3 / 42
カラス天狗
氷鬼先輩は優しい!
しおりを挟む
学校に向かった二人は、無事に授業を受けていた。
午前の授業が終わると、詩織は屋上に向かう。
そこには朝、あやかしから守ってくれた司の姿があり、心臓が飛び跳ねた。
詩織が屋上の出入り口で固まっていると、司が小さな声で「来たか」と出迎えた。
手招きされてしまい、詩織は断る理由もないため、素直に隣に座った。
お弁当を広げ、食べ始める。
詩織は、お母さんが作ってくれた、色とりどりなお弁当。司は、コンビニで買った焼きそばパン。
司が焼きそばパンを一口分飲みこんだタイミングで、詩織に質問した。
「そういえば。君は今まで、どうやってあやかしから逃げていたの?」
いきなりの問いかけに詩織は面食らったが、すぐに口の中の食べ物をのみ込み、答えた。
「走れば十分くらいで着く紅井神社に行って助けてもらっていました。お世話になっているお姉ちゃんがいるので」
「お姉ちゃん?」
「はい、巫女さんなんです、お姉ちゃん」
「……あぁ、あの人か」
巫女という言葉だけで誰かわかった司は、安心したように焼きそばパンの残りを食べた。
「あの人かって……。お姉ちゃんを知っているんですか?」
「まーね。僕も長いことお世話になっているから」
「へぇ……。長いこととなると、付き合いは長いんですか?」
「長い方だと思うよ。小さい頃からだから」
(小さい頃から? 私も小さい頃からお世話になっていたけど、氷鬼先輩みたいな人とは会わなかったなぁ)
疑問を感じ、詩織は司を横目で見ると、彼も詩織を見ており、お互いの視線が合った。
とっさにそらしたのは詩織で、かすかに顔が赤い。
(なんか、氷鬼先輩って、他人にすごく冷たいって聞いていたのに、全然そんなことない気がする。普通にかっこいいし、きれいな顔立ちしているし……)
赤い顔を手で冷やし、もう一度司の方を向くと、ぼぉっと青空を見上げていた。
それがまたしても聞いていた話とは違い、詩織は思わずジィーと見てしまった。
「…………なに?」
「いえ。聞いていた話とだいぶ違うなと」
「聞いていた話? 何を聞いてたの」
「あっ。えぇぇぇぇえっと、ですね」
聞いていた話というのは、司がクールでイケメン、だが他人にものすごく冷たく、近寄りがたい存在ということ。
それをそのまま言ってもいいのか悩み、詩織は言葉を詰まらせた。
「…………怒らないですか?」
「聞かないとわからないでしょ」
「ですよね」
大きくうなだれ、諦めたように詩織は聞いた話をそのまま伝えた。
「クールでイケメンだけど、他人には冷たくて近寄りがたい存在。通称、氷の王子様。と、私は噂で聞いておりました」
「へぇ、周りはそんなこと言ってたんだ。興味ないから別にいいけど」
おそるおそる詩織は司を見るが、言葉の通り気にしていない様子。また空を眺め、ぼぉっとし始めた。
(こういう所は冷めてるな。本当に、私と一つしか違わないの?)
司は中学三年、詩織は二年。
一つしか違わないのに、司がいつも冷静なため疑ってしまった。
「僕への周りからの印象は、正直どうでもいいけど、君の体質については気になるんだよね」
「あやかしを引き寄せる体質のことでしょうか?」
「そう。治してあげたいけど、今の僕には無理だし。今回みたいに、物理的に守ることしか出来ない」
グシャと、焼きそばパンが入っていた袋を握りつぶし、後悔するような瞳を浮かべ横目で見る。
「――――え、氷鬼先輩、これからも私を守ってくださるのですか?」
「ん? 朝もそう言ったじゃん、君を守るって。というか、君を守ることが出来るのは僕くらいでしょ」
一度言葉を止め、顔を逸らす。付け足すように司は「僕以外になんて守らせないけど」とこぼす。だが、その言葉は詩織には届かず首をかしげていた。
「あ、あの…………」
「君、これから一人で行動するのは禁止。登下校は僕と一緒、休みの日は出来る限り一人で外に出ないこと。これを約束して」
「え、でも、それは氷鬼先輩にとって迷惑な話じゃ……」
「僕が言っているのに何でそうなるの? 迷惑だと思っているならこんな提案はしないし、言わない。それに、僕は自分で言ったことは必ず最後までやりきらないと気が済まないタイプなんだよね。君を守ると言った以上、それを最後まで貫かせてもらうよ」
藍色の髪から覗き見える水色の瞳は、真っすぐ詩織を見ていた。
その瞳に思わず心臓がドキッと高鳴り、またしても顔が赤く染まる。
(え、え? 先輩って、ここまで人の事を思える優しい人なの? 話に聞いていた人物と違い過ぎて反応に困るんだけど!)
赤い顔を見られないため、後ろへ振り向くと、司が首をかしげた。
「どうしたの?」
「なんでもありません!」
「ふーん。あ、そうだ。今すぐには渡せないんだけど、君には必要だろうというものを用意しているんだ」
司からの言葉に詩織は思わず顔を向ける。
「え?」
「準備が出来たら渡すよ」
詩織の困惑の声など聞こえていないかのように話を進められた。
途中でチャイムが鳴り、休み時間は終わる。
何もわからないまま詩織は、司と共に教室へ戻ることとなった。
午前の授業が終わると、詩織は屋上に向かう。
そこには朝、あやかしから守ってくれた司の姿があり、心臓が飛び跳ねた。
詩織が屋上の出入り口で固まっていると、司が小さな声で「来たか」と出迎えた。
手招きされてしまい、詩織は断る理由もないため、素直に隣に座った。
お弁当を広げ、食べ始める。
詩織は、お母さんが作ってくれた、色とりどりなお弁当。司は、コンビニで買った焼きそばパン。
司が焼きそばパンを一口分飲みこんだタイミングで、詩織に質問した。
「そういえば。君は今まで、どうやってあやかしから逃げていたの?」
いきなりの問いかけに詩織は面食らったが、すぐに口の中の食べ物をのみ込み、答えた。
「走れば十分くらいで着く紅井神社に行って助けてもらっていました。お世話になっているお姉ちゃんがいるので」
「お姉ちゃん?」
「はい、巫女さんなんです、お姉ちゃん」
「……あぁ、あの人か」
巫女という言葉だけで誰かわかった司は、安心したように焼きそばパンの残りを食べた。
「あの人かって……。お姉ちゃんを知っているんですか?」
「まーね。僕も長いことお世話になっているから」
「へぇ……。長いこととなると、付き合いは長いんですか?」
「長い方だと思うよ。小さい頃からだから」
(小さい頃から? 私も小さい頃からお世話になっていたけど、氷鬼先輩みたいな人とは会わなかったなぁ)
疑問を感じ、詩織は司を横目で見ると、彼も詩織を見ており、お互いの視線が合った。
とっさにそらしたのは詩織で、かすかに顔が赤い。
(なんか、氷鬼先輩って、他人にすごく冷たいって聞いていたのに、全然そんなことない気がする。普通にかっこいいし、きれいな顔立ちしているし……)
赤い顔を手で冷やし、もう一度司の方を向くと、ぼぉっと青空を見上げていた。
それがまたしても聞いていた話とは違い、詩織は思わずジィーと見てしまった。
「…………なに?」
「いえ。聞いていた話とだいぶ違うなと」
「聞いていた話? 何を聞いてたの」
「あっ。えぇぇぇぇえっと、ですね」
聞いていた話というのは、司がクールでイケメン、だが他人にものすごく冷たく、近寄りがたい存在ということ。
それをそのまま言ってもいいのか悩み、詩織は言葉を詰まらせた。
「…………怒らないですか?」
「聞かないとわからないでしょ」
「ですよね」
大きくうなだれ、諦めたように詩織は聞いた話をそのまま伝えた。
「クールでイケメンだけど、他人には冷たくて近寄りがたい存在。通称、氷の王子様。と、私は噂で聞いておりました」
「へぇ、周りはそんなこと言ってたんだ。興味ないから別にいいけど」
おそるおそる詩織は司を見るが、言葉の通り気にしていない様子。また空を眺め、ぼぉっとし始めた。
(こういう所は冷めてるな。本当に、私と一つしか違わないの?)
司は中学三年、詩織は二年。
一つしか違わないのに、司がいつも冷静なため疑ってしまった。
「僕への周りからの印象は、正直どうでもいいけど、君の体質については気になるんだよね」
「あやかしを引き寄せる体質のことでしょうか?」
「そう。治してあげたいけど、今の僕には無理だし。今回みたいに、物理的に守ることしか出来ない」
グシャと、焼きそばパンが入っていた袋を握りつぶし、後悔するような瞳を浮かべ横目で見る。
「――――え、氷鬼先輩、これからも私を守ってくださるのですか?」
「ん? 朝もそう言ったじゃん、君を守るって。というか、君を守ることが出来るのは僕くらいでしょ」
一度言葉を止め、顔を逸らす。付け足すように司は「僕以外になんて守らせないけど」とこぼす。だが、その言葉は詩織には届かず首をかしげていた。
「あ、あの…………」
「君、これから一人で行動するのは禁止。登下校は僕と一緒、休みの日は出来る限り一人で外に出ないこと。これを約束して」
「え、でも、それは氷鬼先輩にとって迷惑な話じゃ……」
「僕が言っているのに何でそうなるの? 迷惑だと思っているならこんな提案はしないし、言わない。それに、僕は自分で言ったことは必ず最後までやりきらないと気が済まないタイプなんだよね。君を守ると言った以上、それを最後まで貫かせてもらうよ」
藍色の髪から覗き見える水色の瞳は、真っすぐ詩織を見ていた。
その瞳に思わず心臓がドキッと高鳴り、またしても顔が赤く染まる。
(え、え? 先輩って、ここまで人の事を思える優しい人なの? 話に聞いていた人物と違い過ぎて反応に困るんだけど!)
赤い顔を見られないため、後ろへ振り向くと、司が首をかしげた。
「どうしたの?」
「なんでもありません!」
「ふーん。あ、そうだ。今すぐには渡せないんだけど、君には必要だろうというものを用意しているんだ」
司からの言葉に詩織は思わず顔を向ける。
「え?」
「準備が出来たら渡すよ」
詩織の困惑の声など聞こえていないかのように話を進められた。
途中でチャイムが鳴り、休み時間は終わる。
何もわからないまま詩織は、司と共に教室へ戻ることとなった。
1
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~
☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた!
麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった!
「…面白い。明日もこれを作れ」
それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ
☆ほしい
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】
魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。
ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。
「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」
不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。
甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる