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真陽留

「まずは黒い匣を飲め」

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「よく分かったな」
「俺様なんで」

 ベルゼと明人はお互い睨み合っており、一触即発な状態。だが、彼はその場から動く事が出来ないため、今攻撃を仕掛けられれば何も出来ずやられてしまう。
 それは明人自身分かっているはずだが、それでもいつもの口調は変わらず、堂々としていた。

「その状況でよくそこまで強気でいられる。本当に面白い人間だな。我は貴様と契約がしたかったぞ」
「それは残念だったな。俺は、お前と契約なんて死んでもごめんだ」
「そうか。なら──死んでもらおう」

 ベルゼは床に突き刺さっている影に目を向け再度操り、今度は明人に向けて放つ。
 空を斬り、一直線に向かう影。だが、明人は逃げようとしない。そもそも、今は呪いが体を蝕んでいるため動ける状態では無い。避けるのは不可能。

「あきっ──」

 カクリが助けに入ろうとしたが、それより先に明人がポケットから小瓶を取り出し、綺麗に輝く液体を影に向けてぶちまけた。すると、影は強い衝撃により四方に弾かれ床へと落ち、溶け込まれるように消えた。

「──ほう。やはり、タダでは死なぬ男か」
「褒め言葉どうも」

 明人が放ったのは、今まで集めてきた記憶の欠片。小瓶に入っていた液体は今ので全てなくなり、明人の手に握られているのは空になったただの小瓶だ。

 明人は自身の現状を悟りながらも口角を上げ、ベルゼと会話を続ける。呪いのせいで体が弱っているため、汗が流れ顔が青い。

 カクリは何かを思い出したように、棚へと近付き懐中電灯を手にした。すぐさまベルゼの横側から走り近付いて行く。

「小癪な」

 影を操りカクリの動きを止めようとしたが、それより先に懐中電灯の光をベルゼに当てた。

「くっ。光か──」

 ベルゼは目を閉じ、咄嗟に小屋の外へと逃げた。その隙を逃すまいとすぐさま真陽留がドアを閉め、中に入らないように体全体で押さえる。

「時間はないらしいな」

 明人は険しい表情で呟く。

 悪魔の力で外からドアを壊そうとしているため、普通なら小屋の中に外の音は漏れないはずだが、「ドンッ、ドンッ」という鈍い音が響く。
 真陽留が必死に押さえているが時間の問題のように感じ、カクリも結界が壊されないように眉間に皺を寄せ力を込める。

 数秒後。壊れない事を悟ったベルゼは諦め、ドアを壊そうとするのを辞めた。それにより、小屋の中には静寂が訪れる。

「行ったか……。あとは、化け狐に悪魔を任せよう。居るか知らんけどな」

 明人は安堵の息を吐き、肩の力を抜く。

「レーツェル様をそのように呼ぶのは──と、それより。なぜレーツェル様なのだ?」
「なんとなくだ。とりあえず、少しは動けるようになった。早くどうにかすんぞ。おい、肩を貸せ」

 ドアを押さえている真陽留を手招きする。

「はぁ。これで二つは返したからな」
「そうだな。あと残り九十八回。利子つけて返しやがれ」
「どこから出てくんだよその数字!!」

 明人の腕を自身の肩に回し、真陽留は奥の部屋に彼の速度に合わせゆっくり進む。カクリもその後ろをついていく。
 明人の指示のもと記憶保管部屋に辿り着き、中に入ろうとドアを開いた。

 中は変わらず小瓶の中に入っている記憶の液体が煌々と輝いており、幻想的な光景が広がっていた。そのため、真陽留は思わずその場に立ち止まり見惚れてしまう。

「おい、惚けてねぇで早く進め」
「────分かってる」

 言われた通り中へと足を踏み入れ、明人を壁側に座らせる。

「カクリ、まずは黒い匣を飲め。それが一番手っ取り早い」
「飲む……。それには少し抵抗があるがそれはさて置き、飲んだ上で力を抑える事が出来なかったら……」
「今回は盾がいるから問題いら──」
「おい」

 真陽留の怒りの籠った声に、カクリは苦笑いを浮かべるが、明人は本当に無理な事は口にしない。出来ると思う事しかカクリにやれと今までも言ってこなかった。

 カクリは知れも踏まえ考え、眉を吊り上げる。瞳にか覚悟の色を見せ黒い匣の小瓶に手を伸ばそうとした。のだが、なぜか真陽留がそれを止めた。その事に対し、明人は怪訝そうに彼の方に目を向ける。

 真陽留は右手を口元に持っていくと、中指の黒い手袋を噛み引っ張った。黒い手袋から現れた手には、悪魔と契約をした証がしっかりと刻印されており、明人の呪いの証と似た紫色に輝いている。

 その形は、円の中に六芒星といったものだ。

 口に咥えた手袋を落とし、真陽留は突然、自身の親指の腹部分を少し噛みちぎり血を出した。滲み出てきた血で何かを床に書いていく。

 明人とカクリは何も言わず待ち続ける。
 徐々に床には、何かの魔法陣のようなものが描かれ、それを見ていた明人は「なるほどな」と何かに納得したような言葉を発する。

 最初は少し大きめな円を書き、その中に文字のような物を円にそって書いていく。
 それは日本語でなく、どこかの国の文字のようで、なんと書いてあるのか読めない。

「これは?」

 カクリがそれを見ながら問いかけるが、真陽留は書く事に集中しているため答えられず、その代わりに明人が簡単に説明した。

「恐らく仏教の文字だろうな。さすがに俺も読めねぇわ」
「仏教? なぜ?」
「知らん」

 明人とカクリがそんな会話をしている時でも、真陽留は魔法陣を完成に近付けていた。

 ☆

「これならいけるだろ」

 書き始めてから数分後。やっと書き終わり、真陽留は顔を上げ明人にドヤ顔を向けた。

「きっしょい顔向けてんじゃねぇわ」
「お前、本当は体調万全だろ。体調悪いとか嘘ついて気を引きたいだけだろ中学生かよ」
「俺の心はいつでも少年だ」
「言ってろ」

 床に書かれたのは予想通り、魔法陣だった。

 血で書かれているため赤く、心做しか発光しているようにも見える。
 円は二重になっており、その間に仏教の文字が円にそって書かれ、真ん中には大きく片目が明人達を見上げているかのように描かれていた。

「これ、ベルゼが小瓶の匣を飲む時毎度書いている魔法陣だったんだよ。俺でも使えるのかと聞いたら、契約している者の血を使えば使用可能と言ってた。多分、これで爆発的に増量する力を抑え、自身に馴染むまで時間をおいていたんだと思う。実際どんな効力があるかなんて聞いてないから、違うかもしれないけど……」

 説明をした後、真陽留は明人とカクリに力強い瞳を向け、その目を向けられた二人は魔法陣を見下ろしていた。
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