは、さすがに拒否まではいかないだろうが「もうそんなはしゃぐ歳でもないんで」なんて言われても仕方ないと思っていた。
それがまさかヒルデガルドよりも乗り気だったとは。気合を入れて布面積の少なめな水着を選んだかいがあるというものだ。
「ねぇ、べつにそれ持っていかなくても、湖畔に大きな四阿があるわよ」
「わかってないっすね、こういうのは雰囲気を楽しむもんでもあるんですって。ともかく行きましょう。俺が夏の楽しみってやつを教えてやりますよ」
屈託のない笑みを向けられて、ヒルデガルドもつられて笑う。まだ始まったばかりだというのに、この夏のバカンスはすでに過去最高の楽しさを更新し続けている。
ベイルの空いた方の腕に抱きつくと、自慢の大きな胸がひしゃげて形を変える。もちろんわざとなのだが、鼻歌でも歌い出しそうにご機嫌なベイルには効いていない。どうなってんだ。
「ね、愛する婚約者がこんなにも煽情的な水着を着ているのよ。感想とかなにもないわけ?」
大きな胸と、艶めかしい身体のラインを強調するセクシーなビキニスタイル。露出した腰には足首まであるパレオを巻いてはいるが、透けた布は何を隠すでもなく、ローライズのボトムスが丸見えである。
なによりトップスのフロント部分を編み上げにして、谷間を大きく見せるタイプのこの青色の水着は、とことんベイル好みになっているはずだ。
「いや、めちゃくちゃ似合ってますよ、すっごい俺好みで怖いんですけど。てかいつも本気で疑問なんですけど、どうやって調べてんですか」
「相手を調べつくすのは兵法の基本よ」
「あんた俺の息の根を止めようとしてたんすか」
胸上のストラップと肌の間に細い指を滑り込ませ、パチン、と弾く。夜を思わせるその仕草に、ベイルの碧眼が細められた。
「……次部屋に戻ってくるまで、この身体が無事だといいですね」
耳元でそんな風に低く囁かれ、またお臍の奥が熱くなってしまった。
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