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最終決戦
期待と可能性
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「なにか話していたみたいだけど、意味はないよ。俺ももう怒ったからね。絡新婦、殺せ」
『ぐっ、はい。あ、るじの、仰せのままに』
苦しげに体をよじらせていた絡新婦は、静稀に指示を出され答える。徐々に多く送り込まれた法力に体が馴染み、体を起こした。
ゆっくりと体を起こした絡新婦。下を向いていた顔を、夏楓に向けるため、顔を上げた。
刹那、その場にいた三人は顔を凍らせる。
「顔が、蜘蛛に…………」
絡新婦の顔は、先ほどまでの美しい女性の顔ではなく、土蜘蛛のような。昆虫のようになっていた。
目は八つに増え、口の端には牙。頭には触覚のようなものが生えていた。
顔だけ、虫の蜘蛛のようになっており、夏楓は顔を青くし小さな声で「おえっ」と素直な声をこぼしてしまった。
『あれが、絡新婦の本来の姿なのでしょう』
「かと思います。確か、絡新婦は美しい女性に姿を変えられるだけで、実際は土蜘蛛と同じく昆虫の姿だったはず」
二人は絡新婦の動きを見ているが、本人は声にならない声を出しており、体もガタガタと震わせている。まだ体が馴染み切っていないのか、うまく体を扱えていない。
今なら……と、夏楓は氷柱女房を横目で見る。だが、首を横に振られてしまった。
『何が待っているのかわからない以上、迂闊に動かない方がいいです。すぐに反応ができません』
「確かにそうですね。…………どんどん音が近づいているような気が……。何この音……なんか、波の音のような…………」
絡新婦の後ろから、波の音が近づいてきている。目を閉じ、その音に集中するの、波の音だと気づいた。
「どこからこの音が…………? ──っ、氷柱女房!! 地面をすべてこおらせっ――……」
「もう、遅いよ」
ねっとりとした笑顔を浮かべ、静稀が言い放つ。刹那、夏楓と紅音の踏みしめている地面が急に崩れ始めた。
「うそっ!??」
「なにっ!?」
地面が崩れると、下に隠されていたのは荒れている川。波が激しくたっており、溺れると這い上がるのは無理そうに見える川。
空中に投げ出された二人は、何も掴むことができずそのまま川へと落ちてしまう。
「っ、氷柱女房!! 川を凍らせて!」
咄嗟に指示を出した夏楓の声にすぐさま反応。冷たい息を吐き出し、波打っている川すべてを凍らせた。
氷に落ちた二人は無事、だが体を打ち付けてしまったため、腰をさすりながら立っていた。
「ちっ、氷に水はダメだったか。まぁ、いいかな。その氷も、長くは続かない」
静稀の言う通り、氷が音を立て崩れそうになっていた。
二人はすぐに立ち上がり上を向くが、手が届かず這い上がることは出来そうにない。
上では氷柱女房が動き出した絡新婦の相手をしているため、二人を上に連れていくことも出来ない。
「紅音、まだ法力には余裕はありますか?」
「わからない。だが、体力はぜんぜん問題ない。大丈夫だ」
「でしたら、ひとまず法力を送っていただいてもよろしいですか? 氷柱女房がいなくなってしまえば、こちらの負けは確定です」
「わかった」
氷の上で姿勢を正し、紅音が再度手に持っていたお札に法力を注ぎ込んだ。
目を閉じ集中し始めた紅音の隣で、夏楓が次の行動を考える。
上を見ていると、白い糸が大量に放たれており、氷柱女房をとらえようとしていた。それを必死に空中を飛び回避している。
凍らせたり、小さな氷柱で糸を切っているように見えるが、視界が遮られているため、正確な情報がわからない。
不安そうに眉を下げたが、すぐにかぶりをふり気を取り直す。
「できる、私はできる。自分を信じるの、夏楓」
眉を吊り上げ、再度顔を上げる。狭い視界の中で、何とか情報を搾り取り指示を出そうとした。
「…………氷柱女房ができることは、本当に凍らせることと武器や氷柱を作り出すことだけなのかしら。他にもできないかな」
闇命の式神である百目は、ただ目が体にあるだけの妖。でも、遠い景色を見たり刀で戦ったり、早さを生かし相手を翻弄したりと。百目という妖の器に収まっていないことをしている。
式神になると、主の法力が物を言う。闇命の法力で百目が色々なことをできるようになった。
それを知っている夏楓は、氷柱女房にも同じ事ができないか考える。
横目で紅音を見ると、先ほどの言葉通り余裕に見える。もしかすると、紅音の法力も普通の人と比べると多いのかもしれない。そう思い、期待胸を膨らませた。
「…………期待していますよ、紅音」
「わかった」
「っ!? 声は、聞こえていたのですね…………」
紅音からの返答に驚きつつも強気な笑顔を浮かべ、氷柱女房をこの場の空間に響くくらいの声量で呼んだ。
『ぐっ、はい。あ、るじの、仰せのままに』
苦しげに体をよじらせていた絡新婦は、静稀に指示を出され答える。徐々に多く送り込まれた法力に体が馴染み、体を起こした。
ゆっくりと体を起こした絡新婦。下を向いていた顔を、夏楓に向けるため、顔を上げた。
刹那、その場にいた三人は顔を凍らせる。
「顔が、蜘蛛に…………」
絡新婦の顔は、先ほどまでの美しい女性の顔ではなく、土蜘蛛のような。昆虫のようになっていた。
目は八つに増え、口の端には牙。頭には触覚のようなものが生えていた。
顔だけ、虫の蜘蛛のようになっており、夏楓は顔を青くし小さな声で「おえっ」と素直な声をこぼしてしまった。
『あれが、絡新婦の本来の姿なのでしょう』
「かと思います。確か、絡新婦は美しい女性に姿を変えられるだけで、実際は土蜘蛛と同じく昆虫の姿だったはず」
二人は絡新婦の動きを見ているが、本人は声にならない声を出しており、体もガタガタと震わせている。まだ体が馴染み切っていないのか、うまく体を扱えていない。
今なら……と、夏楓は氷柱女房を横目で見る。だが、首を横に振られてしまった。
『何が待っているのかわからない以上、迂闊に動かない方がいいです。すぐに反応ができません』
「確かにそうですね。…………どんどん音が近づいているような気が……。何この音……なんか、波の音のような…………」
絡新婦の後ろから、波の音が近づいてきている。目を閉じ、その音に集中するの、波の音だと気づいた。
「どこからこの音が…………? ──っ、氷柱女房!! 地面をすべてこおらせっ――……」
「もう、遅いよ」
ねっとりとした笑顔を浮かべ、静稀が言い放つ。刹那、夏楓と紅音の踏みしめている地面が急に崩れ始めた。
「うそっ!??」
「なにっ!?」
地面が崩れると、下に隠されていたのは荒れている川。波が激しくたっており、溺れると這い上がるのは無理そうに見える川。
空中に投げ出された二人は、何も掴むことができずそのまま川へと落ちてしまう。
「っ、氷柱女房!! 川を凍らせて!」
咄嗟に指示を出した夏楓の声にすぐさま反応。冷たい息を吐き出し、波打っている川すべてを凍らせた。
氷に落ちた二人は無事、だが体を打ち付けてしまったため、腰をさすりながら立っていた。
「ちっ、氷に水はダメだったか。まぁ、いいかな。その氷も、長くは続かない」
静稀の言う通り、氷が音を立て崩れそうになっていた。
二人はすぐに立ち上がり上を向くが、手が届かず這い上がることは出来そうにない。
上では氷柱女房が動き出した絡新婦の相手をしているため、二人を上に連れていくことも出来ない。
「紅音、まだ法力には余裕はありますか?」
「わからない。だが、体力はぜんぜん問題ない。大丈夫だ」
「でしたら、ひとまず法力を送っていただいてもよろしいですか? 氷柱女房がいなくなってしまえば、こちらの負けは確定です」
「わかった」
氷の上で姿勢を正し、紅音が再度手に持っていたお札に法力を注ぎ込んだ。
目を閉じ集中し始めた紅音の隣で、夏楓が次の行動を考える。
上を見ていると、白い糸が大量に放たれており、氷柱女房をとらえようとしていた。それを必死に空中を飛び回避している。
凍らせたり、小さな氷柱で糸を切っているように見えるが、視界が遮られているため、正確な情報がわからない。
不安そうに眉を下げたが、すぐにかぶりをふり気を取り直す。
「できる、私はできる。自分を信じるの、夏楓」
眉を吊り上げ、再度顔を上げる。狭い視界の中で、何とか情報を搾り取り指示を出そうとした。
「…………氷柱女房ができることは、本当に凍らせることと武器や氷柱を作り出すことだけなのかしら。他にもできないかな」
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式神になると、主の法力が物を言う。闇命の法力で百目が色々なことをできるようになった。
それを知っている夏楓は、氷柱女房にも同じ事ができないか考える。
横目で紅音を見ると、先ほどの言葉通り余裕に見える。もしかすると、紅音の法力も普通の人と比べると多いのかもしれない。そう思い、期待胸を膨らませた。
「…………期待していますよ、紅音」
「わかった」
「っ!? 声は、聞こえていたのですね…………」
紅音からの返答に驚きつつも強気な笑顔を浮かべ、氷柱女房をこの場の空間に響くくらいの声量で呼んだ。
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