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失った時間
氷鬼先輩と普通
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「巫女さんが、自分の体を使って鬼を封印した。それが私にも残っているってこと?」
「簡単に言えばそうかな」
翔の説明を聞いて、詩織はなんとか理解した。
理解したが、それと同時に気持ちが沈み、自分が普通ではないことを再確認してしまった。
膝に置かれている手を重ね、震えをごまかす。
詩織の空気が変わり、翔は頬を掻きながら何気ないように言う。
「あやかしを引き寄せる体質は、氷鬼家みたいな退治屋からすれば、喉から手が出るほど欲しい力なんだけどね。羨ましいよ」
「え、な、何で、ですか?」
今まで悩んできた体質をうらやましいと言われるなど思っておらず、詩織は目を丸くして顔を上げた。
「逆に、君は何でそこまで自分の体質をいやがるの? やっぱり、怖いから?」
「それもあります、いつおそわれるかわからない。どこに潜んでいるかわからない。そんな中で生活するのは苦しいです。ですが、それ以上に…………」
「以上に?」
途中で言葉を切った詩織に首をかしげ、翔は続きを促した。
目線をテーブルに落とし、言いにくそうに詩織は重い口を開いた。
「普通じゃないのが――他の人と違うのが、いやなんです」
普通になりたい、他の人と同じ環境で生きていたい。
そう思うが、あやかしに好かれる自分では不可能なため、あきらめていた。
でも、ずっと思っていた。
あやかしに追いかけられなければ、友達と一緒に遊べた。
あやかしに追いかけられなければ、両親に迷惑をかけなかった。
あやかしに追いかけられなければ、一人にならなかった。
あやかしに追いかけられなければ、あやかしに追いかけられさえしなければ。
「あやかしに、好かれるような体質じゃなければ――……」
その言葉が口からもれた時、司と翔の視線が詩織に突き刺さる。
すぐに気づき、顔を上げ二人を見た。
二人は何も言わず、瞬きを数回繰り返す。
気まずい空気に、詩織はあわあわと二人を交互に見る。
「え、えっと、えっと…………」
なんと言えばいいのか困っていると、司が手に持っていた資料をテーブルに置き、頭をガシガシと掻いた。
「その感情こそが、普通だと思うよ」
「え、普通?」
普通という言葉が自分に向けられているとは思わず、詩織は思わず聞き返してしまった。
「そう、普通。僕達みたいに、元々こうなる運命の家庭に生まれているのなら別だけど、そうじゃない。君は、自身で決めたわけではなく、先祖によって今のような環境になってしまった。普通になりたいと願うのは、まさに普通だよ」
司は、詩織の目を見て、言葉をつむぐ。
「それに、僕は普通になんてなりたくないかな」
「え、なりたくないんですか?」
司からの予想外の言葉に、詩織はオウム返しのように同じ言葉を繰り返した。
「そうだよ。普通になってしまったら、守りたい人は守れない。力が無ければ氷鬼家では生きていけない。だから、あえて普通から遠ざかる生活をしていたんだ」
司の目には、迷いはなかった。
真っすぐな目を向けられ、詩織はなんと言えばいいのかわからず口をもごもごする。
「まぁ、遠ざかると言っても、修行をして少しでも力を使いこなしていた程度なんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「うん。少し、見栄を張ってしまったよ」
気まずそうに目を逸らし、頭をガシガシとかく。
そんな司の隣に座っている翔は、肩を落としやれやれとため息を吐いた。
「何を言っているんだ、司。俺は聞いているぞ、修行に大半の時間を使い、自分の時間など一切なかった。だから、友達はおらず、一人で学校生活を送っていたんだろ?」
翔の頭をパコンと叩き、無理やり黙らせた。
だが、もう詩織には聞こえており、視線を感じる。
「あの、今のはどういうことですか?」
「気にしなくていいよ。僕の場合は、好んで一人だったの。君みたいに強制ではないよ」
詩織は司の様子を見ているが、後悔しているようにも見えない。
本当に望んで行っていた、そう思わせるような表情を浮かべており、何も言えなくなる。
数回口を開くと、やっと出た言葉は司をおどろかせた。
「それなら、私が一番最初の友達ですか?」
「――――ん?」
司が頭にはてなを浮かべながら聞き返すと、詩織は自分で言った言葉の意味を理解し、赤面。恥ずかしくなり、慌てて顔を逸らした。
(な、何を言っているんだろう、私。なんで、こんなことを聞いたんだろう)
顔を下げ、恥ずかしい気持ちをごまかす。
詩織の様子を見ていた司は、頬をポリポリとかき「えぇっと」と口を開く。
「確かに、詩織が一番の友達かもね。他に友達と呼べる人、いないし」
おずおずと顔を上げると、司の頬もほんのり赤く、目を逸らしていた。
二人の反応を見ている翔は、ニヤニヤとしながら立ち上がり、そのままお暇しようと襖へと歩く。
「あまり熱くなるのもほどほどにな。それと、司は手紙の内容を確認したら家族会議だ。今回の相手は手ごわいぞ」
「わかった」
最後に、頬を押さえている詩織を見て手を振り、襖を開け廊下へと出て行った。
「簡単に言えばそうかな」
翔の説明を聞いて、詩織はなんとか理解した。
理解したが、それと同時に気持ちが沈み、自分が普通ではないことを再確認してしまった。
膝に置かれている手を重ね、震えをごまかす。
詩織の空気が変わり、翔は頬を掻きながら何気ないように言う。
「あやかしを引き寄せる体質は、氷鬼家みたいな退治屋からすれば、喉から手が出るほど欲しい力なんだけどね。羨ましいよ」
「え、な、何で、ですか?」
今まで悩んできた体質をうらやましいと言われるなど思っておらず、詩織は目を丸くして顔を上げた。
「逆に、君は何でそこまで自分の体質をいやがるの? やっぱり、怖いから?」
「それもあります、いつおそわれるかわからない。どこに潜んでいるかわからない。そんな中で生活するのは苦しいです。ですが、それ以上に…………」
「以上に?」
途中で言葉を切った詩織に首をかしげ、翔は続きを促した。
目線をテーブルに落とし、言いにくそうに詩織は重い口を開いた。
「普通じゃないのが――他の人と違うのが、いやなんです」
普通になりたい、他の人と同じ環境で生きていたい。
そう思うが、あやかしに好かれる自分では不可能なため、あきらめていた。
でも、ずっと思っていた。
あやかしに追いかけられなければ、友達と一緒に遊べた。
あやかしに追いかけられなければ、両親に迷惑をかけなかった。
あやかしに追いかけられなければ、一人にならなかった。
あやかしに追いかけられなければ、あやかしに追いかけられさえしなければ。
「あやかしに、好かれるような体質じゃなければ――……」
その言葉が口からもれた時、司と翔の視線が詩織に突き刺さる。
すぐに気づき、顔を上げ二人を見た。
二人は何も言わず、瞬きを数回繰り返す。
気まずい空気に、詩織はあわあわと二人を交互に見る。
「え、えっと、えっと…………」
なんと言えばいいのか困っていると、司が手に持っていた資料をテーブルに置き、頭をガシガシと掻いた。
「その感情こそが、普通だと思うよ」
「え、普通?」
普通という言葉が自分に向けられているとは思わず、詩織は思わず聞き返してしまった。
「そう、普通。僕達みたいに、元々こうなる運命の家庭に生まれているのなら別だけど、そうじゃない。君は、自身で決めたわけではなく、先祖によって今のような環境になってしまった。普通になりたいと願うのは、まさに普通だよ」
司は、詩織の目を見て、言葉をつむぐ。
「それに、僕は普通になんてなりたくないかな」
「え、なりたくないんですか?」
司からの予想外の言葉に、詩織はオウム返しのように同じ言葉を繰り返した。
「そうだよ。普通になってしまったら、守りたい人は守れない。力が無ければ氷鬼家では生きていけない。だから、あえて普通から遠ざかる生活をしていたんだ」
司の目には、迷いはなかった。
真っすぐな目を向けられ、詩織はなんと言えばいいのかわからず口をもごもごする。
「まぁ、遠ざかると言っても、修行をして少しでも力を使いこなしていた程度なんだけどね」
「え、そうなんですか?」
「うん。少し、見栄を張ってしまったよ」
気まずそうに目を逸らし、頭をガシガシとかく。
そんな司の隣に座っている翔は、肩を落としやれやれとため息を吐いた。
「何を言っているんだ、司。俺は聞いているぞ、修行に大半の時間を使い、自分の時間など一切なかった。だから、友達はおらず、一人で学校生活を送っていたんだろ?」
翔の頭をパコンと叩き、無理やり黙らせた。
だが、もう詩織には聞こえており、視線を感じる。
「あの、今のはどういうことですか?」
「気にしなくていいよ。僕の場合は、好んで一人だったの。君みたいに強制ではないよ」
詩織は司の様子を見ているが、後悔しているようにも見えない。
本当に望んで行っていた、そう思わせるような表情を浮かべており、何も言えなくなる。
数回口を開くと、やっと出た言葉は司をおどろかせた。
「それなら、私が一番最初の友達ですか?」
「――――ん?」
司が頭にはてなを浮かべながら聞き返すと、詩織は自分で言った言葉の意味を理解し、赤面。恥ずかしくなり、慌てて顔を逸らした。
(な、何を言っているんだろう、私。なんで、こんなことを聞いたんだろう)
顔を下げ、恥ずかしい気持ちをごまかす。
詩織の様子を見ていた司は、頬をポリポリとかき「えぇっと」と口を開く。
「確かに、詩織が一番の友達かもね。他に友達と呼べる人、いないし」
おずおずと顔を上げると、司の頬もほんのり赤く、目を逸らしていた。
二人の反応を見ている翔は、ニヤニヤとしながら立ち上がり、そのままお暇しようと襖へと歩く。
「あまり熱くなるのもほどほどにな。それと、司は手紙の内容を確認したら家族会議だ。今回の相手は手ごわいぞ」
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