赤い瞳を持つ私は不吉と言われ、姉の代わりに冷酷無情な若当主へ嫁ぐことになりました

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
8 / 41
赤い目と黒い瞳

第8話 雪女

しおりを挟む
 今は雅様と廊下を歩いている。
 少し、屋敷の周りを散歩することになりました。

 屋敷の裏に出るとそこには池があり、覗くと鯉が優雅に泳いでいた。

「わぁ、綺麗」
「落ちるぞ」

 池を覗いていると、腰に腕を回され引き戻される。

「す、すいません」
「構わん」

 すぐに池から離されてしまった。
 背中を向け、雅様が私の手を引き歩き出す。

 …………雅様、歩くの早い。
 私は雅様と比べると足が短いから、どうしても早歩きになってしまう。

「…………」
「あっ、す、すいません」

 雅様が振り向いた。
 私が遅れているのに気づいてしまったみたい。

「歩くの早かったか、すまない」
「い、いえ。私の方こそ申し訳ありません……」

 謝罪したあと、すぐに歩き出す。
 あっ、歩く速度、私に合わせてくれている。

「あ、あの、ありがとうございます」
「…………おい、美月」
「は、はい」
「いつになれば敬語を外してくれるんだ?」

 ……………………はぃ!?

「い、いえ、あ、あの。雅様は、不吉であると言われ続けた私を迎え入れてくださった方。尊敬し、敬うべ方なので、その、話方までは……」

 慌てて言うと、雅様はなぜか眉を下げ、落ち込んでしまった。
 わ、私は何か間違えてしまったのでしょうか。

「……まぁ、焦るのは良くない。気長に待とう」
「は、はい。ありがとうございます……?」

 雅様が何を言いたいのかわからなかった。
 なんで私はこうも、人間関係を築くのが苦手なのでしょうか。

 いえ、わかっています。
 今まで人と接する時間がなかったのが、苦手の理由でしょう。

 でも、そうなってしまったのは、私の赤い目のせい。
 この目が無ければ、普通に暮らせていたかもしれない。

 ここまで雅様にも迷惑をかけなかったかもしれない。
 そう思うと、やはり雅様には申し訳ないです。

 父のお願いを快く受け入れて下さり、私にも気遣ってくださる優しい方。

 雅様は本来、私なんかをお選びにならなくても、女性は選り取り見取りのはず。
 父が私についてを鬼神家に話してしまったから、雅様は道を閉ざされてしまった。

 もっと、他に沢山、素敵な女性はいるのに……。

 雅様について行くと、風が頬を撫でる。
 考え事をしていたら、いつの間に森の中に入っていた。

 屋敷の裏は、森になっていたんだ。
 獣道ではなく、しっかりと整備されているから歩きやすく、迷わないように木にカラフルな布が結ばれていた。

「転ばぬよう気を付けるのだぞ」
「は、はい」

 一体、どこに向かっているのだろう。
 何も言わずに付いて行くと、徐々に道が開けてきました。

「――――っ!」

 今まで木が太陽の光を遮っていたから薄暗かったけれど、抜けると急に強い光に包まれた。
 咄嗟に目を閉じると、雅様が足を止めた。

「ここが、俺様のお気に入りの場所なのだ。美月にも気に入ってもらえると嬉しい」

 目を開けると、そこに広がるのは自然豊かな景色。
 広い青空に浮かぶ、私達を照らす太陽。少し下を向くと、崖の下にも森が広がっており、緑のじゅうたんが敷かれているように見えた。

「あまり奥に行き過ぎるなよ」
「は、はい」

 綺麗。空気も澄んでいて、心地よい。
 風も、肌を優しく撫で、余分なすべてを洗い流してくれる。

 こんな綺麗な場所があったなんて、知らなかった。
 ずっと見ていられる。

「――――出てこい、雪女」

 雅様が呟くと、同時に懐に手を入れる。
 一枚の長方形の紙を出すと、前方に投げた。

 光り出したかと思うと、冷気が紙を包み込む。少し待つと、人型のシルエットが見えてきた。
 待っていると冷気は晴れ、中から綺麗な女性が姿を現した。

 空色の艶のある足元まで長い髪、白い着物に水色の帯。
 色白の肌に浮かぶのは――赤い目だ。

「こいつは俺様の式神、雪女。すぐにでも紹介したかったんだが、時間が取れなかった」

 雅様が紹介していると、雪女さんが私へと近づいた。

『初めまして、美月様。私は、雅様を主とする雪女。貴方についても、必ずお守りいたします』

 頭に直接届くような声。
 鈴のように透き通り、心地よい。

 細められた赤い目には、私の困惑の表情が浮かぶ。

「同じ目の色で驚いたか」
「は、はい。あの、これって……」
「安心しろ。こいつの赤い瞳は本当に偶然だ。だが、これでわかっただろう。赤い瞳だからと言って、不吉なわけではない。俺様は、こいつに何度も何度も救われた。命を守ってもらった。そんな奴が、不吉であるものか」

 雅様の声に、微かな怒気を感じる。

『主』
「あぁ、すまない」

 なんだろう。お二人には、見えない繋がりがあるように感じる。
 いや、本当に繋がっているんだ。絆以上の、なにかで。

 式神だから、ではない。
 式神以上の信頼を、感じる。

 ――――そうか、赤い目により私が閉じ込められていたこと。赤い目を悪く言われたこと。それに対しての、怒りなんだ。

 今まで共に困難を乗り越えてきた雪女さんも、赤い目。
 もしかしたら、雪女さんを馬鹿にされたような感覚になったのかもしれない。

「美月」
「はい」
「赤い瞳も、存外悪く無いぞ」

 口元に浮かぶ、微かな笑み。
 それは、雪女さんも同じ。

 私が赤いに悲観していたから、わざわざ見せてくれたのかな。

 やっぱり、雅様は冷酷無情な人なんかじゃない。
 誰よりも心優しく、誰よりも温かい。そんな、素敵な方だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】 ミシェラは生贄として育てられている。 彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。 生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。 繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。 そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。 生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。 ハッピーエンドです! ※※※ 他サイト様にものせてます

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

追放された令嬢ですが、隣国公爵と白い結婚したら溺愛が止まりませんでした ~元婚約者? 今さら返り咲きは無理ですわ~

ふわふわ
恋愛
婚約破棄――そして追放。 完璧すぎると嘲られ、役立たず呼ばわりされた令嬢エテルナは、 家族にも見放され、王国を追われるように国境へと辿り着く。 そこで彼女を救ったのは、隣国の若き公爵アイオン。 「君を保護する名目が必要だ。干渉しない“白い結婚”をしよう」 契約だけの夫婦のはずだった。 お互いに心を乱さず、ただ穏やかに日々を過ごす――はずだったのに。 静かで優しさを隠した公爵。 無能と決めつけられていたエテルナに眠る、古代聖女の力。 二人の距離は、ゆっくり、けれど確実に近づき始める。 しかしその噂は王国へ戻り、 「エテルナを取り戻せ」という王太子の暴走が始まった。 「彼女はもうこちらの人間だ。二度と渡さない」 契約結婚は終わりを告げ、 守りたい想いはやがて恋に変わる──。 追放令嬢×隣国公爵×白い結婚から溺愛へ。 そして元婚約者ざまぁまで爽快に描く、 “追い出された令嬢が真の幸せを掴む物語”が、いま始まる。 ---

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

処理中です...