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ファルシー

「──生理的に無理だ」

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「明人」
「どうした」

 小屋の中では、次の依頼人を待っている二人の姿。一人はソファーで横になり、一人は本を片手に木製の椅子に座っている。
 声をかけたのは、本から目を離さず見続けているカクリ。明人は目を開けずに答えた。

「何かが近づいて来ておる」
「あいつか?」

 明人が指している”あいつ”とは、悪陣魔蛭の事。だが、カクリは否定する意も込めて首を横に振る。

「違う。者だ」
「悪魔か?」

 カクリの言葉に、明人は薄く目を開けカクリに目線を向ける。

「そこまでの悪意も感じられない」
「なんだそれ」

 本を閉じ、カクリは顔を上げる。明人も「よっこらせ」と体を起こし、ソファーに座り直す。頭を掻き、めんどくさそうに顔を歪めた。

「何が来るんだ」
「わからぬ。だが、そこまで悪い気配ではない」
「ちっ、本当にめんどくせぇな…………」

 二人が小屋のドアに目を向けると同時に、外に人の気配を感じ始める。カクリが問題ないと言っているが、それでも警戒を解く訳にはいかず。明人は座りながらも、いつでも動けるように腰を少しだけ浮かせていた。

 ドアノブがガタガタと音を鳴らす。二人は警戒の色を濃くし、ジィっとドアから目を離さない。

 ガチャガチャ。

 ドアノブが回る。そして、ゆっくりと。静かに開かれた。そこに居たのは、凛々しく立ち、中にいる二人を見ている女性だった。

「初めまして。私はファルシー。以後、お見知りおきを」

 背丈はカクリと変わらない。ウェーブのかかった金髪に、緑色の瞳。右目の下には星マークが書いてある。
 白いベストに、中は黄緑色の長袖。緑色の長ズボンに、膝まで長い革のブーツを履いていた。
 まるでどこかの執事をやっていたかのような立ち居振る舞いと凛々しさ。

「ファルシー……。ファル──ルシファー……。あぁ、なるほど、堕天使って事ね」

 明人はファルシーに対し面倒くさそうに眉を顰める。そして、嫌味を含んだような口調で言い放った。

「そんな事言うなんて酷いじゃない。確かに私は堕天使よ。でも、そんなのはどうでもいいわ。私は貴方に一つお願いしたい事があっ──」
「断る」

 ファルシーの言葉を最後まで聞かずに、明人は即答で断った。それはさすがに予想外だった彼女は、「え?」と抜けた声を漏らす。
 カクリはそんな二人の様子を横で見つつ溜息をつき、頭を支えてしまう。

「あの、話ぐらい──」
「断る」
「いや、話を聞くだけでも──」
「無理だ」
「少しの時間でおわ──」
「おかえり願いマース」

 まともに取り合う気がなく、明人はどんな言葉も全て断っている。それにはファルシーもどうすればいいのかわからなくなり、苦笑いを浮かべながらカクリに助けを求める目を向けた。

 助けの目を向けられたカクリは、大きな溜息をつき明人に向き直す。

「明人よ」
「無理だ」
「……人の話は最後まで聞くのだ。あやつは人間ではない。少しでもこちら側の有利になる情報を持っている可能性がある。それに、堕天使を敵に回すと後々面倒臭い。今でさえ様々な問題を抱えているのだぞ。これ以上増えるのはごめんだと思うがね」

 カクリが説得するように淡々と言うと、明人は目線をファルシーに向けた。その視線に、ファルシーは期待を込めた輝かしい目で見返した。

「──生理的に無理だ」
「そこまで言わなくてもいいじゃない!! 話だけでも聞きなさいよ!!」

 彼の冷酷な反応に、我慢の限界になったルファルシーは声を荒らげ指をさす。何を言っても意味が無いと察し、明人はため息と共に「分かった」と諦めた。

「えっとね。私、貴方の呪いを解く事や記憶集めを手伝いたいとおも──」
「断る。話は以上だな、それじゃ失礼する」

 無理やり話を終わらせ、彼はそのまま立ち上がろうとした。だが、ファルシーがズボンを掴み行かせまいと制する。

「待って待って行かないでよ!!! 理由はあるの!! お願い聞いて!!」
「ズボンを掴んでんじゃねぇわ!! 脱げるだろうが!!」
「脱げてもいいから話は聞いて!!」
「~~~いい加減にしろ!!!!」
「アンギャ!!!」

 明人が怒りを拳に込め、ファルシーの頭にゲンコツを落とした。相当力が入っており、小屋にゴツンという音が響いた。
 カクリは近くで音を聞いていただけだが、咄嗟に自身の頭を抑え不安げに眉を下げる。

 ゲンコツをもろに食らったファルシーは、その場に蹲り頭を抑えていた。明人も、こんなに力が入るとは自分でも思っておらず、右手を抑えている。相当痛みがあるらしく、二人は無言。カクリだけが困惑の表情を浮かべ、二人を交互に見ながら立っていた。

「とりあえず、話をしよう」

 カクリがこの場を落ち着かせようと冷静に言うと、それが合図のように明人は再度ソファーに座り、ファルシーは羽を動かし空中で胡座を作り、座っているような体勢を作った。

「頭、痛い。やっぱり貴方は人間ではない」
「七十八%人間だ、堕ちた天使」
「堕天使と言って──じゃなくて、私の名前はファルシーよ!! 名前で呼んでくれてもいいじゃない」
「わかったからさっさと話せ糞天使」
「ファルシーだってば!!」

 そんな会話が続き、カクリは呆れた表情を浮かべながら、二人の会話が終わるのを首を長くして待った。
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