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佐々木美鈴
第十五話 導き
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一人、森林公園へと向かっている美鈴は、息を切らし進入禁止のテープが張られている公園を見ていた。
もう、周りは暗く、夜になっている。
そのため、周りには誰もおらず、中に入ったところで誰にも気づかれない。
美鈴の瞳が光る。
息を切らしながら、奥の公衆トイレを見た。
テープを跨ぎ、中へと入る。
緊張のせいか、それとも疲れているからか。
息が今以上に荒くなる。
公衆トイレに行き、道がない林を迷うことなく進む。
暗く、方向感覚を失いそうになってしまう。
それでも、美鈴の足は止まらない。
一歩一歩、着実に前へと進む。
まるで、道はもうすべて、わかっているかのよう。
光は、木々の隙間から洩れる月光のみ。
足元が見えず、何度か転びそうになる。
今は、赤く汚れたジャージ姿なため、前回のように肌が切れることはない。
転ばないように気を付けて歩き進めていると、やっと拓かれた場所へと辿り着いた。
そこには、見覚えのある古い小屋がある。
息を切らし近づく。月光に照らされているからなのか、小屋に光が降り注ぎ、幻想的な世界が広がっているように感じた。
ここまで来て、美鈴の表情が変わる。
目を開き、小屋を焦ったように見上げた。
瞳にはハイライトが戻り、冷や汗が頬を伝い、顎から地面へとにじみ落ちる。
小屋に近付かないでいると、ギギギッと、ひとりでに扉が開く。
ビクッと肩を上げ怯えていると、ひょっこりと銀髪の子供が顔を覗かせた。
銀髪は月光に照らされキラキラと輝き、漆黒の大きな瞳が真っすぐ美鈴を見た。
子供特有のプニプニとした頬が月光を反射し、ほのかに光る。
「――――入らないのかい?」
「っ、え?」
鈴の音が鳴るような澄んだ声で誘《いざな》われ、美鈴は眉を顰めた。
行ってもいいのか悩んでいると、後ろから急に人の気配を感じた。
瞬時に振り向くと、視界に入ったのは、深緑色の着物。
驚きすぎて固まっていると、上から男性にしては高い声が降り注ぐ。
「ほれほれ、人間よ。迷いがあるのなら、入りなさい。迷うことはない。人間が望めば、答えてくれる者が待っている」
上を見ると、顔に狐面を付けた銀髪の男性が、美鈴を見下ろしていた。
妖しい人に言われ、ほいほいと小屋の中に入るわけにはいかない。
しかも、ここは事件が起きた公園の奥にある小屋。
誘拐が頭を過り、逃げようとするが、肩を掴まれてしまい逃げられない。
怖すぎて涙が出そうになると、子供が顔を覗かせていたドアがギギギッと音を鳴らし開いた。
再度小屋へと顔を向けると、見覚えのある青年が少年の隣に立っていた。
「怖がっているではありませんか、狐さん。おやめください」
「酷いのぉ~」
ドアから出てきた青年、筐鍵明人が微笑みを浮かべながらいうと、狐面の男性は両手を上げ一歩後ろに下がった。
こんなに妖しい人を一言だけで下がらせた。
関係性や立場などが気になり始めるが、明人が美鈴へと近づいたことでそれどころではなくなった。
「あ、貴方は……」
「お悩みがあるのでしたら、お聞きしますよ」
手を差し出されるが、素直にとれない。
おずおずと明人を見上げた。
「で、でも、願いを叶えることは、出来ないんじゃ……」
前回、願いが叶うという噂の元で小屋に来た時は、断られてしまった。
それなのに、今回は話を聞く? と、疑問を抱く。
「確かに、私は人の願いを叶えられません。ですが、貴方の悩みを聞くことはできますよ」
美鈴を安心させるように明人は少しだけ腰を折り、目を合わせた。
明人の見えている右の瞳を、美鈴は疑うように見つめ返す。
「――――貴方の知人や、家族に悩みを打ち明けられないのなら、ここは赤の他人に話す。口から吐き出した方が、少しはすっきりしますよ」
ニコッと微笑みを浮かべる明人に、美鈴の頬が薄く染まる。
緊張と恐怖で上がっていた肩は下がり、力が抜けた。
「では、中に入りましょう」
手を引かれ、小屋の中へと連れて行かれる。
その手は優しく、逃げようと思えば、逃げられた。
けれど、美鈴はその手の感触と、温もりに縋るように繋いだまま、小屋の中へと入った。
二人が入り、続いて少年と狐面の男も小屋へと入ろうとしたが、子供のジト目が明人へと注がれる。
「…………なんでだ」
「人間には、人間ということだぞ、カクリ」
なんとも言えない顔を浮かべている子供、カクリは深い溜息をついた。
そんなカクリを狐面越しに見て、青年、レーツェルはクスクスと笑った。
もう、周りは暗く、夜になっている。
そのため、周りには誰もおらず、中に入ったところで誰にも気づかれない。
美鈴の瞳が光る。
息を切らしながら、奥の公衆トイレを見た。
テープを跨ぎ、中へと入る。
緊張のせいか、それとも疲れているからか。
息が今以上に荒くなる。
公衆トイレに行き、道がない林を迷うことなく進む。
暗く、方向感覚を失いそうになってしまう。
それでも、美鈴の足は止まらない。
一歩一歩、着実に前へと進む。
まるで、道はもうすべて、わかっているかのよう。
光は、木々の隙間から洩れる月光のみ。
足元が見えず、何度か転びそうになる。
今は、赤く汚れたジャージ姿なため、前回のように肌が切れることはない。
転ばないように気を付けて歩き進めていると、やっと拓かれた場所へと辿り着いた。
そこには、見覚えのある古い小屋がある。
息を切らし近づく。月光に照らされているからなのか、小屋に光が降り注ぎ、幻想的な世界が広がっているように感じた。
ここまで来て、美鈴の表情が変わる。
目を開き、小屋を焦ったように見上げた。
瞳にはハイライトが戻り、冷や汗が頬を伝い、顎から地面へとにじみ落ちる。
小屋に近付かないでいると、ギギギッと、ひとりでに扉が開く。
ビクッと肩を上げ怯えていると、ひょっこりと銀髪の子供が顔を覗かせた。
銀髪は月光に照らされキラキラと輝き、漆黒の大きな瞳が真っすぐ美鈴を見た。
子供特有のプニプニとした頬が月光を反射し、ほのかに光る。
「――――入らないのかい?」
「っ、え?」
鈴の音が鳴るような澄んだ声で誘《いざな》われ、美鈴は眉を顰めた。
行ってもいいのか悩んでいると、後ろから急に人の気配を感じた。
瞬時に振り向くと、視界に入ったのは、深緑色の着物。
驚きすぎて固まっていると、上から男性にしては高い声が降り注ぐ。
「ほれほれ、人間よ。迷いがあるのなら、入りなさい。迷うことはない。人間が望めば、答えてくれる者が待っている」
上を見ると、顔に狐面を付けた銀髪の男性が、美鈴を見下ろしていた。
妖しい人に言われ、ほいほいと小屋の中に入るわけにはいかない。
しかも、ここは事件が起きた公園の奥にある小屋。
誘拐が頭を過り、逃げようとするが、肩を掴まれてしまい逃げられない。
怖すぎて涙が出そうになると、子供が顔を覗かせていたドアがギギギッと音を鳴らし開いた。
再度小屋へと顔を向けると、見覚えのある青年が少年の隣に立っていた。
「怖がっているではありませんか、狐さん。おやめください」
「酷いのぉ~」
ドアから出てきた青年、筐鍵明人が微笑みを浮かべながらいうと、狐面の男性は両手を上げ一歩後ろに下がった。
こんなに妖しい人を一言だけで下がらせた。
関係性や立場などが気になり始めるが、明人が美鈴へと近づいたことでそれどころではなくなった。
「あ、貴方は……」
「お悩みがあるのでしたら、お聞きしますよ」
手を差し出されるが、素直にとれない。
おずおずと明人を見上げた。
「で、でも、願いを叶えることは、出来ないんじゃ……」
前回、願いが叶うという噂の元で小屋に来た時は、断られてしまった。
それなのに、今回は話を聞く? と、疑問を抱く。
「確かに、私は人の願いを叶えられません。ですが、貴方の悩みを聞くことはできますよ」
美鈴を安心させるように明人は少しだけ腰を折り、目を合わせた。
明人の見えている右の瞳を、美鈴は疑うように見つめ返す。
「――――貴方の知人や、家族に悩みを打ち明けられないのなら、ここは赤の他人に話す。口から吐き出した方が、少しはすっきりしますよ」
ニコッと微笑みを浮かべる明人に、美鈴の頬が薄く染まる。
緊張と恐怖で上がっていた肩は下がり、力が抜けた。
「では、中に入りましょう」
手を引かれ、小屋の中へと連れて行かれる。
その手は優しく、逃げようと思えば、逃げられた。
けれど、美鈴はその手の感触と、温もりに縋るように繋いだまま、小屋の中へと入った。
二人が入り、続いて少年と狐面の男も小屋へと入ろうとしたが、子供のジト目が明人へと注がれる。
「…………なんでだ」
「人間には、人間ということだぞ、カクリ」
なんとも言えない顔を浮かべている子供、カクリは深い溜息をついた。
そんなカクリを狐面越しに見て、青年、レーツェルはクスクスと笑った。
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