想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

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香美

「てめぇの願い、叶えてやろう」

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 凪紗は知恵の姿を確認すると一目散に走り出した。怒られるか殴られると思った知恵は、顔を青くして目を固く瞑る。

「この、バカ娘!」

 その言葉ともに、凪紗は手を振り上げた。

 衝撃に備え知恵は歯を食いしばった──のだが、何故か凪紗は彼女の頭に優しく手を置き、そのまま力強く抱きしめた。

「────えっ?」
「貴方が万引きなんてするはずがない。そんなの分かってたわ。どうして逃げたりしたの。私はそれが許せないわ」

 涙混じりに話す凪紗の体は震えており、知恵はなんの事すぐ理解できず、固まってしまった。
 それは周りの人達も同じのようで、特に香美は目を大きく開き口をパクパクとしていた。動揺しているようにも見える。

「ど、どうして──」
「監視カメラの映像を見て、貴方がCDコーナーに立ち寄っていない事がわかったの。それを、警察の方と一緒に確認してきたわ」

 凪紗は、知恵がお店から逃げたあと連絡が入り、急いでお店へと向かった。
 お店に着くなり凪紗は顔を赤くし、警察官の肩を揺さぶり「防犯カメラを見せてください」と主張し、先程まで警察官と見ていた。そこで、知恵が真っ直ぐゲームコーナーに向かっていたのと、その際にぶつかった人の姿を確認出来たと言っている。

「どうして貴方がこんな事をしなければならなかったの? 赤羽根さん」
「えっ──」

 凪紗が突然香美の名前を呼び問いかけた。それにより、周りの人達全員の視線が香美へと注がれる。
 向けられた本人は目を開きその場から動く事が出来ず、微かに体を震わせていた。

「なっ、何の話ですか!? 私はただ見かけた事をそのまま伝えただけです!!」
「見かけてなどいないはずです。知恵はCDコーナーになど立ち寄っていません。ですが、貴方がCDコーナーにいた事は確認済みです。その後に知恵とぶつかり、見つからないようにまたCDコーナーに向かったのも確認しております」

 凪紗は目を光らせ、香美を鋭い瞳で睨みながら追い込んでいく。

「その後貴方はCDコーナーから動かず、ずっと同じ物を見続けた居たわ。まるで、時を待つように…………ね」

 逃げ道を塞ぎ、徐々に追い込む凪紗。優し気な口調の中に含む、怒りの感情。大事な娘がなぜこんな事に巻き巻き込まれなければならなかったのか。なぜ、香美が知恵をターゲットにしたのか。聞きたいことがたくさんある中、凪紗は大人の余裕を崩さない。

 そんな彼女の瞳に圧倒され、香美は大きく開かれた瞳を揺らし、悔しそうに歯を食いしばる。

「どうして、あんたがそんな事を……」

 眉を寄せて複雑そうな表情で、知恵は香美に問いかけた。その言葉でもう何もかもどうでも良くなった彼女は吹っ切れ、怒鳴るように声を荒らげ、叫び散らす。

「そんなの、あんたが邪魔だからに決まってるでしょ?!」
「邪魔って……。私はあんたに何もしてないじゃない!! なのにどうしてっ──」
「あんたの存在が周りにとってすごく迷惑だって言っているの!!」

 知恵の言葉を遮り、香美が店全体に聞こえるほど大きな声で叫んだ。

「あんたは気付いてないだろうけど、あんたが教室に居るだけで周りは迷惑をしているの。悪い噂ばっかり流れて……全部が嘘だとしても火のない所には煙は立たないのよ?! 噂みたいな事をしたことぐらいあるでしょ。だから、私はみんなの代わりに貴方を排除しようと思ったの。だって、みんな私と同じ気持ちだから!!」
「そ、そんな……」

 香美の言葉に、知恵は体から力が抜けその場に崩れ落ちる。貴音と凪紗が駆け寄り背中を撫でたり、安心させるように肩に手を置く。

 知恵自身、周りが自分に対して良い印象を持っていないのは分かっており、何も言い返す事が出来ない。
 崩れ落ちた知恵に、さらに追い打ちをかけるよう香美は言葉を続ける。だが、それは怒りではなく優越感に浸っているような表情だ。
 引きつったような歪んだ笑みで、両手を左右に広げ狂ったように高らかと宣言する。

「私は、これでまたみんなを助けたわ!! 私はみんなのヒーローよ! これで私は、またみんなに必要とされる存在になるわ!!」

 狂ったような香美の笑い声に、周りの人達は唖然としておりその場に立ち尽くす。その時、香美は右手に封の開いた飴の袋を握っていた。その事に知恵は気づき凝視する。
 香美は知恵の視線に気づき、飴を自分の胸に引き寄せ笑みを浮かべながら説明し始めた。

「これが気になるんでしょ? これは私を幸せにする魔法の飴よ。今回もこの飴のおかげで、貴方をここまで追い詰める事が出来たわ」

 飴を大事にしており、説明しながらも誰にも奪われないように抱きしめる。その、異様な雰囲気に言葉が出ない知恵は、恐怖の表情を浮かべ香美を見ていた。
 貴音も顔を青くしているが、知恵の隣に座り肩を摩ってあげている。

「でも、バレちゃったから仕方がないわね。私、次私の為にこの飴を使うわ」

 香美は袋から黄色の飴を取り出し、口角を上げたまま口の中に放り込んだ。その時、願い事を口にする────

「お願い!! 今すぐ私をここから逃がして!!」

 香美が叫んだ瞬間、いきなり男性の声が聞こえ始め、お店の中に響き渡る。その声は楽しんでいるようで、とても不気味な声だった。

『てめぇの願い、叶えてやろう』
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