想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
126 / 130
記憶の欠片

「よぉ。遅かったな」

しおりを挟む
 音禰と真陽留は、額から流れ落ちる汗など気にせず、ただひたすらに走り続けていた。道は体が覚えており、一切の迷いがない。

「林の奥、古い小屋!!」
「この町で林は一つだけだ。間違いない!!」

 夜のため人通りは少なく、街灯が二人を照らす。だが、それも町から外れて行くにつれて薄暗くなっていき、周りは月明かりだけになっていく。
 そんな街灯の無い道を走り続けていると、二人の記憶の片隅にある林へと辿り着いた。

 風が吹くと高く立ちはだかる木が揺れ、葉と葉が重なり自然の音を鳴らす。周りには月明かり以外の光が無いため、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。
 中を覗き見ると、木々の隙間から光が漏れ出て幻想的な空間が広がっている。思わず手を伸ばしてしまいそうな光景に、二人は固唾を飲み顔を見合わす。

 この中に入ってしまえば、もう後戻りは出来ない。二人は息を飲み、眉を吊り上げ林顔を向けた。

「行こう」
「うん」

 お互い力強く頷き、しっかりとした足取りで林の中へと踏み入れた。

 ☆

 道は細く、分かれ道はない。二人を目的の場所へと案内しているようにも見え、迷わず進む事が出来る。
 葉がカサカサと重なり合い、虫の声も響く。奥に進めば進むほど月光が二人まで届かなくなり、徐々に周りは暗くなっていく。
 何度か音禰が気の蔓などに引っかかり転びそうになっていたが、真陽留が瞬時に手を伸ばし転ばずに済んでいた。そんな中、前方から急に程よい風が吹き始め、彼女の髪が後ろへと靡かせた。

 真陽留は、目的の場所が近付いている事を感じ目を輝かせ、どんどん歩みの速さが早くなっていく。

「──見つけた」
「うん。絶対にこれだね」

 二人の目の前には、古く、今にも崩れてしまいそうな小屋が建っていた。
 周りの木が小屋を隠すように覆いかぶさり、壁画も所々が黒く変色している。屋根に近い部分には大きな蜘蛛の巣が張っており、窓枠も虫に食われているらしく欠けていた。今にも崩れそうなほど古い小屋なため、人が住んでいるようには到底見えない。でも、ドア付近だけは綺麗に掃除されており、人の出入りがある事が分かる。

「開けてみるか」

 真陽留はドアノブに手を伸ばし開けようとした。だが、鍵がかかっておりガチャガチャと音を鳴らすのみ。開ける事が出来ない。

「鍵が閉まってるの?」
「この小屋に鍵なんて立派な物、付いてないと思うけどな」

 手を離し、上を見上げる。近くで見るとボロさが際立ち、彼は思わず顔を歪めてしまった。

「────壊すか」
「やめておこう」
「ちっ」

 音禰が冷静に止めたため、真陽留は裏口など、他に出入口がないか小屋の裏へと回るが、何もない。
 中に入る手段が見つからず、真陽留は肩を落としてしまった。

「小屋の奥に洞窟あったよな。そこに誰かいないかな」
「そうね。すれ違いになると困るから、私は小屋の出入口で待っているわ」
「一人で大丈夫か?」
「平気よ」
「わかった。なら、何かあれば必ず連絡しろ。電波は──連絡は、大きな声でやってくれ」
「そんな無茶な……」

 真陽留は電波が繋がっているか確認するため、ポケットの中から携帯を取りだし画面を見た。そこには圏外という文字が表示されてしまっていたため、苦笑いを浮かべながら彼女に無茶振りを言う。

「コホン。と、とりあえず行ってくるな」
「お願い」

 彼が奥の洞窟に進もうとすると、足元を何かが横切りバランスを崩してしまった。

「うわっ!!」

 その場に転びそうになってしまったが、なんとか手を地面につけ転ばずに済んだ。

「…………なんだよ」

 イラつきながら真陽留が後ろを向くと、音禰が真陽留の足元を見下ろしながら口元に手を当て、瞳を揺らし、驚いている姿が目に映った。
 彼女の目線を追うと、そこには子狐が彼を振り向きながら四足で立っている姿がある。

「お前……。明人の傍に居た、子狐じゃねぇか?」

 真陽留が驚きながら聞くと、子狐の上空をコウモリが一匹飛び交い一番近い木にぶら下がり彼を見下ろした。その表情は嘲笑っているようにも見える。

「まさか、コウモリって──おいおい。嘘だろ」

 嬉しいような悔しいような。そんな表情を浮かべ見上げる真陽留と、明らかに喜んでいる顔を浮かべ、目をキラキラと輝かせて二匹を見る音禰。

「まさか、貴方達!!」

 彼女の言葉に返事をするように、子狐は走り出しコウモリも飛び始めた。

 コーーーーーン────

 子狐が鳴くと、その声に応えるように小屋のドアが静かに開いた。そこから一人の男性が、口角を上げ楽しげな表情を浮かべながら出てきた。
 
 見た目は何も変わっていない。二人の記憶にある姿のまま。その人物は立っていた。

「よぉ。遅かったな」
「「明人/相想!!」」

 噂の小屋に住んでいる青年、筺鍵明人が腕を組みながら二人を見つめ、静かに立っている。
 風が吹く度、明人の左目を隠している髪が揺れ、隙間から五芒星が刻まれた瞳が見え、赤く妖光していた。

「相想、久しぶり。思い出すの遅くなってごめんなさい」
「もう少し遅いと思ってたが、そんなに俺に会いたかったのか? 俺の事好きすぎだろおめぇら」

 明人はやれやれとわざとらしく肩を落とし、軽口を言い呆れたように眉を下げ二人を見る。

「そうだったら悪いか?」
「私、無意識のうちに相想に会いたがってたのかもしれない!!」

 二人の素直な言葉に、明人は少し驚いたがすぐに眉を顰め「気持ち悪」と零す。

「お前、相変わらずだな……」
「人間そう簡単に変われるわけ無いだろうアホが」
「ここまで変わらないのもすごいと思うけどね。ところで、その目。元々赤かったっけ?」
「あぁ、これな。力の反動だ、気にすんな」
「フーン」

 三人が話していると、ゆっくりと子狐とコウモリが近付いてきた。

「確か、カクリちゃんにベルゼさん──だったわね」

 覚えている名前を彼女が呟くと、二匹は同時に少年の姿へと変わった。
 カクリの見た目は変わらず綺麗で、黒い瞳で二人を見上げる。ベルゼも同じく変わっておらず、本当に時間が経ったのか疑問を抱いてしまう。
 そんな二人のうち一人が、不機嫌そうに彼女を睨みあげており、ベルゼは口元を押え笑う。
 不貞腐れたように彼女を見上げていたのは、ずっと明人と共に行動をして来たカクリだった。

「あれ、なんで怒っているの??」

 何故カクリが怒っているのかわからず、音禰は困惑気味に質問する。

「そりゃーな」
「音禰、呼び方がなんでカクリとベルゼで違ったんだ?」

 明人は呆れ、真陽留は苦笑いを浮かべながらおそるおそる問いかけると、意外な返答により明人は吹き出してしまった。

「え? だって、カクリちゃんは女の子っぽいから──」
「ぶっ!!!!」

 音禰の言葉に明人が盛大に吹いため、それにイラつきカクリは彼の脛を思いっきり蹴り飛ばした。

 ずっと静かだった林に、明人の痛みに耐えるような悲鳴が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...