翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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初夏

アリの行列

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 なぜか静華は今、翔と奏多と共に外を歩いていた。

 今は夏の真っ昼間。
 太陽が頭上まで昇り、日差しが地面を照らす。

 暑い土の上に立っている静華は、汗を流しながら歩いていた。

 白いノースリーブのスカートに、麦わら帽子。
 奏多は、膝くらいまでの短パンに、サンダル。Tシャツと軽装。

 一人で元気に虫を追いかけている翔は、短パンにTシャツ、麦わら帽子という格好をしていた。

 三人がいるのは、静華の実家を出て直ぐの田舎道。
 片方は田んぼ、もう片方は森。

 虫の音、田んぼを植えている人達の声。
 耳に優しく、心洗われるような道。

 そんな、心地よいはずの道を歩いている静華は、汗を拭きげんなりとしていた。

 ――――お散歩と言われ、奏多と共に翔君についてきたけど、ただ暑いだけじゃん……。

 都会みたいに、沢山のお店があるわけではない。
 ゲーセンやパチンコ屋があるわけでもない。

 周りを見回しても田んぼしかなく、景色も同じ。
 こんな、何も変わり映えしない道を歩いていたところで意味なんてない。

 ――――そういえば、都会に出る前はこの道を毎日歩いていたっけなぁ。

 周りを見回し、汗を流しながら頭の奥にしまいこんでいた記憶を呼び起こす。

 ずっと一人、本を読んで過ごしていた学生時代。
 いい思い出があるわけでは無いため、すぐにかぶりを振り、前を歩く翔を見た。

 ――――暑いし、疲れた。でも、翔君は楽しそうだし、帰ろうなんて、言えないなぁ。

 楽しげに虫を追いかけたり、自然の音を楽しんでいる翔を目にし、静華はため息を漏らす。

 そんな時、隣を歩いていた奏多が横目で声をかけた。

「静華、大丈夫か?」

「え、なんで?」

「顔色が、帰ってきた時からあまり良くないから。こんな直射日光、体には毒だし。もし、辛かったら帰ってもいいんだぞ?」

 辛そうにしている静華の顔を覗き込み、奏多は純粋に問いかけた。

「…………ありがとう。でも、大丈夫だよ」

 できる限り笑顔で返すが、奏多の表情は晴れない。
 すぐに顔をそらし、逃げるように地面にしゃがんでいる翔の元へと駆け寄った。

「翔君、なにを見ているの?」

「これ!!」

 翔が指さした先には、アリの行列が作られていた。
 せっせかせっせかと、餌を運んでいる。

「あぁ、女王アリに餌を運んでいるんだね」

「じょうおうあり?」

「アリの中の女王様だよ。一番大きくて、かっこいいらしいよ」

 できる限りわかりやすく伝えると、翔は目を輝かせ、「かっこいい!!」と興奮し始めた。

「かっこいい、かっこいいアリさんが、この先にいる!! 行くよ!!」

「え、行く? ちょっ、翔君!? 走ると危ないよ!?」

 いきなりアリの行列を追いかけるように走り出した翔を追いかけるため、走り出す。
 奏多も後れを取らないように駆け出し、二人を追いかけた。


 走り出してから数秒後、すぐにアリの巣へ繋がる穴を発見し、翔は立ち止った。
 静華と奏多も立ち止まり、翔が見つめるアリを腰を折り見下ろした。

 自分より大きな虫の死骸を頑張って運び、穴の中に入る。
 それは一つだけではなく、様々な所から運んでいた。

 ――――アリを追いかけて、眺めて……って。何が楽しいんだろう。

 苦笑いを浮かべながら見ていると、翔が何を思ったのか。
 アリの行列を邪魔するように、近くに置かれていた拳ぐらいの石を持ち、置いた。

 すると、アリは石を避けるように迂回し、穴へと入る。
 それを見て、翔は目を輝かせ、興奮気味に奏多を見上げた。

「すげ!! アリ、避けた!!」

「そうだな、今度はそう簡単に避けられない物を準備するといいぞ」

 ニコッと翔に笑いかけると、大きく頷いた。
 すぐに周りを見回し、何かちょうど良い物がないか探す。

 すると、先ほどより大きな石を発見。
 すぐに駆け出し、石を両手で持ち、先ほどと同じようにアリの行列を邪魔するように置いた。

 今度は迂回することはなく、石を登り乗り越える。
 それを見て、またしても奏多を見上げ「すげぇ、すげぇ!」と興奮の声を上げた。

 奏多も頭を撫でてあげ「すごいな」と返していた。
 静華からはなにがすごいのか、なにが面白いのかわからない。

 二人が何をしたいのかわからず、肩をすくめため息を吐く。

 ――――こんなことをしていていいのかな。何もできない出来損ないが、こんなところで油を売っていてもいいのだろうか。

 気ばかり焦ってしまい、自分がこんなことしていていいのか自問自答を繰り返す。

 顔を俯かせ動かなくなった静華に二人は、顔を見合わせ近づいた。

「お姉ちゃん、痛い?」

「やっぱり、どこか悪いんじゃないか? 大丈夫か?」

 二人が心配の声をかけると、静華はハッとなりかぶりを振る。

「なんでもないよ!」

 笑顔で誤魔化すが、二人は納得しない。
 翔は首を傾げ、静華の手を掴んだ。

「おねえちゃん、アリ! すごいよ!!」

「え、う、うん。すごい、ね?」

 改めて言われても、静華はわからない。
 それでも手を引かれ、アリの行列へと連れていかれてしまった。
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